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先輩に捨てた夢を突きつけられた話

いつからか、小説家に憧れていた。
思い返せば小学一年生の頃、担任に作文を大層褒められた経験だけが私の取り柄だ。
それだけに縋ってきた。だからそれを活かしたかった。
けれどそのためには、相当な努力と覚悟が必要である。
私は怖気づいた。いや、面倒臭がったと言ったほうがいいかもしれない。
とにかく、抱いた夢はポリバケツの中に閉じ込めた。
そうして逃げて、完全に諦めた。
そのはずだった。

私は文芸部に所属している。
先日、その部長とたくさん話す機会があり、すっかり意気投合した。
彼の人柄を知れば知るほど、彼の文章が愛おしくなった。
私はすっかりファンになってしまったらしい。
事件が起きたのは、それからしばらくして、彼が自分の将来についてまとめたスライドを見せてくれた時だ。
彼の夢は、小説家だった。
「諦めるかどうかの瀬戸際」と苦笑する彼に「まあまあそんなこと言わずに」と後輩らしく振る舞ってみせる。
その裏で、醜い感情が芽生えたのを感じた。
「どうして私じゃなくてこの人が小説家を目指してるの?」
嫉妬とも怒りともつかない情動が、今日まで波のように襲っては私を苦しめている。

正直、私は書き手としての彼を尊敬しているが見下してもいる。
たとえば、私が見た自分と彼の実力を同じ100としよう。
ストーリーやキャラ作りにおける引き出しの多さでは彼が70、私が30だ。
しかし読みやすさや「てにをは」の使い方ではそれが逆転する。
一見矛盾する感情の内訳はこうだが、問題は後者が(少なくとも私の場合は)書き続けるだけである程度なんとかなってしまうことだ。
彼は私よりも執筆歴が数年短い。
つまり今の私の執筆歴に彼が追いついた時、見下していたはずの相手に力量で大きく差をつけられているかもしれないのだ。
「追い越されそうで怖いんですよ!」
先日面と向かってこう吐露したところ、彼はそれに否定を返しつつも「俺はまだ開花してない」と自己評価していた。
私はその言葉で、自分の文才に焦りを感じた。
おそらく、人生で初めてである。
(このままじゃいけない)
切実にそう思った。今のうちに彼を追い越さねばならないと。
そして、彼が夢を追うのならば私もそうすると決意した。
そうでなければ、同じ土俵に立ったことにならない。
ひとまずの目標は「形態は問わず、自分の文章で出版社から本を出すこと」だ。
そしてできれば、小説家と名乗れることを目指す。
そうすれば、私は胸を張って彼と向き合えるはずだ。

最後に、ここまで読んでくださったあなたに感謝を。
あなたが夢に対してポジティブな感情を抱けますように。


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