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なぜ女性は「男性は地位の高い女性が嫌い」と感じてしまうのか

はじめに


 Twitterでは、男性は社会的地位の高い女性を恋愛相手として好まない、という言説が定期的に浮上する。その文脈は様々で、例えば女性の上昇婚が指摘されたときに、その反論として「女性が高収入の男性を好んでいるわけでなく、男性が高収入の女性を嫌っているのだ」と言われることもある。また、例えば高学歴女性が「モテない」ことに関して「男は自分よりもバカな女性が好き」という説明がなされることもある
 


 あくまで筆者の観測範囲ではあるが、こうした言説を好むのは女性(特に社会的地位の高い女性)に多いように思われる。

男性は社会的地位の高い女性が嫌いなのか?

 

 結論から言えば、男性は必ずしも社会的地位の高い女性を嫌っているわけではなく、好みの基準として社会的地位の高さがそこまで重要ではないというのが正しい。
 NeytらがTinderを分析して実施した研究では、女性は自分よりも高学歴を好む一方、男性ではそうした傾向がないことが分かっている。しかし、男性が高学歴の女性を「恐れている」ことを示す根拠は確認されなかった。

 また、同様にTinderを用いたNeytらの研究において、著者は実験に用いた架空のプロフィールの職業状況(有職、無職)、職業上の名声(平均初任給の違う3つの職種を使用)を操作した。その結果、男性は女性のプロフィールが「無職」となっている場合、会話を始める頻度が低下することが分かった。また、女性が仕事に就いている場合、女性の職業上の名声は男性が会話を始めるかどうかの判断に影響を及ぼさないことが分かった。


 これらの結果は、「男性が社会的地位の高い女性を嫌う/社会的地位の低い女性を好む」という言説とは矛盾する。また、Tinderにおいて女性が無職だった場合に男性が会話を始める頻度が低下するという結果からは、一定数の男性は社会的地位(職業的地位)が著しく低い女性をあまり好んでいないということが分かる。
 にもかかわらず、Twitterでは「男性が社会的地位の高い女性を避けているんだ!/男性は社会的地位の低い女性が好きなんだ!」という女性の声が定期的に浮上する。それはいったいなぜなのか。ここからは筆者の仮説を挙げていく。

仮説1:主観的には実際に男性が社会的地位の低い女性を好んでいると認識しているため


 第一の仮説は、主観的には女性は実際に男性が社会的地位の高い女性を嫌っている/社会的地位の低い女性を好んでいるように見えているというものだ。
 必ずしもそうした主観は間違っているわけではない。実際に、男性はある局面においては社会的地位の低い女性を好むことが示唆されている。
 JonasonとAntoonの研究では、長期的な交際の文脈では、男女共に自分と同程度の学歴の異性を望ましいと考えているが、男性は短期的な交際の文脈において、学歴の低い女性の方が望ましいと考えていることが分かった。

https://psycnet.apa.org/record/2019-35210-012

 このことから、社会的地位の低さ(に関連する特徴)は、少なくとも短期的関係の文脈(体だけの関係の文脈)では男性に好まれていると考えられる。
 また、「男性が社会的地位の高い女性が嫌い」という言説と関連して「男性は未熟な女性/バカな女性」が好きだと言われることもある。しかし、Goezらの研究では、未熟さや知性の低さといった特徴は、短期的な関係の相手としては魅力的であると評価されたが、長期的な関係の相手としては魅力的ではないと評価されていた。


※「男はバカな女が好きなのか?」というテーマのnoteを過去に執筆しているので合わせて参照してほしい

 これらのことから、社会的地位の低さや未熟さといった特徴は、体だけの関係の相手としては好まれていることが分かる。社会的地位が低く、未熟で頭の悪い(ように見える)女性が男性からチヤホヤされる場面を頻繁に目撃したり、自分が男性から敬遠された経験をした結果、女性の中に「男性はそういうタイプの女性が好きなんだな」という認知が生まれたと考えればある程度納得ができる。
 しかし、そういうタイプの女性はあくまで体だけの関係の相手として見られているだけであるし、体だけの相手をより結ぼうとするのが「ヤリチン」タイプの男性であることを考えると、自分が長期的で真剣な付き合いを希望するのであればそこまで深刻に考える必要はないのではないか。言い方は悪いが、「しょせんあんな女は体しか見られてない」くらいのスタンスでいれば良いのである。にも関わらず、「男性は社会的地位の高い女性が嫌いなんだ」という思いから抜け出せない女性はそれなりにいる。

仮説2:女性の中では地位の高い相手を好むのが当然であるため


 第二の仮説は、女性の中では地位の高い相手を好むということが当然視されているため、男性ではそうではないという事実に困惑しているというものである。
 既に多くの議論がなされていることではあるが、女性は社会的地位の高い男性を相手として好んでいる。女性の上昇婚や高収入女性の未婚化なども、男性が社会的地位の高い女性を忌避しているわけではなく、「女性が社会的地位の低い男性を対象外としている」という方が正しい。


 女性の中では、地位の高い相手を好むことが(事実的にも規範的にも)正しいことであり、男性が地位の高い相手を特別好んでいるわけでもないということはおかしいことのように思えるのではないか。
 また、社会的地位の高い女性においては、より社会的地位の高い相手を好む傾向が顕著である。Falesらがアメリカで行った大規模研究によると、女性は収入が高いほど、安定した収入があり、多くの収入があり、成功したキャリアを持つパートナーを好む傾向が強いことが分かっている。収入や学歴の高い男性は、見た目がよくスレンダーなパートナーを好む傾向が強かった。
 

https://psycnet.apa.org/record/2015-47430-021

 つまり、女性は収入が上がると上昇婚志向が強くなるが、男性は社会的地位ではなく見た目への好みが厳しくなるのである。社会的地位の高い女性は、こうしたギャップに困惑しているのではないか。自分は収入が上がってより社会的地位が高く成熟したパートナーを好むようになったのに、全くモテるようにならない。それに男性は収入が上がっても社会的地位が高く成熟した女性を好むようにならない。つまり男性は未熟な女性が好きなんだ!だから社会的地位の高い女性はモテないんだ!ということである。

仮説3:自らの主体的な選択を不可視化したいため


 第三の仮説は、自らの主体的選択の結果を不可視化したいためというものである。既に見てきた通り、実際には男性は社会的地位の高い女性を嫌っているわけではなく、むしろ女性が社会的地位の高い男性を好んでいることの方が大きい。そして、社会的地位の高い女性では特にこうしたことが言える。
 このことから何が言えるか。社会的地位が高く、現状「モテていない」と認知している女性は、対象を狭めてしまっている可能性が高いということだ。当然のことであるが、自分が魅力的だと思う対象を狭めれば、パートナー候補となる男性の数は減少する。男性は社会的地位の高い女性を特別好むわけではない(嫌いというわけでもないが)ので、ミスマッチが生じる可能性も高くなる。逆に言えば、自身の恋愛対象を狭めなければ、現状よりは「モテる」可能性も高くなる。

しかし、自分の主体的な選択の結果パートナーに恵まれていないのだという事実を認めたがらない女性もいるかもしれない。また、最近では少子化などの文脈で上昇婚が語られることも多く、「自分が社会的地位の高い男性を好んでいる」ということを後ろめたく感じる女性もいるかもしれない。そうした女性にとって、「女性が社会的地位の高い男性を好むのではなく、男性が社会的地位の高い女性を嫌っているのだ」という言説は耳ざわりがよく聞こえるだろう。
 しかし、この仮説は正しくない。なぜなら、女性がそこまで責任回避的であるはずがないためである。

おわりに


 ここまで、「男性は社会的地位の高い女性が嫌いである」という言説について検討してきた。結論としては、男性は特に社会的地位の高い女性を嫌っているというわけではなく、むしろ女性が社会的地位の高い男性を好む傾向の方が強い。にもかかわらず「男性は社会的地位の高い女性が嫌い」という言説を好んで使用する女性は一定数観測されるが、結局のところその理由は何なのか。今回は仮説を3つ提示したが、自分の中ではまだあまりよくわからないので、是非ともあなたの考えを聞かせてほしい。
 













最後となるが、僕は別に社会的地位が高い女性が嫌いというわけではないので、「社会的地位が高くてモテない」と考えている女性は是非連絡下さい。




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