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都内で開催中のオススメ展覧会。ターナーとコンスタブルの「戦い」の行方は?

風景画の巨匠・コンスタブルの展覧会を観てきました。
コンスタブルは19世紀のイギリスの風景画家で、ターナーと共に、イギリスの風景画界を大きく発展させた画家です。

ターナーとコンスタブルの「戦い」とは?

二人は同世代の画家で、ターナーの方が一歳年上。ターナーは旅をしながら、国内外の風景を膨大な量の素描に収め、油彩画にしていきました。

一方、コンスタブルは、日常の中の風景を描いています。故郷の田園風景や、家族や友人たちと過ごした思い出の土地。観ていると、どことなく温かいものを感じるのは、そうした画家の心象が伝わってくるからかもしれません。
今回の展示作品で、代表作の一つでもある「フラットフォードの製粉所」は、父親の所有する製粉所の風景。馬にまたがる小さな男の子は、幼少時代の自分自身を描いたものだと言われています。

展覧会の目玉の一つは、ターナーとコンスタブルの因縁の戦い(?)のようです。
1832年のロイヤルアカデミー展で、二人の作品が並べて展示された時のこと。ターナーは、寒色の海の風景画の横に、コンスタブルの華やかな色彩を散りばめた大型作品が展示されたのを知って、会場で自分の絵に人目を引くよう、赤いポイントを後から描き込んだのだそうです。

二作品が揃うのは、ロンドン以外では初めてだそうです。二作品を見比べながら、当時の様子を想像してみるのも楽しいかもしれません。

会場入り口

本家・テート美術館の、意外に知られていない楽しみ方

テート美術館は国内の画家の作品を中心に所蔵した美術館で、ターナーの作品が多く所蔵されていることで特に有名です。

ターナーの作品はとてもドラマチック。私は海や船のモチーフが好きということもあり、様々な海と空の表情が、ダイナミックに表現された作品群を前に、圧倒されました。具象と抽象が入り混じったような、動きのある表現にも惹かれます。画家が使った画材一式も展示されていて、巨匠を身近に感じることができました。

そして、コンスタブルの絵の前に来たとき、ターナーとはまた違う、自然のリアリティを感じました。大地と森の深い伊吹。どっしりとした大地に、細部までていねいに描き込まれた森。
「この人は風景が好きなんだな、、、」と実感。好きでなかったら、こんな絵は描けない。そして、そこで「フラットフォードの製粉所」の原画を初めて観ました。その時から、テート美術館は私にとって、特別な美術館になりました。

特筆すべきは資料室です。
館内の展示を一通り見終わった後、たまたま資料室へ行ってみたら、画家たちの下絵や素描が大量に保管されていて、なんと、希望すれば観させてもらえるとのこと…! 鑑賞できる作品は展示室だけではないんですね。地元の人たちが羨ましくなりました。
館員さんに「誰の作品が観たいですか?」と聞かれて、コンスタブルをリクエスト。閉館まで、時間いっぱい観させていただき、名残惜しく美術館を後にしました。

「自然は、あらゆる創造力が湧き出る源泉」。


初めてロンドンで「フラットフォードの製粉所」を観たとき、とても感動しました。というのも、この絵には特別な思い入れがあったからです。

私は風景画が好きで、中学の時にミレーの「落穂拾い」、高校の時にコローの「モルトフォンテーヌの思い出」、そして美大の時にこの「フラットフォードの製粉所」を模写しました。
その時は模写というより、素材として選んだという感じです。画集から元絵を拡大コピーして、大判のキャンパスに、1ミリほどの細い横ラインを使って、色の線だけで絵を再現。ライン上のどこにどの色がのっているか確認しながら、時間をかけての作業で、隅々まで色を分解して観察しながら仕上げました。

今回の展覧会で、響いてきた、コンスタブルの言葉がありました。
「自然は、あらゆる創造力が、湧き出る源泉」。
その本質を探るべく、コンスタブルは、戸外での作品制作にこだわったそうです。印象派の画家たちが、光や色を捉えようとして外で制作したのとは、また、視点が違うのですね。

私も、風景や自然のものを描くとき、自分の中に、両方の視点を感じます。色を捉えて画面構成したい感覚と、対象の中に神秘を見出したい感覚と。私はケースバイケースで描き分けています。
今回の展覧会を観て、私が彼の何に引かれて模写の素材に選んでいたのか、理解が深まりました。

………

[展覧会情報]
テート美術館所蔵「コンスタブル展」
会期:2021.2.20(土)〜5.30(日)
会場:三菱一号館美術館(東京駅から徒歩5分)

日本では35年ぶりの回顧展で、テート美術館から、大型の風景画や肖像画などの油彩画、水彩画、素描、約40点のほか、同時代の画家の作品20点を展示中。国内所蔵の習作を含むと、全85点になります。

私は時間の関係で、2時間半で観ましたが、ちょっと時間が足りませんでした。3〜4時間みておけば良かったと反省。風景画がお好きだったら、ぜひ、時間に余裕をみてお出かけくださいね。

結婚式


会場は19世紀に建てられた、ジョサイア・コンドル設計の洋館。素敵なカフェもあるので、ぜひ時間を確認して利用してみてください。私が訪問した日は、中庭で結婚式が行われていました。緑のある癒しの空間です。


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