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HANGER HOLIC 『HANGER STRIKE』 (神奈川県鎌倉市)

鎌倉に行くとある場所に訪れるのが毎年の恒例行事になっている。20歳くらいから17年か。立ち入り禁止なのだけれど(内緒です)。

10代のころ何もない山形の田舎町で毎日のように映画を見ていた。レンタルビデオ、深夜のテレビ、試写会の抽選うんぬん。勉強もせずに同じ映画を何度も見た。まるで『中毒』。

鈴木清順の映画に出会ったのがその頃。タイトルは『ツィゴイネルワイゼン』。鈴木清順『陽炎座』『夢二』と並ぶ『大正浪漫三部作』スペインの作曲家サラサーテの楽曲を題した映画。主演は原田芳雄・藤田敏八いい味出てる。原作はアルコールホリック(または猫中毒)な小説家・内田百閒。みーんなお酒が大好き(みんなもう死んでる)

真夜中に『ツィゴイネルワイゼン』の電流が体中を駆け巡ったぼくは、その夜ねむれず、朝そのまま小田急線で鎌倉のロケ地へ向かう。成城学園前あたりで眠りにつけるようにニッカのウイスキーボトルを片手に。鈴木清順の眼を求めて通勤電車に強烈なアルコール臭を撒き散らすぼくはいったい何中毒か。その日から取り憑かれたかのように毎年通っている。それが鎌倉の某所。

なぜなんだろう。なぜなのかわからないで続けてることってある。

さて、レビュウへ。

神奈川県は『鎌倉』からエントリーしてくれたのは HANGER HOLIC 氏。HANGER HOLIC = ハンガー中毒の意味を一寸も裏切らない ZINE 。『見慣れた』ハンガーのことは忘れてください。

この ZINE は HANGER HOLIC 氏 がコレクションしたアンティークのハンガーを『BASIC』『PANTS』『TRAVEL』と分け、写真とテキストでそのハンガーについてを説明したシンプルな ZINE。いやシンプルだからこそじわじわと『はてなマーク』『好奇心』『興味』が浮かんでくる。なぜハンガー。ふんわり漂うタモリ倶楽部感。

ハンガーの形状、素材、用途から、そのハンガーの生まれた時代や物語の背景を分析し、利便性や唯一無二の芸術性を通してコモディティ化された資本主義社会のアンチテーゼを奏でてる(のか?)。いや、いいものはいい、いらないものはいらない、と、アルコールホリックなぼくだったらそんな感じだけれど、どうやら何か芯がありそうだ。

服を脱ぎ捨てたハンガーたちによる無意識への反撃〈ハンガーストライキ〉
ー HANGER HOLIC

生を宿ったかのようなハンガーたちの表情。写真もとてもいい。

どの家庭にも必ずや一つはあるハンガーという身近で盲目的な道具を通し、
既存の認識を揺さ振り、これまでの世界の見方を一つ、失わせたい。
ー HANGER HOLIC

この ZINE に収録されたハンガーなんだけれどハンガーに見えない。それらのハンガーをまとめる(編集する)ことで上記のような大義名分が湧き出てくる。メッセージになる。集めるという行為自体にはメッセージはなくても、編集するとメッセージになる。写真集などはそういう作り方をしたりする。撮る行為は断片だけれど、一冊にすることで物語を生み出す。そういう ZINE の作り方もある。

とにもかくにも、好き=中毒は人生を豊かにする。ZINE はその着火装置であれ。

名作です。

ー Written by 加藤 淳也( PARK GALLERY )

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エントリー 神奈川県

HANGER HOLIC / ハンガー蒐集家

1988年鎌倉市生まれ。
アンティークショップでのバイト経験により古道具の魅力にとりつかれる。
始まりは日本のクリーニング店名が刻印された1本の木のハンガーとの出会い。そこに宿る経年変化の美と文化に柳宗悦が説いた「用の美」を見出し、以降、多種多様な形、素材、用途、仕組み、生産国のハンガーを蒐集している。

『HANGER STRIKE』
ZINEのコンセプトはタイトルと同じく〈HANGER STRIKE〉です。ハンガーに染みついた「景色」と「常識」からの脱却。そこに残る、「物」としてのハンガーの魅力。見慣れたものが、未知なるものに。服を脱ぎ捨てたハンガーたちによる無意識への反撃〈ハンガーストライキ〉が今、始まります。

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