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Peter Savilleと子供時代の短パン

先日、ふとユニクロに行った時に、Peter Savilleをデザイナーに迎え入れたDATALIFEというシリーズがあることを知った。

Peter Savilleといえば、80年代にマンチェスターで誕生したFactory Recordsでの仕事を中心に、Joy DivisionやNew Order、Suedeなどイギリスを代表する数々のバンドのアートワークを手がけてきたグラフィックデザイナーだ。

20歳前後の頃にそれらのバンドから彼の存在を知った僕は、そのアイデア、ビジュアル的な美しさ、一見しただけで引き込まれる魅力的なデザインに夢中になっていた。

そんな彼がユニクロとコラボレーションしていたとは……。店頭で1人興奮した僕は、それらの衣類を次から次に手に取りじっくりと見回した。Peter Savilleらしいコンセプチュアルでデジタルな雰囲気が繊細に施されたデザインだ。

これは……買うべきやつでは……。と心の中に声が聞こえる。しかし、その日、僕は洋服を買うつもりが全くなかった。衝動買いはあまり好きではない。それで後悔したことがこれまでの人生で何度あったことか。

……と数秒迷ったが、すぐに僕はショートパンツを手にとってレジに向かっていた。推しのアイテムを買うのはファンとして当然の行為。憧れのグラフィックデザイナーを推し扱いしてスムーズに品物を購入した。

帰宅後、さっそくショートパンツを履いてみた僕は、その履き心地の楽さに驚いた。トレーニングウェアのようにメッシュを活かした素材だったので、たまに走る時にでも履くかと思っていたのだが想像以上に履き心地が良い。結局、その日は一日、買ったばかりのショートパンツを履いて過ごした。

そして2日後、僕は洗い立てのそのショートパンツをまた履いていた。

その通気性の良さは、ここ数日の茹だるような暑さに最適で、願わくば24時間、毎日履いていたい。そんな事をぼんやりと思うと、子供の頃はこんなジャージみたいな素材の短パンを、夏の間ずっと履いていた事を思い出した。

今みたいなハイテクノロジーを取り入れたドライ素材ではなく、ただのジャージ素材のパンツだったのだが、暑い日差しの中、外を駆けずり回る子供には最適な衣類だった。

子供の頃はとにかく機能性を最も重要視していた気がする。だんだんと成長するにつれて、機能性よりもデザイン性に比重が置かれるようになった。自分にとっての快適よりも、他人からどう見られるかの方が重要になった。それが思春期。それが青春。

大人になってからは、たまのランニング以外で、こういった素材を履くことはないと思っていた。だが僕は今、ドライ素材のパンツに夢中になっている。子供の頃に当たり前のように履いていたものに原点回帰した。

バックトゥベーシック。

いや、これは本当に僕のベーシックなのか。子供の頃に身につけていたものをベーシックと設定してしまうと、だいぶおかしなことになる。このまま進んでいくと毎日上下ジャージになってしまうことになる。それが悪いわけではない。

だが、それはそもそも今回のショートパンツを買った動機、Peter Savilleだからという点と大きな矛盾がある気がする。

こんな訳のわからない事を頭でぐるぐる考えているのがもうおかしい。一体なぜこんなことに。誰のせい?それはあれだ!夏のせい。

僕は未だに、彼の名前をカタカナで書く時に、ピーター・サヴィルと書けばいいのか、ピーター・セイヴィルと書けばいいのかよく分からない。

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