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小学生がAIと2,500回の会話〜印西市立原山小学校の実践授業〜

小学校を中心とした研修を担当している未来の学び探究部の竹谷です。みんなのコードは、2023年4月に千葉県印西市と連携協定を結び、中でも先進的な取り組みを進めている印西市立原山小学校の情報教育に関わるカリキュラム開発を支援しています。

みんなのコードは、文部科学省が発表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の有識者に選定されました。この授業の内容や得られた知見は、有識者として文科省にも伝えており、ガイドライン策定に当たっても参考にされた貴重な事例だと考えています。

今回は、今年5月末から6月初めにかけて、原山小学校でAIについて学ぶ授業の様子を、授業づくりと当日の支援に関わった立場からご紹介します!


なぜこの授業に取り組んだか

最近、ChatGPT をはじめとする生成 AI が大きな話題になっています。AI の発達は私たちの日常生活や産業、教育などのさまざまな領域において、ますます重要な役割を果たし革新的な変化をもたらす可能性をもっています。

子どもたちが生きる未来には、 AI による影響がますます大きくなっていくことでしょう。子どもたちが新しい技術を柔軟に受け入れ、適切に活用する能力を身に付けていく必要があります。そのためには、新しい技術の特性を科学的に理解し、自らの生活や社会をよりよくするために使っていこうとする態度やどう使うかを考える力が必要です。

そこで、今回の授業では、小学校5年生の子どもたちと一緒に AI を実際に使ってみる体験を通して、その特性を科学的に理解し、どのように活用すればよいかを考えていきました。

将来、子どもたちはAI の専門家やエンジニアになるわけでなくても、身近なところで AI が使われるであろう未来の社会を構成する市民として、必要な資質・能力の素地を養うことが目的です。

具体的な授業内容

授業は8時間扱いの単元として実施されました。主な学習活動の流れと使用したツールは次の通りです。

第1時 AI についての学習の見通し(Scratch)
第2・3時 画像認識 AI の体験(Teachable Machine)
第4〜6時 画像認識 AI とプログラミングを組み合わせた問題解決
第7・8時 対話型 AI の体験と特性の理解(&box Classroom)

第1時 AI についての学習の見通し

まず、AI についてのイメージや知っていること、学びたいことをロイロノートに書いて共有しました。AI とか人工知能という言葉は聞いたことがあって何となく知っているものの、「何でもできそう」というイメージやロボットと関連付けて捉えている子どもたちが多いようでした。

続いて、AI を使っていないプログラムの例を示しました。Scratch で特定の色に触れたときだけネコが言葉を言う簡単なプログラムです。決まった条件に応じて動作すること、その条件は厳密に判定されることの理解をねらったのですが、やや効果は薄かったようです。

これまでに条件分岐を使ったプログラムを自分たちで作って、意図したとおりに動かすのが難しいという経験をある程度していれば、実感を伴って理解できたのではないかと考えられます。今後取り組む際には、検討が必要な課題となりそうです。

第2・3時 画像認識 AI の体験

いよいよAIの授業実践に入ります。Googleの Teachable Machine を使って、画像認識 AI で機械学習を体験しました。
ジャンケンの手の形や国旗の画像を学習させ、認識できるか試しました。背景や写り込んでいるものによって認識結果が左右されることに気付き、自分たちの顔や余計なものが入らないように工夫して撮影している姿が見られました。

第4〜6時 画像認識 AI の体験

画像認識 AI と Scratch を組み合わせて、身の回りの問題を解決することを考えていきました。Teachable Machine の学習モデルを Stretch3 (Scratch をカスタマイズしてたくさんの拡張機能が使えるようにしたもの)で読み込んで使うようにしました。
どんな問題を取り上げ、何を学習させるかということに頭を悩ませている部分が多かったように見えました。たくさんの画像データから特徴を取り出して、最も近いものを判断しているという AI の基本的な仕組みについての理解は深まったようです。

第7・8時 対話型 AI の体験と特性の理解

最後の2コマは、今話題の対話型 AI の仕組みや特性について、実際の体験を通して学習していきました。授業の冒頭で担任の先生が「ChatGPT って知ってる?」と尋ねたところ、多くの子どもたちが知っているという反応を返していて、急速に身近な存在になってきていることを実感しました。
この授業を実施する前に、対話型AIを利用するにあたり、保護者から書面で同意を得ました。授業の目的とその意義について知らせ、子どもたちが利用することについて確認してもらう内容です。また、授業の中で子どもたちと次の点を確認し、安全に実施できるようにしました。

  • AI の回答が正しいとは限らず、結果を使うときには人間が確認する必要がある

  • 入力したことが AI の学習に使われる場合があるので、個人情報や秘密にしていることは入力しない

  • チャットの内容は担任の先生が確認できる

  • チャットの履歴などが研究データとして個人を特定されない形で活用される

はじめに簡単なデモを見せたあと、実際に対話型AIを使ってもらう時間を取りました。最初は自分の好きなアニメやゲームなどの情報を尋ねることが多く見られました。
数分間使ってみて、子どもたち同士気付いたことを簡単に交流したのち、私から対話型 AI の仕組みを説明しました。

子どもに説明した主な内容は次の通りです。

  • これまで学習した画像認識 AI と同様、大量のデータを学習して、人間の指示や質問に答えている

  • 最も次に続きそうな言葉をつなげているだけで、意味が分かっているわけでも、気持ちがあるわけでもない

  • 人間にとって不快な答えにならないように調整している

解説のあと、改めて対話型AIを使う時間を取りました。子どもたちは、活発にやり取りをしながらさまざまな工夫をして試していました。回答をGoogle検索で調べて確かめたり、情報を引き出すだけでなく物語や曲作りに活用したり、なぞなぞ遊びをしたりする姿が見られました。
最終的に、子どもたちが対話したチャットの履歴が全体で2,500を超えました!これには私も驚きました。

授業後の子どもたちの振り返りには次のようなことが書かれていました。

  • 指示の出し方をうまくすればいろいろなことに使えると思う

  • AI の言っていることが100%正しいわけではないと理解して使う

  • AI の回答をそのまま使うのでなく人間が自分自身で考えることも大切だと思う

PTAと連携し、ガイドライン公開

この授業を契機として、PTA代表会での議論を経て、原山小学校の児童・保護者・教師を対象とした「生成AIを中心とした高度技術への向き合い方」というガイドラインが作成・公開されました。
保護者の皆さんも一緒になって考えていこうという姿勢は、子どもたちの成長を支える上でとても大きな力になることと思います。

成果と課題

今回の授業を通して、次のような点で大きな手応えがありました。

  • 画像認識AIを使う体験から、データをもとに特徴を見つけ出すという AI の動作原理を理解できた

  • そのことが対話型 AI の仕組みや特性の理解に生かされた

  • 子どもたちが対話型AIを積極的に活用し、さまざまなトライを重ね多様な回答を引き出していた

一方で、今後に向けて改善を検討する必要も感じられました。

  • 画像認識を活用するプログラムにあまり多様なアイデアが出てこなかった。問題を見つける時間を確保し、場面を教室だけでなく家庭も含めるといった手立てが必要

  • 対話型 AI を活用した創造的な活動が出始めたところで時間切れとなってしまった。情報を引き出すだけでなくクリエイティブに使っている事例を共有して視野を広げることが必要

  • まずはツールとして触れてみるという段階から、徐々に日常の課題解決に活用していくようにするプロセスを検討する必要

子どもたちの可能性をさらに広げられる実践を目指して、研究を進めていきたいと思います。

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ここまでお読みくださりありがとうございます。

みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をビジョンに掲げ、2015年の団体設立以来、小中高でのプログラミング教育等を中心に、情報教育の発展に向け活動し、多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでまいりました。

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