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【詩集】『妻と娘二人が選んだ「吉野弘の詩」』

祝婚歌で有名な、吉野弘。
彼が亡くなった後に、妻と娘二人が詩を選び、出版されました。
「吉野弘の」というより、「父の」という目線から選ばれた数々の詩。
長女のあとがきにありましたが、自分が生まれる前の父を知ることができたり、そのときそのときの父の考え方を知れたりってなんだかいいなあ。
温かさが溢れる一冊でした。

ちなみに私が読んでいていいな〜と思ったのは「虹の足」と「夕焼け」。なんとどちらも、国語の教科書に掲載された作品でした。(それほど素晴らしい詩だから私の心に残ったのか、小学校教員としてのセンサーが働き心に残ったのか。)

「虹の足」は、以下のような作品です。

虹の足


雨があがって
雲間から
乾麺みたいに真直な
陽射しがたくさん地上に刺さり
行手に榛名山が見えたころ
山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
眼下にひろがる田圃の上に
虹がそっと足を下ろしたのを!
野面にすらりと足を置いて
虹のアーチが軽やかに
すっくと空に立ったのを!
その虹の足の底に
小さな村といくつかの家が
すっぽり抱かれて染められていたのだ。
それなのに
家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
―――おーい、君の家が虹の中にあるぞオ
乗客たちは頬を火照らせ
野面に立った虹の足に見とれた。
多分、あれはバスの中の僕らには見えて
村の人々には見えないのだ。
そんなこともあるのだろう
他人には見えて
自分には見えない幸福の中で 
格別驚きもせず
幸福に生きていることが――。

「他人には見えて自分には見えない幸福の中で格別驚きもせず幸福に生きている」
本当の幸福は、他人には見えて、自分には見えない。日常に寄り添うようにしているから気づかないんだけれども、たしかに幸せはあるんだよなあ。
例えば、当たり前のように家族と過ごす日々。
例えば、当たり前のように健康でいること。
例えば、当たり前のように勤められること。
ぜんぶ、当たり前じゃない。

吉野弘さんの詩はあったかいなあ。
家族から愛されているのが伝わってくる。


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