【コギトの本棚・エッセイ】 「努力は報われない?」


昔からスピリチュアルの類にどうしても苦手意識があります。前世とか占いとかそういうヤツです。
別に憎んでいるというほどファナティックではないのですが、同席相手が目をキラキラさせながら、「霊感が強い」などと話し出すと、途端に白けてしまう自分がいます。

ただ僕が片田舎を飛び出しどっぷり今いる業界に漬かりだして驚いたことは、意外なほどこの世界にはスピ系が好きな人が多いという事でした。
もう十年以上前、プロデューサーを紹介してもらう酒席でのこと、年のころ五十を過ぎた彼は酔うほどに、「この間巫女に会った」だの、「彼女は千里眼を持っている」だの、「僕の前世はヨーロッパの……」だの、延々朝までそんな話に付き合わなければならず、かなり閉口したことを覚えています。
はたまた、かなり親しくしていただいた監督さんがいたのですが、ある日、打ち合わせに赴くと、「最近肩が凝るんだよね」と言いながら、手のひらサイズの金の延べ棒をおもむろに取り出し、肩を撫で始めました。なんでもえらい気功の先生の気がその金の延べ棒に宿っていて、病全般に効くのだとか。思わずギョッとして完全にスルーしてしまいました。
他にも、この世界で出会うどなたにもだいたい『よく当たる占い師』というのがついていたりして……。

ところがです。そんな元々スピ系が苦手な僕なのですが、最近、なぜこういう事態になっているのか、実はとても理解できるようになってきました。

9月からとても忙しくなる予定だったのですが、突如ひまになりました。
予定していた仕事がすべてトんだのです。
こういうことはとてもよくあること。ほとんど成立しない映像のために日夜文章を書いていると言っても過言ではありません。

僕の仕事のあらましを書きますと、まずプロデューサーの方から声をかけてもらいます。原作があれば原作の本を読みます。感想と共に映像化の作戦を立て、プロットを書きます。書いたら改訂、それをプロデューサーさんにお預けします。それをもって彼らがしかるべき企業などに企画営業をかけるわけです。だいたい僕の仕事はひとまずそこで一休み、しかるべき企業が映像化に乗り出すとなって再び始動しまして、シナリオに着手となるのですが、なにせこのシナリオに着手することが難しい難しい。いくつもの関門をクリアして初めて映像化が成立するのです。

シナリオライターの立場から企画の成否にどこまで影響を及ぼせるか、僕はよく考えます。
よい企画を立て、よいプロットを書く。できれば決裁者と顔をつきあわせて詳しく話を聞き、丁寧に説明する。これが僕にできる努力です。けれどこの努力だけでは企画は成立しません。
僕の実感で言えば、企画書の成功率は5パーセントを切ると思います。
なにも成立しないときの戦犯探しをしたいわけでは決してなく、つまり成否の分かれ目には自助努力の及ばぬ範疇が必ず存在するという話です。

これはシナリオライターだけに限った話ではもちろんありません。世間の仕事全般に言えることだと思います。
ただ、この業界において、仕事の成否の分かれ目に努力が介入できる割合はかなり狭いんじゃないかと実感する次第なのです。
たとえば役者さんにしてもそうです。とてもよいお芝居をする人が必ず『売れる』とは限りません。(この『よい芝居』についても一家言必要かと思いますがひとまず)、逆に言えば『売れている』役者さんのすべてが『よい芝居』ができるとも限りません。
これがタレントさんになれば話はもっと混沌としてしまいます。タレントさんの評価とは一体なんでしょう。それはもう『人気』としか言えません。しかしその『人気』の正体など誰にもわからないのです。

『目標のために努力しろ』というクリシェがあります。『努力すれば報われる』とも。
しかし、これはおそらくいいわけです。
本当の世の中は、努力するだけでは目標達成できないようにできています。努力だけではだめで、ではなにが必要かというと、『運』と『タイミング』です。
人間にコントロールできる部分は『努力』、人知を超えたものにコントロールされているのが『運』だといってもいいでしょう。
ジャンルによって、『努力』と『運』の成分比率はかなり違ってくるでしょう。
スポーツなどは『努力』成分がかなり高めかと思います。
しかし、こと人気商売と言われる我々の仕事においては『努力』成分が少し低いのではないか、昨今とてもそう感じます。

そう考えると、みなさんスピ系に目線が傾くのもわかる気がしてきます。身も心もそういう怪しげなものに奪われては元も子もありませんが、なんとなく報われない気持ちから目を逸らす程度ならノリで楽しんでもいいような気がしてきました。

心血を注いだ企画の頓挫はとても苦々しいものです。傾けた『努力』が無駄になってしまったような気さえします。こうなると、一瞬、『努力』など無駄だ、と考えてしまいそうになります。そんな時は、とりあえず自分の都合のよい占いでも見て気分転換し、明日からまた『努力』するとしましょう。「人事を尽くして天命を待つ」とはよく言ったものだとつくづく感じます。
『運』がなければ成功はないと書きましたが、同時に地道な『努力』は成功に不可欠なのですから。

いながききよたか【Archive】2017.09.07

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