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コギトの本棚・エッセイ

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ここでは主に随筆や独り言を取り上げてお届けします。
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【コギトの本棚・エッセイ】   「1945 香月泰男展」

香月泰男展に行った。練馬区立美術館でやっている。が、あいにく3/27まで、あと三日しかない。巡回するようなので、どこかで見かけたら立ち寄ってもいいかもしれない。
ちなみに、練馬区立美術館は都内でも屈指の美術館だ。個人的には六本木や清澄白河よりも……。

会期中に、戦争が起きたという点でもアクチュアルな展覧会となった。
目玉は作家のライフワークである『シベリア・シリーズ』である。

書き方が難しいが

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【コギトの本棚・エッセイ】 「こどもについて」

昔、『ジュニア』という映画があった。アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デビートのダブル主演である。
同じ主演キャスト二人で作られた『ツインズ』という映画が好評だったのか、監督もアイヴァン・ライトマン、主演も同じという布陣で作られた同作は、かすかな記憶を頼りに思い出してみてもさして重要な作品とは思えない。
しかし、忘れがたいものもあって、それは同作のテーマが『男性の妊娠』だったことだ。

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【コギトの本棚・エッセイ】 「アウトプットは尊いか?」

先日、国立近代美術館で熊谷守一を観た。
ちょうどその日岡﨑乾二郎氏の講演があるということで楽しみに出かけていった。
まず絵を観た。ほぼ年代順に網羅してある大量の展示だった。
熊谷守一の絵は、いわゆる晩年になればなるほど、一枚だけ取り出して見ても、それはどうも安直なものに感じられやすい。
例えば、まさに僕がその通りに思っていたわけだが、講演の冒頭で岡﨑氏が言った通り、熊谷守一の絵は、およそ百貨店など

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【コギトの本棚・エッセイ】 「豚足」

油断していたらすっかり年の瀬です。
無暗に今年のことを振り返ったりしますが、さて何か一つでも成し遂げたことがあったのでしょうか。自信がありません。

年頭に一つ決めたことがあります。
仕事柄、本を多く読まねばなりません。元々活字を読むことは大好きなのでこんなによいことはないわけですが、よく考えてみると、ここ数年仕事にまつわる読書にまったく快楽を感じていない自分に気づきました。
仕事読書は、読書とい

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【コギトの本棚・エッセイ】 「conscientious」

【コギトの本棚・エッセイ】 「conscientious」

南予のとある半島の突端に位置する蒋淵という場所に十日ばかり出張していました。
自ら書いたシナリオの撮影を手伝うということは、どこか御法度のような気持ちがするのであまりしませんが、ごく限られた予算と有志の映画というわけで、今度ばかりは止むを得ず、恥を偲んで行って参った次第です。

自主映画だけに人選が面白く、撮影部照明部は外国人部隊でした。(部隊と言っても三人ですが)スウェーデン出身のカメラマンに、

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【コギトの本棚・エッセイ】 「列ハラ」

あらゆる公明正大さみたいなものがけっこうな害悪だと考えている節がありまして、常に普遍的な正義を執行しようとしている人間はいつかしっぺ返しを食らうものです。

たとえば、他人に迷惑をかけることを常に指弾する人は、果たして他人に迷惑をかけずに生き続けられるのでしょうか。そんなことはありません。
おそらく他人に迷惑をかけたことがあるだろう彼、にも関わらず常に他人を指弾する、大いなる矛盾です。僕はこの矛盾

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【コギトの本棚・エッセイ】 「努力は報われない?」

昔からスピリチュアルの類にどうしても苦手意識があります。前世とか占いとかそういうヤツです。
別に憎んでいるというほどファナティックではないのですが、同席相手が目をキラキラさせながら、「霊感が強い」などと話し出すと、途端に白けてしまう自分がいます。

ただ僕が片田舎を飛び出しどっぷり今いる業界に漬かりだして驚いたことは、意外なほどこの世界にはスピ系が好きな人が多いという事でした。
もう十年以上前、プ

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【コギトの本棚・エッセイ】 「トイレフリー」

忙しいのか忙しくないのかいまいちわからない毎日を送っています。最近シナリオを一本書きました。必ずやよい作品になるでしょう。

実は明確に『お盆』というのがいつなのか、いまいちわかりません。とにかく八月の中旬はなんとなく世間は夏休みなんだなぁというくらいで、周囲がいつからいつまで休みで、いつから仕事を始めているのかいまいちつかめないので、物事があまり動いていないような感覚になります。
僕も先日『お盆

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【コギトの本棚・エッセイ】 「翻訳文学」

先日、この『本棚』を監修してくれているN氏と呑んだ。
現在のN氏はなにしろ勤勉で読書に余念がない。先日話題に出したバルトの『明るい部屋』を早速読んだかと思えば、現在はローティに手を出しているという。ドストエフスキーも五大小説のうち四つ読んでいて、五大小説以外の『地下室の手記』を特に気に入っているという。聞くところによると『ホメロス』も『ファウスト』も読んだらしい。
話題はドストエフスキーの翻訳を手

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【コギトの本棚・エッセイ】 「AI」

先日、ご飯を食べながら七時のNHKニュースを見ていたらこんな話題に出くわしました。
「心を持ったAIロボット」、なんでも人の感情を察し喜怒哀楽の『仕草』を表現するロボットが発売されるのだとか。確かに、ニュース映像の中でそのロボットは、人間が笑えば、搭載されたカメラがその表情を読み取り、喜んだ『仕草』をしたり、反対に無表情だとじゃれついてきたりする『仕草』を表現していました。
先に断っておくと僕には

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【コギトの本棚・エッセイ】 「忘却について」

先日、シナリオ作家協会の総会というものに参加しました。一応協会員ですし、シナリオライターがたくさん集まる場所に訪れる機会はあまりないので、野次馬根性(というと怒られてしまうかもしれませんが)丸出しで参加したのでした。

さて、先日、メディアが言うところの『共謀罪』、つまり「テロ等準備罪」法案が可決されました。それに先だって、あまり知られてませんが、わがシナリオ作家協会は(も?)、この『共謀罪』こと

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【コギトの本棚・エッセイ】 「Why do like it?」

最近、再び美術館巡りが再熱しています。先週も、どうしても観ておきたくて、豊田市美術館でやっていた岡﨑乾二郎による『抽象の力』に会期ギリギリに飛び込みました。
展示は盛況(下の階で東山魁夷がやっていたということもありますが)、久しぶりにじっくり時間をかけねばならないものでした。

20代、働くようになって、どうしてか触れなくなったのですが、中学生・高校生の頃、心の支えは本と共に美術作品でした。
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【コギトの本棚・エッセイ】 「不在証明」

本音を言えば電話が嫌いだ。
携帯電話をもって久しく、もう固定電話だけの時代の感覚を忘れたが、今や電話をかけてくる相手が誰かわからなければほとんど着信に応対することはない。
相手がわかっても、下手すれば気乗りがしない場合取らない。仕事上やむを得ない場合はもちろん応対するが、取らずに済むならできるだけ電話したくはない。
と言って、電話で話すこと自体が嫌いなのではないらしい。とにかく、その時間、その場所

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【コギトの本棚・エッセイ】 「座読書 一月〜四月」

昔、誰か忘れたけど小説家だったか評論家だったかが、「小説家には二種類ある、それは書くべきことを見つけないと書けない人間と、書くことがなくなってからしか書けない人間だ」とか言っていたような気がする。
内田百閒とかは後者かもしれない。
井上靖とか前者のような気がする。

なにが言いたいかというと、今、僕にはあんまり書くことがないということ。
別に強制されているわけではないから、書かねばいいだけの話だが

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