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読書まとめ『人を助けるとはどういうことか』(エドガー・H・シャイン著)

わたしがオススメする本の重要なポイントをギュッと詰め込み、わたしなりの言葉でまとめています。この記事で紹介するのは『人を助けるとはどういうことか』(エドガー・H・シャイン著, 金井真弓訳, 金井壽宏監訳, 英治出版)です。

本書は、プロセス・コンサルテーションというシャイン教授独自の組織開発法に着目して、「支援」のあり方を見直すことをテーマにしています。本書のポイントを解説していきます。


支援とは何か

シャイン教授は、支援について次のように述べています。

日々の生活の中で、支援そのものが重要な社会的通貨であり、適切な対応がされなければ、不均衡が生じる

p.60

支援は社会のあらゆるところで生まれます。友人に何か相談をし、相談を受けた相手は相談に乗る。これも支援です。自分にはできない仕事をお金を払って誰かを雇い、雇われた人は頼まれた仕事をする。これも支援関係といえます。支援とは、自分以外の誰かの助けによって、問題を解決したり、何かを達成したりすることなのです。

しかし、期待していた支援が行われなかったり、過度な支援を求めたりした場合、信頼が失われます。信頼関係を保つために、適切な支援をし、適切に支援を受けることが大切です。

社会のあらゆる関係性が支援によって成り立っているのです。

支援者の3つの型

支援を求められた人は、支援をする際、「専門家」「医師」「プロセス・コンサルタント」の3つの役割から選択できます。以下、支援をする人を支援者、支援を受ける人をクライアントとします。

(1) 「専門家」型

問題を解決するために必要な知識やスキルを与える役割です。

専門家の役割がうまくいくのは、クライアント自身が問題を正しく認識していることや、クライアントが問題について詳細に支援者に話していることなどが前提条件となります。

また、専門家型の懸念点は、専門家は自分が得意とするものを何でも売り込もうとする傾向があるため、どの情報が本当に役に立つのかわからなくなる恐れがある点です。

(2) 「医師」型

情報提供だけにとどまらず、問題を診断し、それに対する解決策を処方する役割です。

一般的に経営者などが雇うコンサルタントはこれに当たります。組織のどの部分に不具合があるかを探し、何らかの治療プログラムを勧めるか、改善策を処方するのが医師型のコンサルタントの仕事です。

しかし、医師型のコンサルタントを利用するクライアントは、自ら診断して問題解決策を考える責任を放棄するようになり、支援者に依存していく傾向があります。また、診断に必要な情報をクライアントが明らかにしなかった場合、医師型のコンサルタントは適切な診断と処方ができなくなります。
さらに、支援者が下した診断をクライアントが信じたがらなかったり、提供された処方を受け入れようとしなかったりすることもあります。クライアントの中には、問題を解決したい、けれど自分が問題の原因であることを認めたくないというパラドックスな感情を抱いている人もいるかと思います。
どんなに正しい診断・処方であっても、クライアントがそれを受け入れず失策に終わってしまうという問題をはらんでいることを忘れてはなりません。

(3) 「プロセス・コンサルタント」型

コミュニケーションのプロセスに焦点を当て、クライアントがすべてを安心して打ち明けられる環境をつくり、クライアントが自力で問題解決するのを支援する役割です。

信頼関係を築き、クライアントがすべてをさらけ出せるような状況をつくるために、プロセス・コンサルタントは、クライアントの態度や声の調子、ボディランゲージなどに注意を払い、自分とクライアントの関係がどのようになっているかに注目します。

また、問題を抱えているのはクライアント自身であり、自らの状況の複雑さを知っているのも、自分たちの組織で何がうまくいくかを心得ているのもクライアント自身です。そのため、プロセス・コンサルタントは、常に、クライアントが問題解決の主導権を持ち続けられるよう励まし、クライアントの主体性を促します。

プロセス・コンサルタントが行うべき問いかけ

あくまでもクライアント自身が自力で解決できるように、クライアントに主導権を握らせ続け、問題を解決できるという自信を与え続けること。そして、クライアントと支援者が協力できるように、なるべく多くのデータを入手することが、プロセス・コンサルタントが行うべき仕事です。そこで役に立つのが「控えめな問いかけ」です。

控えめな問いかけには4つの形があります。

① 純粋な問いかけ

:不安や情報や感情をさらけ出しても安全だと感じられるような状況をつくり、クライアントが持っている情報を具体的に引き出す。

(例)
何が起こったのか、詳しく話してもらえませんか?
それが起こったのはいつですか?
それに関連して、ほかにも何か思いつくことはありますか? など

② 診断的な問いかけ

:感情や行動の真意をあきらかにする。

(例)
それに対してあなたはどのように感じましたか?
あなたがこの問題を抱えているのはなぜだと思いますか?
それに対してあなたは何をしましたか?
これから何をするつもりですか? など

③ 対決的な問いかけ

:クライアントが思いつかなかったような提案や意見、仮説などを述べる。

(例)
次のようなことはできませんか?(具体的な提案をあげる)
あなたは不安だったからそのような行動をとったのではないでしょうか? など

④ プロセス志向型の問いかけ

:その場で起きているクライアントと支援者との相互関係に視点を移す。

(例)
これまでのところ、私たちの会話の流れをどう思いますか?
私の質問はあなたの助けになっていますか? など


「純粋な問いかけ」によって信頼関係を築き、問題の全体像をつかみながら、「診断的な問いかけ」や「対決的な問いかけ」によって問題解決の糸口を探っていく。そして、適宜、支援者とクライアントの関係性に注目する「プロセス志向型の問いかけ」をすることで、適切な支援ができているか確認する。このような流れになります。

よりよい支援関係を築くために

支援者とクライアントがよりよい関係を築くために、支援者として次のことが大切になることがわかりました。

  • 支援者は、クライアントとの関係性やその場の状況に合わせて、専門家、医師、プロセス・コンサルタントの3つのうちどの役割を担えばいいかを考えながら支援する。

  • しかし、はじめのうちはクライアントも支援者も状況を把握しきれていないうえに、支援関係が不均衡な可能性があるため、プロセス・コンサルタントの役割から始めるのがよい。

  • プロセス・コンサルタントはさまざまな形の問いかけを活用しながら、クライアントが問題を自力で解決できるような支援の方法を探っていく。

以上が本書の要点です。「人を助ける」とはどういうことなのか、理解していただけたでしょうか? 本書は、支援する際に陥りやすい問題点や効果的な支援の実例が、シャイン教授の実体験を交えながら書かれており、組織開発にはもちろん、日常生活にも活かせる要素がたくさん詰まっています。気になった方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?

わたしが選ぶ本書のハイライト

最後に、わたしが本書の中で一番印象に残った部分をご紹介します。

成功する支援関係を築くには、クライアントの立場を確立してくれる支援者の介入が必要である。

p.87

本書を読んで特に印象的だったのは「効果的な支援は、支援者とクライアントが公平な関係であるときに生まれる」という点です。

どうしても、支援者はワンアップ(一段階上)にあり、クライアントはワンダウン(一段階下)にあるという構図が生まれやすいと思います。
特に日本では、人を頼ることを「甘え」や「恥」と捉えられる風潮があったり、支援を表す言葉として「〜してあげる」という文法が存在したりなど、日本ではクライアントがワンダウンを感じやすい文化になっているのではないでしょうか。

本書を読むと、支援者とクライアントが公平な関係であることで信頼関係が生まれ、支援が効果的になると書かれていました。適切な支援が得られていないと感じたらクライアントは支援者にフィードバックする権利があるということ、最終的に決断と実行をするのはクライアント本人だということを忘れてはならないと感じました。問題そのものに意識が向きがちですが、まずは支援者とクライアントの関係性に目を向け、継続的に見直すことが大切ですね。

わたしの支援は本当に相手のためになっているのかな?と、自分の支援のあり方を考えるよい機会を与えてくれる一冊でした。


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