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自分との約束を守ること

 Metallica、6年振りのニューアルバム『72 Seasons』をダウンロードして、毎日の執筆のBGMにしてる。正直、数週間前から新曲が次々に公開されてもピンと来るものが1曲もなかったため、ほとんど期待していなかったけれど、実際に1枚通して聴くと案外聴ける。名盤とは思わないけれど、まあいいかもしれないと思えてきた。
 一方、村上春樹の6年振りの長編新作『街とその不確かな壁』はまだ買ってもいない。多分、今、買っても読む暇がない。秋の新人賞に向けた参考資料を読む時間が必要だからだ。基本的に、僕は執筆のために慌てて参考資料を読むのはあまり良くないという立場をとっている。アンテナを立てて数年間は地道に自分の中で知識が熟成されて積み上げられないと、持ち駒にはならないと思うのだ。そういう意味で、今の「集団ヒステリー」に関わる本はもうずっと読んでいるから残された本も最終仕上げといった感じだけど、とにかく早く読まないと浮ついたものになってしまうという不安がある。

 ところで、3月末に新人賞のために執筆していた時は、1日に20枚は書いていた。実は、父親が急死するまでは2024年4月まで貯金を切り崩しながら障害者年金と父親の年金でささやかな生活をして、仕事に就かずに書くつもりでいた。でも、今は1日9時間から12時間の拘束時間。それでも1日に20枚書けるのは意外な驚きだ。ただ、これは書くことがかなり決まっているか、書き直しが多いからだろう。まっさらな状態で新たな原稿を書くなら、やはり1日に頑張っても10枚が限界だ。調子に乗って行かない限り、どうもこれは変わらないらしい。
 僕は1日に82枚書いたことがあるので、なんとなく締切が近づいてきても「多分、書けるだろう」と思いがちだが、書くことはやはりちょっとスポーツに似ていて、「〇〇分、パソコンの前に座っていたから〇〇枚書けると決まっている」というものではないらしい。一応、今の決まりは「どんなに出来が悪くても7枚書く」だ。
 村上春樹は1日に10枚と決めているらしい。調子が良くても10枚でやめて、書きたい気持ちを明日にとっておく、また、調子が悪くても直すことを前提に10枚書くそうだ。そのテンポをキープし続けるらしい。『職業としての小説家』でそう書いていた。
 他にも、僕の好きな吉村昭は、取材がすべて済んだら、読書をやめてとにかく1日3枚書くと決めているらしい。1日3枚というのは僕からしたら少し物足りない量だけれど、この1日3枚を徹底的に守れるからこそ、吉村昭の生産量と締切を必ず守るという伝説は生まれたのだろう。単純計算で年間1,000枚以上になるのだから、守れさえすればかなり凄いことになる。
 宮部みゆきは1日に書く量を決めずに、「明日続きが書きたくなるところでやめる」というスタイルをとっているそうだ。今の僕はこれに近い感じになっている。
 僕は毎日の決めごとを守るのが得意な性質で、ギターの練習や日記など、習慣化されたことはかなり続くのだが、小説に関してもとにかく自分をペースに乗せてしまうことを身体が覚えてきた。僕のギターの師が、「毎日、ギターの練習をすることは自分との約束を守ること」と教えてくれたが、なんとかそれができている。やはり、約束を守れない人間は魅力もない。とにかく、今年は頑張るしかない。

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