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いつでも戻ってこれる場所を作ること【ビブ人名鑑#10:吉野英知さん】

ビブリオバトル普及委員会で活躍中の方へのインタビュー企画、「ビブ人名鑑」。

今回のゲストは、長らくビブリオバトル普及委員会で副代表を務め、開催回数100回を超える天満橋ビブリオバトルの運営をしながら、兵庫県、大阪府などで中高生大会の運営をサポートし続けて来られた、吉野英知さんです。

ビブリオバトルが研究室で生まれた直後から、傍で見続けてきた吉野さんが思う、ビブリオバトルの面白さとは?

吉野 英知(よしの ひでとも)さん
ビブリオバトル普及委員会関西地区地区担当。2018年まで、ビブリオバトル普及委員会副代表を務める。天満橋ビブリオバトル運営メンバー。天満橋ビブリオバトルは、開催回数115回を数え、Bibliobattle of the Year 2016、2019で優秀賞を受賞している。『ビブリオバトル入門』(情報科学技術協会)監修。経営コンサルタント会社勤務。

ビブリオバトルが生まれた現場で

ー 吉野さんがビブリオバトルに出会われたきっかけは何だったんでしょうか?

2007年、当時京都大学大学院の2年生だったんですが、私が所属していた研究室に、谷口忠大さんがポストドクターとして着任されたことです。

谷口さんが研究室でビブリオバトルの原型を考案し、「面白い勉強会をしましょう」と声をかけていただいて、参加したのがきっかけですね。

考案された経緯は、谷口さんの著書『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』に詳しいので割愛しますが(笑)

ー 吉野さんは最初にビブリオバトルをされていたメンバーなんですね!当時ビブリオバトルの印象はどのようなものでしたか?

大学院のゼミの中で行っていたので、論文を紹介し合うことや輪読会と比べると、エンターテインメントとして面白いな、と思っていました。

ただ、ビブリオバトルの面白さを生んでいる要素や、どういう部分に効果があるのか、ということについては、谷口さんはある程度見えていたと思うんですが、私はまだ整理できていなかったんです。

「面白いけど、継続してできるものなのかな?」という疑問を持ちながらではあったんですが、一参加者として気軽にゲームをしていましたね。

ー そうなんですか!まだゼミの中でしか行っていない状態ですもんね。

その後私は大学院を卒業し、就職したので、そこから2年くらいビブリオバトルから離れていたんです。

その間に、中津壮人さんなど大阪大学サイエンスルーの方々が、ビブリオバトルを活動に導入したり、谷口さんとつながってビブリオバトルを普及させていく動きを盛り上げたりされていました。

編集者注:この流れについて詳しくは、中津壮人さんのインタビューをご覧ください。

ー その頃はまだビブリオバトルと本格的に関わっていなかったんですね!ずっと普及活動の中核にいらっしゃるイメージでした。

サイエンスルーの取り組みについて、話には聞いていた、というレベルです(笑)

またビブリオバトルと関わるようになったのは、中津さんがセカンドラボラトリーという場所でイベントを立ち上げ、その中の一つがビブリオバトルらしい、と伺ってからです。

当時引っ越しをして一人暮らしを始めたタイミングで、新しい家がたまたまセカンドラボラトリーの近くだったんです。
それもあって中津さんが開催していたビブリオバトルにお邪魔するようになり、いつの間にか天満橋ビブリオバトルを運営する側になっていました。

ー 天満橋ビブリオバトルと言えば3名の運営メンバーが中心、というイメージが強いですが、最初はそんな流れだったんですね。

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教育現場への普及

ー 吉野さんは、これまで関西各地の多くの図書館や教育現場などでビブリオバトルに関する講演をされていますが、どうしてそんな活発に普及活動をしていくことになったんですか?

ビブリオバトル普及委員会が設立され、ビブリオバトルの認知度が徐々に上がっていき、普及委員会に講演依頼が寄せられることが増えてきたんです。

そうした講演依頼は基本的に考案者の谷口さんが引き受けていたんですが、一人では対応しきれない面もあり、私が講演に行くという話になりました。

勤務先の了解を得て講演を行いたいと思い、会社に相談した結果、社員としての肩書で講演できることになったんです。
こうした社会活動に寛容な会社で助かりました。
ただ、ビブリオバトルの説明には長い時間がかかりましたが(笑)

そうして比較的自由に動けるようになったことで、講演依頼に対応する機会も増えていきました。

ー その頃には、大学院のゼミにいた頃とはビブリオバトルに対する印象が変わっていたのでしょうか?

そうですね。
天満橋ビブリオバトルでは紳士・淑女のお楽しみ、というスタンスで開催していましたし、ビブリオバトルを教育現場などにも広めていきたい、という気持ちにもなっていました。
講演の対象も、学校司書や教員の方々が多かったです。

ただ、まだ学校に導入された事例がほとんどなかったこともあって、「本当に教育現場でできるのか?」「もっと具体的な手法を教えてくれないと授業でできない」といった、少しネガティブなご意見をいただくこともありました。
私自身が教育現場で働いているわけではないので、それらの疑問に対して確固たる答えを用意できないのが歯痒かったですね。

今では、「ビブリオバトルの導入によってこんなにいいことがありました」と言えるような事例が多くあるので、ずいぶん話しやすくなったように思います。

兵庫県と大阪府で大会を開く

ー 特に印象に残っている講演はありますか?

二つあって、一つは2013年に兵庫県教育委員会からお声がけいただいて行った、読書活動推進フォーラムです。

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これは兵庫県の各地でビブリオバトルの予選を行い、最後に神戸市で決勝戦を行う「ビブリオバトル甲子園」という企画でした。

県内といっても、北は日本海に面した豊岡市から南は淡路島まで、会場はとても広範囲でした。
期間中の10月から11月にかけて、土日はほぼどこかの会場でビブリオバトルに関する講演と予選を行う、キャラバンをしていましたね。

ー 過酷そうですね…!

そうですね(笑)
でも、当時ちょうどビブリオバトルに火がつきはじめた頃だったので、とても印象に残っています。
地域に根ざした普及活動が必要なタイミングだったと思うので、その現場に立ち会えてよかったと感じています。
そのとき一緒に回らせていただいた教育委員会の職員の方とは、今でもやり取りを続けていますね。

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もう一つ印象に残っているのは、この兵庫県のフォーラムをご覧になった大阪府教育庁の職員の方にお声がけいただいて、2015年から行うことになった、大阪府のビブリオバトル中高生大会です。

大阪府の方では、夏に教職員を対象にしたビブリオバトルの講習を行い、二学期には各学校で予選が開かれ、年末にビブリオバトルの大会に出場していただく、という内容になりました。

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こちらは5年間関わらせてもらったんですが、年を追うごとに参加校数や参加者数、そして認知度が上がっていき、大きな大会にして育てていただいたことでとても思い出深いです。

大阪府では、もともと読書習慣のある生徒の割合が全国平均を下回っていたことが課題とされ、ビブリオバトルに関心を持っていただいたんですが、こうしたイベントの開催はまったく手探りの状態でした。

教育庁の考えとビブリオバトル普及委員会としての考え、そして教員の方の考え、生徒の方々の考えを徐々にすり合わせ、今の形ができあがっています。
一筋縄ではいかない苦労もありましたが、今振り返ってみるとやった甲斐があったと思えますね。
もちろん私一人の力ではできなかったことです。

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勉強が得意な生徒は定期試験、運動が得意な生徒はスポーツといった、それぞれが活躍できる場があります。
一方、本を読むことに長けた生徒が活躍できる場を作ることを、ビブリオバトルは可能にすると思っています。

運営に携わる中で、多くの学校でビブリオバトルを導入するための起爆剤として、こうした大きな大会を行うことには高い価値があると気づきました。
また、大会をきっかけにビブリオバトルを知った方も、いつかどこかのビブリオバトルで活躍できる機会が広がったのではと思います。

大人が学ばされる本への向き合い方

ー 数々のビブリオバトルを経験されていらっしゃいますが、最も印象に残っているゲームはどれでしょう?

参加した回数が多いので、単体のゲームとしてはなかなか決めるのが難しいですが…。

先ほどお話した大阪府の取り組みとして行った、ある年の中学生大会の決勝戦でしょうか。
大勢の観客の方がいらっしゃっている中、私が司会進行をしていました。
バトラーの生徒さんたちは緊張されていたと思うんですが、堂々とお話されていましたね。

印象に残ったのは、中学生のバトラーの方々が発する言葉のまっすぐさです。
天満橋ビブリオバトルなんかは特にそうなんですが、大人がビブリオバトルをすると、どうしても変化球というか、癖のある発表や選書になりがちなんですよね。
もちろんそれが面白いポイントではあるんですが、中学生のまっすぐな発表を聞くと、瑞々しい感性にはっとさせられました。

「友達って、必要だと思いますか?」という質問を投げていたバトラーさんがいらっしゃって、「ああ、そんな純粋な気持ちで本を読んだのは何年前だろう…」と反省させられましたね。
こういうビブリオバトルもいいなあ、と思えたんですよ。
中高生の方々に本との向き合い方を教えられることは多々あるんです。

あ、もちろん天満橋ビブリオバトルにお越しになっている方々の感性が瑞々しくない、と言っている訳ではないですよ!(笑)

いつでも戻ってこれる場所

ー 今後、ビブリオバトルとどのように関わっていこうと考えていますか?

当面は、今やっている天満橋ビブリオバトルを継続させていきたい、と思っています。

仕事やプライベートに大きな時間を割かなければならない時期に差し掛かってしまい、最近は講演や事業のサポートなど、大きな規模の普及活動からは身を引かせていただいています。

ビブリオバトルは、老若男女誰でもできるものなので、ライフステージに合わせ、密接に関わる時期もあれば、あまり時間を割かない時期を設けるといった調整が簡単にできます。
ブランクが生じたとき、すぐに復帰できることも、ビブリオバトルの魅力の一つだと思っています。

いずれまた、講演などで広くお話させていただいたり、大きなイベントのお手伝いができれば、とは考えていますね。

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ー 吉野さんにとって、ビブリオバトルとはなんでしょう?

サードプレイス、だと思います。

ビブリオバトルでは、仕事や家庭とは違うコミュニティとして、人間関係ができていきますよね。
仕事からは得られない刺激や考え方を得られる世界だと思います。
ビブリオバトルを通して、本だけでなく、そうした世界、人とのつながりを、たくさん作ってもらっていると感じています。

ー ありがとうございました!

ありがとうございました。


天満橋ビブリオバトルのページ

吉野さん監修の『ビブリオバトル入門』

「ビブ人名鑑」シリーズでは、ビブリオバトル普及委員会で活躍されている方々のインタビュー記事を不定期に掲載していきます。

どうぞお楽しみに!

お読みいただきありがとうございました。

インタビュー・執筆:益井博史
取材日・場所:2020年8月29日(土)Zoomにて

※画像はすべて吉野英知さんにご提供いただきました。

よければサポートお願いいたします。いただいたサポートは、(一社)ビブリオバトル協会の運営資金として、ビブリオバトルの普及活動に活用させていただきます。