TKfrom凛として時雨×österreich 2019.10.3@新木場STUDIOCOAST
時代も変わり2019年10月3日、
この日の新木場では奇跡の音楽が鳴り響いていた。
以前、こんな記事を書いた。
まさにこの記事を書いた日に「TKがösterreichを呼んだなら見に行くしかない」
と思い、吸い込まれるようにチケットを取った。
夢で完結していた「東京喰種」主題歌同士の対バン、
夢が現実となった奇跡の夜を目撃してきたのでつらつら書く。
注意*TKはセットリストネタバレありです。
有料設定にはしないのでネタバレ苦手な人は自己責任でお願いします。
österreich
元the cabs高橋國光のソロプロジェクトであるösterreich(オストライヒ)。
この日はなんとバンド初ライブ。
そしてthe cabs解散・高橋の失踪以来7年ぶりにステージに立つ記念すべき日でもあった。
ギターに高橋國光、ボーカルに鎌野愛(ex.ハイスイノナサ)と飯田瑞規(cinema staff)、ベースに三島想平(cinema staff)、ピアノに佐藤航、バイオリンは須原杏、ドラムにGOTO(DALLJUB STEP CLUB)を迎え、サポートメンバーの域を超えた高橋の絶対的な信頼を置いた強力布陣が集結。
颯爽とメンバーが姿をステージに現すと、
1曲目に不可思議なリズムとクラシカルなソプラノボイスが魅力的な鎌野のボーカルで「贅沢な骨」で初ライブの幕を開けた。
続いて「無能」「映画」と続き、孤独を磨き上げた美しい音楽がここ新木場に響き渡る。
この時点で既に複雑なリズムを難なく歌いこなすリズム感と鎌野の歌唱力を痛感。
もちろんそれぞれのパートも素晴らしく、
上品でまろやかな須原のバイオリンも、
支え切るような三島のベースも、
氷柱のように冷たくも美しい佐藤のピアノも、
複雑なのにスキップするかのように軽いGOTOのドラムも、
全てにおいてバランスが良かった。
一方國光さんはと言うと、上手で今どき珍しい紐メガネを纏い、
轟音が抜けないギターを思うがまま掻き鳴らしていた。
彼は曲が終わるたびに「ありがとう」とお礼の言葉を述べ、
彼から見て右手にいるメンバーを見たり、目の前にいる客席を見たり、
どこか不安そうにも思ったが誰よりも「高橋國光」という人間がバンドマンとしてステージに立っていると言う事実に対して彼が一番不思議そうだった。
その姿は7年間のブランクを全く感じなかった。
「今日のために新曲2曲作ってきました、聴いてください」
落ち着いた声で話すと新曲2曲とも披露。
國光さんが喋るとは思ってもいなかったので少しばかり動揺した。
「ああ、國光さんって喋るんだ。」と素で思った。
なんとなくMC無しで曲だけやって帰るイメージがあったから。
正直新曲はどんな曲だとかはあまりにも不思議な時間だったので覚えていないが、
ああオストライヒだなあ、とは思った。
「なんの後ろめたさもなく楽しくやらせてもらっています。
この場を設けてくれたTKさん、ありがとうございます。
そして東京喰種を書いた石田くん、ありがとう。
最後【楽園の君】と言う曲をやって終わります。
ありがとうございました。」
「なんの後ろめたさもない」と聞いた瞬間、
österreichと言うプロジェクトは相当楽しいんだろうなと思った。
新曲からステージに合流していたcinema staff・飯田のメインボーカルで
ラスト「楽園の君」で飯田の甘いローボイスが響き渡り、
「楽園」に連れて行かれての初ライブは終了した。
客席からは度々「おかえり」と言う声も上がり、
「ステージに再び立つ」と言うアクションを起こした國光さんに対し、
拍手であの場にいた誰もが彼の過去も今も受け入れているように見えた。
高橋國光を見て
もちろん私はthe cabsはライブなんて見たことない。
私がthe cabsを知った時には既に國光さんは失踪していたし、
気がついたら「österreich」と言う名義で東京喰種の主題歌を任されていた。
本当はこんなこと書きたくはないけど國光さんのギターは
「the cabs」だなと思った。
彼にとってthe cabsはまだトラウマでも重荷でもあると思う。
おそらく私が彼のことをキャブスだと感じたのは、the cabsが彼の本質的な音だと思った。
österreichとthe cabsを切り離したくても、
國光さんのギターの轟音が「the cabs」なのだ。
彼が一生the cabsに苦しめられるのか、
the cabsを丸ごと捨てるのか、
はたまたthe cabsを受け入れるのか、
いつか彼が「the cabs」を受け入れる日は来るだろうか。
österreichを見て
österreichは「楽園」のようだった。
ふかふかの白い雲の上にいて、
青い空の下には真っ赤な薔薇の花畑があって、
薔薇の花びらに埋もれて、
鮮やかで、どこか孤独で、美しい景色だった。
私は「楽園の君」を聴きながら
ふとこのまま死んでもいいと思った。
行ったことなんてないくせに
「天国」みたいだと思った。
死んだ先はösterreichは天国でも、地獄でも無く、
「楽園」だと思った。
常に死を感じている彼だから死後の世界を表現できるのだと思った。
死後の世界は、必ずしも美しいとは限らない。
けど、きっと死後の世界は美しいものだと思えたのは
生きたösterreichを知ったからだ。
österreichと言う「楽園」に行けるのなら
あのまま死んでも良かった。
それぐらい夢心地で穏やかだった。
出来ることならずっと聴いていたかった。
あのまま死ねたら、どれだけ幸せだっただろう。
セットリスト
1.贅沢な骨
2.無能
3.映画
4.新曲
5.新曲
6.楽園の君
TKfrom凛として時雨
一旦österreichで完結したように見えるが、österreichは前座に過ぎない。
でも、TKがいなかったらösterreichはきっと幻で終わっていただろう。
転換を終えるといつものSEで早速サポートメンバーのDr:BOBO、Ba:吉田一郎不可触世界、バイオリン:佐藤帆乃佳、ピアノ:大古晴菜が登場。
その後、TKがクールに登場。
一曲目からプログレな「kalei de scope」に始まり柔らかなシンセサイザを取り入れた「ear+f」「Secret Sensation」を投下。
「美は細部に宿る」の通り、細やかで繊細なTKの音楽とまるでその世界にいるかのように鮮明な映像演出で魅了する。
その後はエレアコに持ち変えると「haze」リリック映像が印象的な「Showcase Reflection」と続き、
バラード曲「memento」では冬の北欧の運河のような冷たさを思わせる。
「こんばんは、TKです。österreich、カッコ良かったですね。楽しめましたか?あ、そんなに照明明るくしなくて大丈夫なので...」
久しぶりに演奏された「Fu re te Fu re ru」、
ライブの定番曲でありTKの曲ではかなり激情的な「Fantastic Magic」、
凛として時雨のセルフカバー「Shandy」と次々息のあった演奏でライブを続ける。「Shandy」の音のぶつけ合いはいつも以上に緊迫感に溢れていて、我を忘れて見入ってしまった。
「次は新曲...新曲ではないのですが、僕1人の力じゃ足りないのでゲストをお呼びします。今日österreichでライブのサポートをしているカメエノアイさんです」
2年ほど前だろうか、鎌野がピアノサポートでTKのライブに出演してくれたことがある。
当時「white silence」のコーラスをしてくれてとても感動したのを覚えている。
何故今、カメエノアイさんと言う呼び方をしたのかは謎だが、やっぱりお茶目な人だ。
TKから見て右側に鎌野が登場。
ああこの画、TKとAimerの対バンの時でも見たなあ。
Salyuのコラボで「moving on」先日リリースしたヨルシカのsuisとのコラボ曲「melt」を鎌野のボーカルで演奏。
女性ボーカルを入れたことによりTKの曲がどこまでも壮大で伸びやかになった。
麗しくのびのびとした曲を披露した後、ラストは「film A moment」で本編は終了。
ドラマティックな曲展開が特徴的で起承転結のある曲構成なのに、総じて起承転結の「結」感が強い。
久しぶりに演奏されても迫力は健在だった。
アンコール
「アンコール、ありがとうございます。オストライヒ、楽しんでもらえましたか?今回のライブ、オストライヒに出てもらえないかと頼みまして、もしかしたら断りづらかったのかもしれませんが...初ライブと言うのはなかなか見れませんから、貴重な初ライブを共有できたと思います。今日國光くんが来てくれなかったらどうしようと心配していたのですが、来てくれて安心しました。」
そう、一度きりの初ライブという貴重なライブを自分のライブに捧げてくれたオストライヒに対して敬意を払うと大ヒット曲「unravel」へ。
きっとこの日のunravelはTKにとっても特別だったに違いない。
東京喰種が繋いが曲であるから。
「次で最後の曲なのですが、自由にしてください」
ラストは映画スパイダーマンの主題歌「 P.S RED I」で熱く終演を迎えた。
オストライヒに触発されたのか、曲中にピックを持つ右手でフロアを煽り、
客席フロアではライブ中よく見る光景である無数の手が上がった。
今までTKfrom凛として時雨で曲中に合唱が起こったり、
TKの煽りにフロアが燃え盛るなど一切なかった。
私の記憶上、TKのソロライブでこんな光景を初めて見た。
この光景に対して全く違和感を感じなかった。
いつも最高を更新してくれるTKのライブだが、
この日のライブは過去のどのライブよりも良かった確信がある。
TKを見て
いつもはライブを見た後Twitterに感想を垂れ流すんだけど、
今回のライブはツアー中だからとか抜きで全く言葉が出てこなかった。
最高すぎて。
österreichに触発されて、TKが音でぶつけた。
いつもに増してTKの音のバチバチ感は凄まじかったのは、
サポート全員が初ライブであり前座のösterreichに触発されたからなのだろう。
「österreich、カッコ良かったですね」
TKは対バンライブのとき、常に敬意を払っていることや昔からの憧れでいたと言う話はよくしているが、TKの口からライブを見て「カッコイイ」と言う言葉が出たのは私自身初めて聞いた。
きっとTKも素で思って発した言葉だったんだろう。
貴方の音楽もライブもカッコいいよ、と言いたくなった。
初ライブの場を設けれくれたことに感謝し、
初ライブを捧げてくれたことに対して感謝する。
お互いの謙虚さが滲み出る程よくいい距離感の対バンを見て、
心の底からいいライブだと思った。
セットリスト
1.kalei de scope
2.ear+f
3.Secret Sensation
4.haze
5.Showcase Reflection
6.memento
7.Fu re te Fu re ru
8.Fantastic Magic
9.Shandy
10.moving on(ゲスト・鎌野愛)
11.melt(ゲスト・鎌野愛)
12.film A moment
en.1 unravel
en.2 P.S RED I
ライブを見て
彼らの音楽は「孤独」だと思う。
österreichの孤独も、
TKの孤独も、
彼らの鳴らす音楽は剥き出しの孤独だ。
私は自分のことを根暗だと思っている。
何故だかそうは見えないと言われることも多い。
でも、私の心には常に「孤独」が住み着いている。
最近はたまたまライブが重なり1〜2週間で15アーティストほどを見た。
どのバンドも良かったし、楽しかったし、カッコ良かった。
初めて見たバンドも、久しぶりに見たバンドも変わらずとても良かった。
でも、その音楽たちは心に住み着いた「孤独」には一切触れられなかった。
この2バンドの音楽は私の心の「孤独」に入ってきた。
彼らの音楽が最近チリチリカピカピしていた心にいる「孤独」に触れてくれて私の心は嬉しそうだった。
孤独だけ摘みとった音楽はこんなにも美しくなるものだと思えた。
奇跡の夜が終わる
今回、鎌野経由でTKのライブのゲストにösterreichの出演オファーがあったそうだ。
上記のURLは高橋國光のnoteである。
どうしてösterreichがTKのライブで出演することになったのか?はこの記事に詳細が書いてある。
鎌野はTKレポの通り、TKのサポートも務めた経験がある。
TKとösterreichを繋いだ架け橋となってくれたのは彼女だった。
冒頭で「TKがいなかったらösterreichは幻だったかもしれない」と綴った。
TKがösterreichに「ライブの場」を設けなかったら、
高橋自身がösterreichとしてライブをやりたいと言う日は来たのだろうか?
ステージに再び立ちたいと自ら言ったのだろうか?
どこか繋がっていてどこか他人であったTKだからステージに引っ張り出せたのだと思った。
正直高橋の盟友・cinema staffなら高橋をステージに立たせる場なんて何度でも作れたと思うし、高橋も快くOKしていたかもしれない。
けど、TKがösterreichを呼ぶことに対して意味があったのだと思った。
初代・東京喰種主題歌を任されたTKだから
ずっと逃げずに音楽と向き合ってきたTKだから
österreichに、高橋國光に、
ステージを捧げられたんだと思う。
東京喰種と言う作品が繋いだ縁が、
こんなにも素晴らしい形で奇跡を起こすなんて
なんて素敵なんだろうと思った。
この素晴らしさを拙い文章では伝えきれないのがもどかしい。
österreichもTKfrom凛として時雨も、本当に素晴らしかった。
TKも、österreichも、こうして繋いでくれた石田スイ先生も、
ありがとう。
今でも楽園にいるようだ。
奇跡の夜だった。
▷MCはニュアンスです
余談
このライブ素晴らしすぎて言葉にするの大変だったし、書きながらしんどくなった。曲を産み出すミュージシャンすごい。
最後までお読み頂きありがとうございます!頂戴したサポート代はライブハウス支援に使わせていただきます。