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ホットスポット

武ージジィ、行ってくんで。今日は絶対、外出歩くな。迷惑になるから。
爺ーうるせぇ、ガキじゃい。とっとと出てけ。
武ー死に損ないのジジィが。言われてなくても行くって言っとるじゃろうが。
爺ーさっさといけぇ。
武ーうるせぇな。

クラスメートAーなぁ、あいつなんで着る服がいつも、あんなにくたびれてんだ。
クラスメートBー爺様のお古着やってさ。
クラスメートCーえぇ。ありえん。じゃけん、いつもうちのクラスは加齢臭がするんか。
クラスメイトの大半ーハハハハハ(大笑い)。くせぇやい。もっとまともな服着てこい。
武ー(独り言で)ハァ。なんでこんなつまらねぇ場所で3年間も過ごせなんて言うんだ母さん。退屈で仕方ねぇよ。
緑(武の幼馴染で、同じクラスの学級委員長)ー武。今日も遅刻してきたわね。これで2週間連続じゃない。もっと早く来れないのかしら。
武ーなんだ、緑か。こっちは忙しいんだよ。それに、遅刻したからってなんだ。こんなくそつまらねぇ場所に早く来る理由が見当たらないくらいさ。
緑ー武の事情はほかの誰よりも理解しているつもりよ。お願い。ここがつまらない場所だなんて、言わないで。あなたのお母さん…
武ー語るな。俺のお母さんだなんて次、一言でも言ったら、ぶん殴るぞ。
緑ー何よ。私はいつだって武の味方で、悩みがありそうだから助けてあげたいだけなのに。
武ー悩みだと。あぁ、それならあるさ。うちのくそジジィのお世話、緑代わってくれるか。あいつのせいでお母さんは倒れたんだ。本当だよ、緑おめぇ、俺のジジィやるよ。
緑ー(武の頬を強くビンタする)あなた最低よ。おじい様が、あなたのお母さんの死をどれだけ悲しんだか知っているじゃない。それを殺人者呼ばわりするなんて。いけないわ。悲しい。武、あなたの方こそ、一番変わったわ。こんなひどいことを言う人間じゃなかった。
武ー母さんについて語るなって言ったよな。もう俺に二度と近づくな。絶対にだぞ。
(緑は、足早に武のそばから離れ、友達のグループの会話に混ざった。)

武が中学1年生の秋学期、爺さんが亡くなった。死因は心筋梗塞だった。

武ー(爺さんの葬式にて、独り言)母さん、俺働きに出るよ。これは、正答な理由だよね。あのくそジジィもいなくなって、これから住む家もなくなって、だからバイトしないとね。学校にはもう行かないよ。心細いけど、頑張るよ。見守っててね、母さん。

まもなくして武は、寮住まいができるバイトを始めた。朝から晩まで寿司屋で働いた。武の母親が生前、勤めていた職場で、武の事情を理解した大将が懇意に思って武を雇った。

大将ー武、おめえつらいか。
武ーいいや。仕事もあって、飯もでて、住むとこもあって、今俺幸せだよ。
大将ーそうか。母さん亡くなってから、あの爺さんと2人きりの生活だったもんな。でも、爺さん一度、この店に来たんだぜ。おめぇの母さんの死十九日だったけな。今思えば、あれはこの日のための爺さんからおめぇへの遺言だったのかもしれん。
武ーあのくそジジィが、俺にも母さんにも興味あるわけないだろ。
大将ーまぁ、最後まで聞け。爺さんは、こう言ってた。”わしももうそろそろ死ぬ。その時は、武のことを任せたぞ。母さんもここで働いとったんじゃろ。そんじゃ、あのガキもここで働かせた方がええ。いいな、任せたぞ”ってな。爺さんなりに、おめぇが母さんを感じられる場所に居られるように、取り計らってたよ。俺も、あの爺さんが、おめぇやおめぇの母さんにどんな仕打ちをしてきたかは知っている。あれは度が過ぎてた。でもな、もうあの爺さんも亡くなったんだ。武、亡くなった人にまでそんな言い分はやめろ。どんな人間も死んでしまったら、敬われるべきだ。そうだろ。
武ー大将、もう掃除も終わったし、帰っていいか。
大将ーあ、あぁ。俺の話を聞いてたか、武。
武ー聞いてたさ。もう、"くそジジィ”なんてのは使わないよ。大将の言った通り、死んでしまった人間だからね。言わないようにすれば、二度と思い出すこともないだろうしな。
大将ーおい、ちゃんといったろ、うやま…
武ーあぁ、それもちゃんと聞いた。珍しくなんか理解したよ。だから、もう終わりにしよ。あと大将、明日、俺の母さんがここでどんな風に働いてたか教えてよ。いい。
大将ーわかった。
武ーじゃあ、おやすみ。大将。
大将ーおやすみ、武。

次の日の晩

武ー大将、忘れてないよね。昨日の約束。
大将ーあぁ、もちろん。その前に、掃除やら片付けやら終わらしたんだろな。
武ーあぁ、もう終わったよ。
大将ーそうか。なら話そう。おめぇの母さんがこの店で働き始めたのは、12年前ぐらいだな。おめぇを背中におぶりながら、働いてたよ。彼女はかなりこまめだったから、お客さんのオーダーなんて間違えることはなかったし、こっちが間違えたり、遅れていた時なんてのはよく怒られたよ。どっちが店主なんだかって常連にはよく笑われたよ。一方で、彼女は俺と常連でも彼女と本当に付き合いが多かったお客にしか話さないことがあったんだよ。武と一緒に海外で暮らしたいってよく話してた。おめぇも覚えてんじゃないか、おめぇの母さんは本当は小説家だったんだぜ。だから、よく家にいろんな本がなかったか。
武ーあぁ、あったな。でもまだ、全部読み終えてなかった。だって、その前に家没収されたから。
大将ー武、おめぇが母さんの夢をかなえてやれ。
武ーどうやってだよ。
大将ー俺の店でよく働き、良く学び、それでいつか一人前になったら、海外で自分の店でも構えろ。
武ーはぁ、いつになるんだよ。それ、俺それまで、大将の店にどれぐらい働くことになるんだよ。1人前ってなんだよ。
大将ー武、おめぇはまだまだガキだ。でも、おめぇはほかのガキと違う。本当なら、孤独になっていくところを、おめぇはそれを逆境とも感じずに今ここで働いてやがる。立派なんもんだぜ。ただ、おめぇはあるもんがないんだよ。
武ーあるもんってなんだよ。大将、もしかして、おや、って俺の口から言わせるつもりか。
大将ー違うよ。目標だよ。熱だよ。おめぇ、お母さんの夢をかなえろ。これこそ、おめぇにしかできない、おめぇだけの目標だよ。
武ー……うぅぅぅ。
大将ー武、やってくれるな。たけ、
武ーわかった、やる。やってやるよ。1人前になるまで10年、20年、30年経とうが、絶対海外で自分の店開いて、母さんの夢かなえてやる。

それから20年後、武は32歳になった。武は、今シンガポールで寿司屋を経営している。


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