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#特別編 東京都庁舎プロジェクションマッピング『TOKYO CONCERTO』クリエイター対談

✔️ギネス認定の超巨大マッピング制作秘話
✔️一流のオーケストラと美麗な映像で「東京」を再構築
✔️いま大注目の作品をより楽しむことができる必見のインタビュー

【TOKYO Night & Light】
東京のランドマークの一つである都庁第一本庁舎をキャンバスに、光と音で多彩なアートを表現するプロジェクションマッピングを通年で上映。

東京の夜を彩る新たな観光資源としてスタートした『TOKYO Night & Light』。2月下旬から始まって以降、その来場者数は6万人を超え、休日には数千人の観客が都庁舎に訪れる注目のイベントとなっている。

東京都庁舎へのプロジェクションマッピングは史上初となり、その投影面積は13,904.956㎡というこの巨大プロジェクトは「最大の建築物へのプロジェクションマッピングの展示(常設)」としてギネス世界記録に認定された。

休日に流れる映像コンテンツが、カラーズクリエーション代表の石多未知行による企画演出のもと、所属クリエイター3組により制作された『TOKYO CONCERTO / 東京協奏曲』である。

TOKYO CONCERTO / 東京協奏曲 
東京の魅力が音楽と一緒に「協奏」するコンセプトで生み出された壮大なプロジェクションマッピングショー。 東京のさまざまなエッセンスが凝縮され、三つの楽章を通じて過去から未来へと駆け抜けていきます。

今回はその制作メンバーと、3楽章に及ぶ壮大な楽曲を作り上げた高橋英明氏を迎え、上映初日を終えたクリエイター陣による対談を実施した。

高橋氏はチームラボとの関わりも深くteamLab Borderlessをはじめとしたイマーシブミュージアムの音楽を担当するなど、映像空間演出の最前線で活躍を続けている。
カラーズクリエーションとの共同制作は、2020年に実施した「沖縄交響曲」以来となった。

作曲:高橋英明(左)
総合プロデュース:石多未知行(右)

対談に参加いただいた『TOKYO CONCERTO / 東京協奏曲』制作メンバー
企画・演出・監督:石多未知行
作曲:高橋英明
◯効果音制作:生水真人 (FLIGHTGRAF)
第1楽章「自然からの創造」 映像制作:DecideKit / タイ
メンバー (愛称):Jib、Ti、Mo
◯第2楽章「文化の多様性」映像制作:AVA Animation & Visual Arts / カナダ
メンバー:Pedro、Emma、Rock
◯第3楽章 「技術と未来」映像制作:FLIGHTGRAF / 日本
メンバー:冨吉剣人、都築七海

(敬称略)
TOKYO Night & Lightのオープニングイベントを終え、一堂に会した「東京協奏曲」制作メンバー

プロジェクションマッピングとオーケストラの共演

─このプロジェクトが始まった当時のエピソードなどはありますか?

石多:この場所でマッピングを作成する際に、最初に検討すべき点は作品の長さでした。長尺の作品を求められながらも、映像制作としては長くて10分程度がベストだと考えていました。
ただ音楽制作の観点から見ると、短い時間で壮大な楽曲を展開するのは容易ではありませんでした。交渉や検討を重ね、バランスの取れた作品尺に収まったと思います。

当初から考えていた、マッピングに合わせたオーケストラの生演奏も無事に実現することができて、感慨深いです。

上映初日に開催されたオープニングイベントでは、マッピングに合わせたオーケストラの生演奏が披露された。

─今回は各楽章ごとに3組のクリエイターが映像を担当しましたね。

石多:はい、これまで積み重ねてきたプロジェクトで皆さんの持つ個性やスキル、表現力について深く理解しているため、他の人に依頼することは考えられませんでした。
このメンバーだからこそ、綿密な打ち合わせを通じて可能性やアイデアを探求することができたと思います。

東京協奏曲の制作を終えて

─初めて実際の上映を見た感想を教えてください。

Jib(DecideKit):私たちはタイで制作活動をしているので、制作中に東京都庁の実物を見ることはできませんでした。事前にいただいた参考資料やデータを元に、自国でひたすらイメージを膨らませながら作っていたものがオープニングイベントで上映された時、やっと現実と認識することができました。
世界最大級の投影サイズということで、マッピングを普段から制作している私たちでも胸が高鳴りましたね。

Emma(AVA):ただの壁面ではなく投影面の大半が窓になっていると聞いていたので、どのような映像の見え方になるか、入念にテストや打ち合わせをしながら制作していました。
本番当日、そのサイズと迫力、現場の明るさや雰囲気、投影に使用されている技術を味わうことができたのは素晴らしい経験でした。私たちの狙いが実現したという喜びを感じました。
Pedro(AVA):いろいろなイベントや建物に向けた映像を作る私たちにとって、実際の上映を見る時間はある意味答え合わせのようであり、ご褒美のようなものです。初上映を見た時は自分たちのアイデアがうまく表現できていると確信できました。メッセージが伝わって本当に嬉しいです。 

生水(FLIGHTGRAF):初日は雨の中での上映でしたが、言葉を失うような大きさ、迫力でしたね。お客さまも声を出して感心してくれているのが伝わりました。

冨吉(FLIGHTGRAF):また、今話してくれた通り、私たち以外は海外で活動しているチームなので、実際の建物を見られないことについてある意味心配していました。この建物の巨大さをどう説明したものかと。。。
皆さん建物の形を活かした鮮明なマッピングを作るプロフェッショナルなので、より効果的な映像を作りやすいように制作フォーマットの中心点を設定して、共有した経緯があります。

注目してほしい「最大のこだわり」

─第1楽章はこの国の興り、太陽が昇るシーンから始まり、美しい自然が描かれていますね。

Jib:はい、「自然からの創造」というテーマをいただいたので、東京にある自然をリサーチするところから始めました。
私たちDecideKitは作品の中で植物や自然の表現を扱うことが多いため、ある意味得意な分野でもありましたが、ディテールを詰めていく中で、東京の自然を描くためにはこれまで作ってきたどの映像とも異なる要素が必要だと感じました。
映像を一目見た時に、日本的な印象を受けるような画面作りをしたかったのです。

日本の絵画や映像を通して、この国の人々にとって自然とはどのようなものだったのか、そしてどのように描かれてきたのか…ということに思いを馳せ、他のどこでもない「東京」をプロジェクションマッピングで描くことに挑戦しています。

─第2楽章「文化の多様性」はどんなことを意識していましたか?

Emma:まず、私たちは家族で何度も東京に訪れていて。この街を愛しているということを伝えたいです。
東京に来た時の視覚的な刺激は、私たちのようなデザイナーにとって、ひいては芸術的精神にとっての糧のようなものです。
東京では常に新しい何かが起こっていて、街中に色彩、キャラクター、アートが溢れている中に、伝統的な文化も共存している。まさに伝統と革新が融合した、魔法のような景色こそが「東京」の魅力だと思うのです。
私たち外国人の目を通して見ているからかもしれませんが、訪れるたびに驚きをくれるこの街が大好きなんです。

Pedro:東京に対する愛情や感謝の気持ちを伝えるためにはどのような表現がよいか、改めて考えました。
そして「この街の魅力はここに生きる人々が作り出していることを忘れてはならない」という思いに辿り着きました。それが、第2楽章にキャラクターがたくさん登場する理由です。
学生、警官、店員、医者、男性でも女性でも、どんな人でも、誰もが全身全霊で生活を営んでいる。その素晴らしさをキャラクターたちの動きや振り付けで表現したかったのです。

石多:この場面の圧倒的な情報量の多さは、巨大なマッピングが活きていて素晴らしいですよね。

Emma:そして2楽章の最後は盛大なパレードのように文化を繋いでいく…。
50以上のキャラクターで描く、前向きなメッセージを感じ取ってくれたら嬉しいです。

─第3楽章はクライマックスに向けて大きく雰囲気が変化しますが、どのような映像を意識しましたか?

都築(FLIGHTGRAF):第3楽章では、マッピングらしさというより映像作品として映える作り方を目指していて、その中でも随所で建物を活かした表現がなるべく面白くなるようにこだわりました。

冨吉:高速道路や鉄道の要素など、建造物のビジュアルを多く取り入れて。それぞれがパズルのように展開していく映像になりました。
ビジュアルで東京を再構築するにあたって、サイバーパンクの雰囲気や、映画「AKIRA」の美術も参考にしています。

時代の変遷を描く、3楽章に及ぶ楽曲

─音楽面においては、全体的にどのようなことを意識されましたか?

高橋:音楽面でまず求められていたものは、1〜3楽章にかけて段階的に変遷していく”時代”を表現すること。そして音楽のスタイルも楽章ごとにガラッと変えてほしいというオーダーをいただいていました。
第1楽章はクラシカルなスタイルで壮大な始まりを予感させ、第2楽章は"スカバンド"の編成を採用して人間の活動や文化の盛り上がりを表現し、特にリズムの変化を強調しました。第3楽章ではテクノミュージックをベースにさまざまな音が重なり、まだ見ぬ時代へ前進していく東京をイメージしています。
特に第2楽章は「祭り」の要素を入れたいと話していて、さりげなく「東京音頭」のモチーフを忍ばせたりしています。よく聞いてみないとわからないレベルですが。

─そして、楽曲の所々には効果音を入れていますね。

生水:東京をテーマにした映像作品に必要な効果音ってなんだろう…?と最初はかなり考えました。
特に第1楽章は自然を表現している場面が続くので、どのような音が相応しいだろうかと考えいるうちに、3年前に都内で環境音をレコーディングしたことを思い出しまして、、、その時の音源を作品に使用しています。

─その環境音というのは、具体的にはどんな音だったのでしょうか?

生水:小川の流れる音ですね。東京の青梅市というところで昔録音したものがまさかここで活きるとは思っていませんでしたが、実際の東京の音を見つけ出して使うことができました。

─3楽章の途中では、人々の声のような音が聞こえきますよね。

生水:これは未来的な印象を表すために、AI生成した人の声を使用しています。
日本語やドイツ語、フランス語などを混ぜて、今以上にさまざまな言語が飛び交うボーダレスな未来の東京をイメージして制作しました。

─3楽章からは音楽にもコーラスパートが入っていますが、これも未来的なイメージを表現したのでしょうか?

高橋:はい、いわば東京の未来に向けた"賛歌"のような、前向きな聞こえ方になったらいいなと考えました。

─確かに希望や祈りというか、明るいニュアンスを想起させる歌声ですよね。

高橋:そうですね、制作当初はボーカロイドの音声で表現しようかというアイデアもあったのですが、録音の際に人の声で収録したコーラスがとても良い響きになったので、最終的には人の歌声を使っています。

─改めて、今回はありがとうございました。

石多:本当に皆さんありがとうございました。
制作期間も短い中で、ここまで壮大で美しい作品を完成させることができたのは皆さんのおかげです。
ぜひ東京の新たな観光名所としてアピールしていきたいですね。

─ちなみに、今後都庁舎で実現したいプロジェクションマッピングの構想はありますか?

石多:これからも世界中の人々に注目されるよう、オーケストラのみならずさまざまな音楽やコンテンツ、時にはパフォーマンスも組み込んで、多様で魅力的なコンテンツを体験できる場を作り上げていきたいです。


東京都庁舎への常設プロジェクションマッピング『TOKYO Night & Light』は通年実施され、期間中は毎日上映される。
クリエイターのメッセージを知った上で、休日に上映される「東京協奏曲/TOKYO CONCERTO」の迫力をぜひ直接体感してほしい。

文・翻訳・インタビュー:坂井博(COLORs CREATION)
インタビュー時通訳:藤波美佐江(COLORs CREATION)

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