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「詩」空に還す

蝶は水銀のような鱗粉を撒き
灯台守の手を離れ10センチほど
宙に浮き上がりそして消えてしまう
赤い果実を齧りながら
灯台守は砂浜に降り積もった
蝶の鱗粉の山を眺めている
そして灯台守は灯台の明りを消す

海の遥か向こう
空と海の境界にある花の島
赤い果実を食べ終えると
灯台守はそこに幾つもの狐火を見つける
涼風が夜の闇を揺らす
狐火はやがて円を描き
幾つもの火柱を宙に放ち始める

あの日 散った友の声に似た
波の音に灯台守は耳を澄ます
ほんの一瞬 ありとあらゆるものが
灯台守の心に生まれる
やがて火柱は花の島を焼き
一羽の鳥となる

いつしか雨は降り始める
海はその全てを受け入れる
なだらかな坂を登るように
鳥は空へと羽ばたいていく
灯台守は雨粒を浴びながら
友の名をそっと 空に還す

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