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【小説】『芋粥』芥川龍之介


周囲から嘲弄され、子どもからも馬鹿にされる。過酷な状況の中にいる五位の微かな夢。

「芋粥を飽きるほど食べたい」

ある年の正月二日、酒の席で自分より地位の高い藤原利仁から言われる。

軽蔑と憐憫とを一つにしたやうな声で、語を継いだ。「お望みなら、利仁がお飽かせ申さう。」 

利仁の権威を誇示したい欲望により五位の夢は【他者の手で】いとも簡単に叶えられてしまう。五位は道中こそ芋粥を楽しみにしていた。しかし、いざ目の前に大量の芋粥が並び、食べるよう勧められた際には

遠慮のない所を云へば、始めから芋粥は、一椀も吸ひたくない。それを今、我慢して、やつと、提に半分だけ平げた。これ以上、飲めば、喉を越さない中にもどしてしまふ、さうかと云つて、飲まなければ、利仁や有仁の厚意を無にするのも、同じである。

と苦しむ。

周囲から嘲弄される過酷な環境の中「芋粥を飽きるほど食べたい」という欲望を大事に守ってきた五位。ここで芋粥を飽きるほど食べてしまったら、生きる糧がなくなってしまうのだ。

私はこの話を読み、松任谷由美の『十四番目の月』という楽曲が頭に浮かんだ。
恋愛の曲だが、夢に置き換えても意味が通る。

つぎの夜から欠ける満月より
14番目の月がいちばん好き

叶ってしまった後よりも、叶う前の方が幸せなこともあるのだ。

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