お花さん役をやりたかった6歳の私
私は、幼い頃のことをよく覚えている方だ。
私の通っていた幼稚園では、毎年お遊戯会があった。
クラス毎に劇をする、ごく一般的なもの。
少し一般的ではなかったのは、同じ劇を2回披露する場があった点かもしれない。
1回目が、コンサートなども開催されるような市民会館で行う本番で、
2回目は、幼稚園の教室で、生活発表会のような形で行われるものだった。
年長さんのときの、少し悲しい記憶がある。
年長さんのとき、私のクラスの劇の物語は
カッパが旅をしながら、さまざまな動植物と出会う話だった。
題名は思い出せず、調べてもわからなかった。
役として思い出せるのも、主役の「かっぱさん」と
「お花さん」と「蝶々さん」だけ。
どの役も複数人がやることになっていて、人数の上限は決まっていた気がする。
そして、女の子の人気は「お花さん」と「蝶々さん」に集中した。
当時6歳の私でも、それはそうなるだろうな、と思った記憶がある。
役はジャンケンで決められた。
そして、私は運良く、第一希望だった「蝶々さん」役をゲットした。
「蝶々さん」役の衣装はとても可愛かった。
羽根をイメージした、透け感のあるマントを肩にかけたのを今でも覚えている。
本番が終わり、2回目の発表会の準備が始まる頃、
私のクラスでは、もう一度役決めをすることが決まった。
もちろん、1回目が「蝶々さん」役の子は「お花さん」を希望し
1回目が「お花さん」役の子は「蝶々さん」を希望した。
私も例外ではなく、「お花さん」を希望した。
そして、今回も運良くジャンケンに勝ち残り、「お花さん」役をゲットした。
しかしここで事件が起こった。
1回目に「かっぱさん」役だったある女の子が、
2回目のジャンケンにも負け続け、また「かっぱさん」になってしまったのだ。
確か、「かっぱさん」役は7人だった。
彼女が泣いていたのを覚えている。
でも、仕方がない、ルールだから。
しかし、先生の判断は違っていた。
先生は私を名指しし、
「〇〇ちゃん、かっぱさんに変わってあげられるよね?」
そう言ったのである。
断ることなんてできなかった。
その女の子と同じ6歳のはずなのに、
私は嫌だと駄々を捏ねて泣くことができなかっだ。
家に帰って、母の胸で泣いた。
その後のことはよく覚えていない。
あのとき、なぜ先生があのような判断をしたのか、当時の私には分からなかった。
そして、数十年経って大人になった今でも、正直わからない。
私は確かに、誕生日が早い分成長も早く、
少ししっかりしていて、聞き分けの良い子だった。
でも、その子と同じ6歳だった。
幼稚園の先生が、とても大変な仕事なことは十分理解している。
さまざまな場面で、苦しい判断をしないといけないこともあるだろう。
でも、当時わずが6歳だった女の子に
その後数十年経っても、心につっかえて消えず
思い出すと心がキュッと締め付けられるような、
悲しい記憶をつくらせてしまったのも事実なのである。
あの出来事を無かったことにはできないから、
未来から伝えたい、
我慢できて偉かったね。
河童さん役、よく出来てたよ。