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Too late to say

ふいに花が香った気がして振り向いたら
記憶の向こうで
やっと彼が手を振ってくれました。

いえ
やっとのことで手を振ったのは
わたしの方だったのかもしれません。

前の夫と6月に離婚したことだけは憶えているのだけれど
離婚したのが何年前になるのか
数えたこともないし
これからもあやふやなままだとおもいます。

ただわたしは彼のもとを去り
今、豊島にいる。

それだけのこと。

「月が綺麗だね」って
もう決して彼には言えないことがすこし寂しいだけです。

そういえば『図書館の魔女』の4巻を
読みさしのまま実家に置いてきたなって。

もう三十路も過ぎてるのにわからない言葉が多すぎて
難しい言葉を辞書で調べながら読んだこと。

知らない国に行ってみたいと思ったこと。

ジャスミンの香りに
彼を重ねたこと。

人生は戻れない瞬間の連続だということ。

思い出してみてもたしかにあたたかい時間だったこと。

なぜ離婚したのかと問われたら
答えられないかもしれないし
もうそれでいいとさえおもっています。

しあわせがなんなのか
わたしには一生わからないままなのでしょう。

でもわからなくてもいいことはたくさんあるし
しあわせがなにとはわからなくとも
今自分がしあわせだということだけはわかってしまった。

あの場所にいたままではわからなかったから。

だからありがとうと言いたいです。

わたしを遠くへやってくれてありがとう。

わたしを失ってくれてありがとう。

残酷なまでに身勝手なわたしを
それでも愛していけるのはわたしだけなので
わたしは今日も貴方なしで昇る朝陽を見ています。

隣にはわたしが選び取った今が居る。

わたしはあいしていくことも憎むことも許せるようになった自分を
ずっと忘れないでいようとおもいます。

わこ


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