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【配信ライブ】österreich presents「四肢の文脈」

本来延期に延期を重ねて配信当日、恵比寿リキッドルームでライブを行う予定だったのだが、例の如くコロナに見舞われ有観客でのライブは中止、急遽無観客配信ライブとなった。

そもそも今までもösterreichとしてはTKfrom凛として時雨、キタニタツヤ、cinema staff主催のフェスに出演と数えるほどしかライブをしていないのだが、今回が初のワンマンライブとなる。

本来私もライブに行く予定でチケットを確保していたのだが、リスケにリスケが重なり結局ライブに行けなくなってしまった。

ライブレポート

ライブは想定外の高橋國光の朗読からスタート。何故かステージパスを首に貼っている(普通はスキニーやTシャツに貼ることが多い)。落ち着いた声のナレーションはもちろん高橋國光本人。

鎌野愛(ex.ハイスイノナサ)をメインボーカルに迎えた「映画」からスタート。どこか雨上がりのヨーロッパの街並みのように落ち着いていながら行き交う人々の陽気さを連想させる。

豪雨のようなピアノが規則正しくも乱烈されるように鳴ると「贅沢な骨」へ。鎌野のソプラノボイスはどうしても細く聴き取られてしまいがちだが存在感は圧巻で、cinema staffの三島とDALLJUB STEP CLUBのGOTOというリズム隊のスペシャリストに勝るほど表立っていた。そして何よりキーを乱さずにあの複雑なリズムの曲を歌いこなす鎌野愛はさすが音大出身としか言いようが無い。

初ライブの時はまだガタつきがあったり、高橋國光が作り出した天国のような柔らかな音楽に対比し、高橋國光のギターの轟音は自ら地獄に落ちに逝くような潔いほどに音楽と音がアンバランスだったが、今回のライブは生まれた曲と生まれ持った音、素材の違うコントラストを含め音楽として、切りっぱなしだった材木の部分をヤスリで削ったかのように、なだらかでまとまっていたと思う。

続けて紺野メイ(あみのず)をゲストボーカルに迎えると「きみを連れてゆく」を演奏。高橋國光の曲のなかでも圧倒的に音数が少なく、降り始めた粉雪のように繊細でシンプルな曲だ。それが故、音にならない余白の休符に緊迫感が感じられる。

ギターは國光さんに加えてcinema staffの飯田が参加。ラストサビのまだ青くて初々しい紺野と、大人の女性として上品なオーラに磨きが増すベテラン鎌野の女性2人が織りなす美声は贅沢で綺麗だった。

ステージには合計8人の各パートのミュージシャンがいるにも関わらず、このまとまり用は素直に凄い。パートが増えても音が厚くならず、かといってどこかのパートが弱く感じられはしない、音源さながらの完璧なバランスだった。

ところどころ朗読を挟み、未音源化の曲を2曲演奏。

「無能」ではあまりにも純朴で透き通った銀世界だった。冷たさは通り越すと何も感じなくなる、透明は透き通りすぎると温和になる、美しい世界を見ると言葉を失い見惚れて無になる、そんなことをこの曲を聴くと思う。

バイオリンの須原と鎌野と佐藤(Gecko & Tokage Parad)は2人でピアノを連弾、3人で場を繋ぐと事前に告知されていた小林祐介(THE NOVEMBERS)をゲストに迎え「ずっととおくへ」を演奏。地につきつつも包み込むように壮大で色気ある小林の歌声が画面越しに響き渡る。

後半は飯田(cinema staff)をメインボーカルに飛鳥のように開放的な「Swandivemori」、続けて飯田と鎌野の男女ツインボーカルを贅沢使いの「動物寓意譚」とすっかりお馴染みとなった曲を演奏。

ラストは代表曲となった「楽園の君」。ラストサビのボーカル2人のアドリブの掛け合いがさらに世界観をどっしり強くさせる。

「東京喰種」のオープニングでTKfrom凛として時雨の「katharsis」、エイディングに「楽園の君」と2アーティストの音楽が物語に溶け込む静かながらも激情的な、しっとりと始まりと終わりを飾る「東京喰種」でしか出来ない独特で唯一無二の流れがとても好きだった。

初ライブで演奏された時からずっとずっと変わらない美しさが、ブレずに私の琴線に触れる。どうしてこの曲は圧倒的に綺麗で、その綺麗さに比例して物凄く切なくて、いつも同じ強さで胸を締め付けてくるのだろう。天国という場所は本当に有って御伽噺どおりの綺麗なところかもね、とこの曲を聴く度に思う。

アンコールはMr.Childrenの「and I love you」を飯田がメインボーカルで珠玉のカバー。音源化して欲しいぐらいに良すぎた。

「またどこかで」と別れの挨拶しを、ステージにいたメンバーは颯爽と去り、空っぽのリキッドルームになった。

音楽が続く奇跡と泰然たる美しさ

the cabsもバンドの中でも特に異質な存在だったが、作り手が同じな分österreichも同様でバンド編成とはいえ世間が思うバンドとは明らかに次元が違う。

クラシックな雰囲気を醸し出しつつ、土台はしっかりロックバンドで、拍子が複雑で一筋縄でいかない。

österreichの音楽は美しくて、上質で、浄化されるようだ。聴けば聴くほど、世界観に入り込むほど、徐々に自分が透明になっていって、じんわり肉から骨から眼球までもが水になってくような感覚になる。泥水を濾過すればするほど透明な水になるように。

そして残ったものは人間の温もりが微かに残ったあたたかな無。人間を”濾過”する、それがösterreichの音楽の本質で、いつしか音楽としてそういう役割を担ってしまっていたのだと思う。

配信は5/3まで。かなり見応えあり。國光さんの朗読も見どころですが、私は飯田さんのミスチルカバーが特に好きです。是非に。

じゃあな!






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