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コギトの本棚・エッセイ

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ここでは主に随筆や独り言を取り上げてお届けします。
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#記憶

【コギトの本棚・エッセイ】 「最速の記憶」

やや擦られすぎている話題というきらいもあるが、最遠の記憶で、やはり一番先に思いだされるのは、三島由紀夫の「仮面の告白」だろう。なんと三島は産湯の記憶があるという。盥の縁のスベスベの感触をありありと覚えているとかなんとか、おまけに汗の匂いさえ覚えているという。
作中、三島自身が「後年聞かされた話によって形作られた半記憶のようなものかもしれないが」とひとまず註しているものの、本人にとってはそれが真実で

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【コギトの本棚・エッセイ】 「坂道の記憶」

紅茶に浸したマドレーヌの香りをきっかけに幼少期のとある夏を思い出す「失われた時を求めて」にならって、そういう事象そのものを『プルースト効果』と呼ぶそうだ。
けれど、香りや味覚だけがスイッチとは限らない。たとえば、コーヒーを入れるとき、頭を洗っているとき、そういった行動そのものがスイッチとなって、決まってある記憶を思い出すことがある。
行動と記憶は、いつのまにか頭の中で対になっているのかもしれない。

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