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僕の隣に。

君はいつでも生きるのが上手くない。
そんなところが好きになったといえば、間違いではないのだけれど。
僕だって生きるのが上手くない。落ち込んでは何度もホームに足を向けていた。君と出会う前
は。

それは晴天のある日。花屋の店先に並ぶ数多くの花たちを、恨めしげに眺めていた時、その花にも負けない笑顔を向けてくれたのが、君だった。一目惚れというのは、こういうのを言うんだな、そう感じた。というか、その笑顔につられてポピーの花を一輪買ってしまったのだけど。
それからというもの、花屋に足繁く通う僕を覚えてくれた君。最初は僕から連絡先を聞いたんだっけ。

僕の熱烈なアプローチあってか、付き合うまで時間はかからなかった。その時の僕はもう、ホームに落ちようとは考えていなかったんじゃないだろうか。

君との出会いは衝撃的だったけど、別れはもっと衝撃的だったよね。なにが原因か、いや、僕がきっかけになったのは分かっている。
君が生きるのが上手くないと知ったのは、付き合って半年もしないうちに理解していた。僕と一緒だったことに嬉しく感じて、支えあってきたつもりだった。

始めはタイミングが合わないことからだった。
デートの予定、電話の時間、とにかく何もかも合わなかったことを覚えている。それでも僕は君を愛していたけどね。
1年と少し経ったころ、君から別れを切り出された時は頭に硬い岩をぶつけられたくらい心臓が痛くて、目の前が車のヘッドライトを一斉に浴びたかのようちかちかと点滅していた。
僕が無自覚のうちに君を傷つけていたこと、その瞬間にわかった。なぜ、その時気づいてやれなかったのか、今でも理解できないのは生きるのが上手くないからなのかもしれない。

話し合いの結末は、綺麗な花の散り際のようにはらはらと、茎だけが残った。つまり、僕が未練を残したまま、終わってしまったということで。

君のことは、きっと1年も経てば忘れるかもしれない。今までの恋愛を思い返すと、確かに忘れて次に進んでいた。どんなに好きでも、愛していても。今回も、もしかしたら、茎も葉っぱも、枯れていくのだろうか。

忘れたいと願って、あてもなく歩く。
ふと、顔を上げると、君といつか来た海まで歩いていた。こんなに歩いたのか、自らが歩いてきた道を振り返る。

海へ視線を投げれば、水平線の向こうへ、日が落ちようとしていた。それは君と初めて会った花屋の店先で咲いていた、ポピーの花のように、暖かかった。

自然と涙がこぼれた。どうすればよかったかなんて、僕にはわからない。

"愛してる"

つぶやいた僕の隣に君はいない。

まだ、忘れなくていいだろうか、あの太陽は落ちていくけれど、もう僕はどんなに行き方が下手だろうと落ちていかないから。

だから、まだ君のことを好きでいていいだろうか。

#ショートストーリー #小説 #恋

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