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多様な価値観に触れて問題意識を育てる場【ビブ人名鑑#11:飯島玲生さん】

ビブリオバトル普及委員会で活躍中の方へのインタビュー企画、「ビブ人名鑑」。

今回のゲストは、大阪大学大学院生時代に産声上げて間もないビブリオバトルと出会い、その後の普及に大きく貢献されている、飯島玲生さんです。

ビブリオバトルが広まっていく過程に深く関わり、今もなおビブリオバトル普及委員会理事としてBibliobattle of the Yearなどに携わられている飯島さんから見た、ビブリオバトルとは?

飯島 玲生(いいじま れお)さん
ビブリオバトル普及委員会副代表・理事。Bibliobattle of the Year 表彰委員。大阪大学大学院生時代、2009年から大学を中心に50回以上ビブリオバトルの定期開催を行う。2013年に名古屋大学に移ってからも、ビブリオバトル開催やビブリオバトル講座の講師として活躍。現在は東京都在住。コンサルティング会社勤務兼名古屋大学招へい教員。

ビブリオバトルをイベント型に

ー 現在はビブリオバトル普及委員会で副代表を務めている飯島さんですが、飯島さんがビブリオバトルと出会ったきっかけについて教えてください。

ビブリオバトルを知って開催し始めたのは、2009年です。
当時私は大学院生だったんですが、学問分野の横断的コミュニケーションに興味があり、Scienthrough(サイエンスルー)という学生団体を立ち上げて、サイエンスカフェやアウトリーチなどの科学コミュニケーション活動をしていました。

参考:Scienthroughで実施してきた科学コミュニケーション活動

そのメンバーの一人がビブリオバトルの存在を知り、まず団体内でやってみることになりました。

その頃、ビブリオバトルは京都大学の研究室(通称:片井研)を中心に、勉強会形式で行われていました。
片井研の方々とは面識もなかったのですが、ウェブサイトに掲載してあった情報を頼りに、見様見真似でビブリオバトルをしてみました。
当時は、「5分間で発表した内容をYouTubeにアップロードする」までがルールに含まれていたので、動画を撮影してYouTubeに掲載していました。

その後、「今後も継続してやっていきたい」「そもそもこのやり方で合っているのか」という思ったため、京都大学の片井研にコンタクトを取りました。

すると、ビブリオバトル考案者の谷口忠大さんからお返事が来て、2009年7月4日に、京都の四条河原町の喫茶店でお会いすることになりました。

京都大学での片井研でビブリオバトルをされていた方々にとっては、Scienthroughが初めての理解者だったとのことで、喜んでいただけました。
それから適宜連絡を取り合うようになり、より積極的に普及させていこうということで、谷口さん、片井研のメンバー、Scienthroughのメンバーらが主となり、計10名ほどで2010年にビブリオバトル普及委員会が誕生しました。

飯島さんは、中津壮人さんと同じ学生団体Scienthroughで活動していました。
Scienthroughでのビブリオバトルやビブリオバトル普及委員会設立に関するお話は、中津さんのインタビュー記事からも読むことができます。

ー ビブリオバトルがまだ普及し始めてもいない頃に出会われているんですね。ビブリオバトル自体も、まだ開催形式など今ほど定まっていないことも多かったのではないですか?

発案時のビブリオバトルは、コミュニティの中で勉強会のように開催することを想定していたようですが、Scienthroughではオープンに誰でも参加できる形のビブリオバトルの継続開催を通して、学生、教員、社会人など、多くの人たちが本を通した交流をする場を作っていきました。
後に「イベント型」と呼ばれるようになるビブリオバトルですね。

『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(谷口忠大/文藝春秋)でも、以下のように紹介されています。

現在、大きく分けてビブリオバトルには研究室やサークルなどの比較的閉じたコミュニティの中で開催するコミュニティ型のものと、オープンな場所でイベントとして開催するイベント型のものがあるが、イベント型のビブリオバトルはScienthroughの発明であると言えるだろう。(p. 174)

もともとScienthroughで学術イベントを開催していたからこそ、ビブリオバトルをイベント型で開催しようという発想になったのだと思っています。
今では当たり前のように行われてはいますが、イベント型の定期開催を足掛かりに、ビブリオバトルが様々な形で広がっていくことになります。

ビブリオバトル、躍動。

ー ビブリオバトル普及の黎明期ですね。どんな風に広がっていったんでしょうか?

はじまりは、紀伊国屋書店の方がScienthroughのビブリオバトルの定期開催に参加されたことだと思います。
当時紀伊国屋書店では、著者などが読者に働きかけるのではなく、読者同士がつながる場に本屋がならないか、という問題意識があったようで、「書店でビブリオバトルを開催できないか」というお話をいただきました。

書店での開催はビブリオバトル普及委員会としても希望していたことであり、2010年7月8日に紀伊国屋書店本町店(大阪市中央区)でビブリオバトルを行うことになりました。

広報や店舗レイアウトなどは紀伊国屋書店さんが進め、実際のビブリオバトルの進行や中身はお任せいただきまして、私は当日、司会を行いました。当日は20席ほどしか用意していなかったと思いますが、立ち見も出て70名~80名の方が集まり大好評でした。

このビブリオバトルは書店初開催であり、当日の様子は読売新聞夕刊の一面(2010年7月13日)に大きく掲載されました。
全国大手新聞社に掲載されたことも初めてだったと思います。

ー ついにビブリオバトルが大学を飛び出したんですね!

私の最も印象に残っているビブリオバトルの一つが、この紀伊国屋書店本町店での開催です。

紀伊國屋書店の方によると、従来の書店イベントは、ブックフェア、サイン会、著者講演などが一般的だったそうです。
そうではなく、読者と読者がつながる場を本屋につくれたこと、それに対して通りすがりの方も含めて、多くの人が興味深く聞いていたこと。
ビブリオバトルが、様々な場所で活用されるのではないかと感じた出来事でもありました。

このイベントを一つのきっかけとして、読売新聞社、東京都へと広がっていき、2010年11月に「すてきな言葉と出会う祭典」の中で、はじめてのビブリオバトル首都決戦へと続いていくことになります。

この急速な広がりや新たな展開は、驚きの連続でした。

普及委員会設立の時、一度発案者である谷口さんの邸宅に集まってKPIや目標などを話し合ったかと思いますが、「新聞メディアに掲載する」「テレビのニュースで取り上げられる」など、そのとき遠い将来の目標のように考えていたことが、次々に現実化していきました。

ー 当時の興奮が伝わってきます。

このときの全国への広がりについては、『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(谷口忠大/文藝春秋)にも詳しく掲載されています。

開催と講座から

全国的な広がりを見せる一方、Scienthroughではコツコツとビブリオバトルの定期開催を行いつつ、石橋商店街(池田市)、淀屋橋odona(オフィススペース)、アートエリアB1(京阪電車なにわ橋駅構内のアートスペース)など、様々な場所で開催をしていきました。

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普及促進という点では、Scienthroughのメンバーが広報媒体を作り、ロゴ、ポスターのテンプレート、動画などは今でも誰もが自由に利用することができるようになっています。

また、この時期、普及促進のためということで、「まんがビブリオバトル読本!」という漫画も制作しています。

当時は、紀伊国屋書店の電子書籍アプリ「Kinoppy」がリリースされたころで、「Kinoppy」をダウンロードすると、もれなくこの漫画がコンテンツとして入っている、というようなこともあったかと思います。
なかなか自由な展開を見せていました(笑)

ー Scienthroughの方々は、開催だけでなく普及に役立つ様々なコンテンツを作られたんですね!飯島さんは、その後名古屋に移られたんですか?

はい。
私自身は、2013年3月に大阪大学で博士号を取得した後、名古屋大学に移ったのですが、それからもビブリオバトルに関して2つの活動を行っていました。

一つの活動は、ビブリオバトルの企画をすること。
全国大学ビブリオバトルの地区予選や地区決戦の開催、名古屋市内で数十年以上前から毎年実施している「サンジョルディ・フェスティバル」におけるビブリオバトルの開催などを行いました。
名古屋に移ってからも、ビブリオバトルを通して多くの方と知り合えたのは非常に嬉しいことでした。

もう一つの活動は、ビブリオバトル講座の講師を通した普及活動です。
最初に実施したのは、中日文化センターで開催された「ビブリオバトル入門講座」です。
毎回ビブリオバトルを楽しみつつ、本の内容を理解して人にうまく伝える方法を考える、ビブリオバトルの企画立案をする、というワークショップ形式を取り入れた講座も行いました。

講座は2014年10月~2015年3月の期間だったのですが、講座終了後に受講生の方がビブリオバトルを開催する社会人サークル「名古屋ビブリオバトルの会」を立ち上げて、5年以上経った今でも定期的にビブリオバトルを行っています。
講座を通してビブリオバトルの魅力を知ってもらい、本を楽しむコミュニティができてさらに多くの人にビブリオバトルが広がっていくということは感慨深いです。

ー 講座をきっかけにコミュニティができていくのは嬉しいですね!

また、一宮市立中央図書館で開催されている「子ども司書講座」における”ビブリオバトルをやってみよう”という講座を、2015年から2019年までの5年間にわたって担当したことも印象に残っています。
講座では、「本の内容を理解して人に紹介するという過程を段階的に可視化することで、5分間の発表内容を組み立てて話す」という方法により、小学生が伝えたい内容を整理して発表することの補助をしながら、ビブリオバトルを楽しんでもらいました。

詳細は、『読書とコミュニケーション ビブリオバトル実践集 小学校・中学校・高校』(子どもの未来社)に掲載していますし、関連情報はビブリオバトルHPにも掲載しています。

Bibliobattle of the Yearをデザインする

ー 飯島さんは、Bibliobattle of the Year(ビブリオバトルに関するユニークな活動を発見・周知する表彰制度)にも、設立当初から深く関わっていらっしゃいますよね。

2016年からビブリオバトル普及委員会理事の仕事として、新たに立ち上げたのが「Bibliobattle of the Year」です。
ビブリオバトル普及委員会設立から5年以上経ち、多くの学校、図書館、企業、自治体など、様々な場所でビブリオバトルが活用される中、全国で特色ある活動が多く出てきました。
そうした活動を多くの人に周知することで、各地の活動を盛り上げていければという想いが普及委員会にあり、私は表彰委員長として制度設計に関わりました。

ただ、制度をつくるにあたって権威的になってはいけないと気をつけました。
ビブリオバトルは誰もが自由に楽しめるものであり、やりたい人が自由にやっていけるものです。
「Bibliobattle of the Year」はビブリオバトルに関わる人で作り上げていくものにしたい、という考えから、受賞候補者はビブリオバトルに関わる方から自薦・他薦を受け付ける公募プロセスをとりました。

また、各年度で最もビブリオバトルの発展に寄与した活動となる「Bibliobattle of the Year 大賞」については、すべての方が参加できるウェブ投票をもとにして受賞者を決定するという方法をとることにしました。
大賞候補となる優秀賞の活動をビブリオバトル普及委員会のHPに掲載し、その活動を見てもらった上で、ビブリオバトルに関わる方たちで投票をして大賞を決定するという手順をとっています。

2016年から毎年、20~30件程度の個人・団体が表彰されています。
受賞者の活動の周知についてはビブリオバトル普及委員会で特設ページを作って公開している他、各受賞団体のHPで紹介されたり、メディアなどにも取り上げられています。
受賞者から喜びの声を聞くのも嬉しく、ビブリオバトルに関わるユニークな活動を発見し、周知することで全国の活動を盛り上げていくこの取り組みを、地道に進めています。

今年で5年目となりましたが、2018年からは表彰委員長・益井博史さんを中心に、受賞候補者の推薦をしてくれる方、ボランティアで表彰委員を引き受けていただいている方のおかげで、「Bibliobattle of the Year」が続けられています。

多様な価値観に触れて問題意識を育てる場

ー 飯島さんにとって、ビブリオバトルとは何でしょう?

これまで話してきたように、新しい知、新しい人との多くの出会いを与えてくれたのがビブリオバトルで、私にとって多様な価値観に触れて問題意識を育てる場でした。
ビブリオバトルでは、本を読んで誰が何を感じたかに興味を持っていて、読書体験とは違うものも得られると感じています。

『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』(谷口忠大/文藝春秋)では、以下のように述べていました(2013年頃)。

当時の(Scienthrughの)代表だった飯島玲生さんは言う。
「大学には面白い学問があります。面白い研究もあります。ですが、キャンパス内をふらふら歩いていてもなかなか出会うことができません。そうした中でビブリオバトルは『能動的に面白い学問や面白い人に出会える場』を作っていけると思います。それぞれの専門分野を持つ大学の教員の方々、あるいは本に関係する大学図書館や生協などの組織などとコラボレーションすることによって、多くの学術交流の場を大学に生み出すことができると考えています。」(p. 176)

振返ると、多様な専門分野を持つ方々とビブリオバトルで学術交流をしてきたことは一つの財産になり、地域に飛び出して多くの人と行ったビブリオバトルも貴重でした。
当然、人によって考え方も経験してきたことも違いますし、ビブリオバトルを通して自分の興味関心が広がったようにも思います。

今後も、いつでも誰とでも楽しめるコミュニケーションの一つとして、ゆるく楽しく関わっていけたらと思っています。
また、ビブリオバトルを通した本と人との出会いを楽しむ場づくりにも、ささやかながら貢献していけたらと思っています。

ー ありがとうございました!

ありがとうございました。


「ビブ人名鑑」シリーズでは、ビブリオバトル普及委員会で活躍されている方々のインタビュー記事を不定期に掲載していきます。

どうぞお楽しみに!

お読みいただきありがとうございました。

インタビュー・執筆:益井博史
取材日・場所:2020年9月13日(日)Zoomにて


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