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Cocozen始動! (2/3) 「出産・子育て世代を取り巻く社会構造」から考える

「Cocozen〜それぞれの”ここ”から全体をよくする〜」は、それぞれが当事者として関われる場所("ここ")から、当事者にとっても社会全体にもとってもよりよい変化をもたらせるようなアプローチや取り組みを、試行し広げることを目的とするプロジェクトです。

先日投稿した第1回では、Cocozenの目的や立ち上げの経緯、基本となる概念やプロセスについてお伝えしました。第2回となる今回は、本プロジェクトの当面のテーマである「出産・子育て世代を取り巻く社会構造」について解説します。

Cocozenの当面のテーマ:「出産・子育て世代を取り巻く社会構造」

前回も触れた通り、Cocozenでは当面、「子どもを産み育てる上での社会構造」をテーマに活動していきます。

早速、「出産・子育て世代を取り巻く社会構造」の中身を見ていきたいのですが、その前に、読み解くための手がかりとして、下記の記事を再掲します。分析内容の理解を深めたい方は、ぜひご一読ください。

「出産・子育て世代を取り巻く社会構造」を読み解く

捉えた構造は、大きく3つのパートに分かれています(図1)。

図1: 出產 ・子育て世代を取り巻く社会構造 (因果ループ図の全体像)

ひとつは、この因果ループ図のメインの骨格をなす右手の紫色のエリア。仮に、「国民の心身の余裕を損なわせる構造」と名付けています。続いて左手下、水色で示された「貧困が受け継がれる構造」。最後3番目は、左上に薄いピンク色で示された「相互扶助と自己相対化をもたらす構造」。これは、先に上げた2つの領域についての議論の中から立ち上がってきた変数群で、その後、リサーチ結果を踏まえ形にしたものです。

今回のキックオフでは、紫およびピンクの領域に関して当事者性の高いメンバーが多かったので、以下に示す構造の解説では、主にこれら2つのエリアについて取り上げていきます。

適齢期の夫婦/パートナーらが置かれた基本的な社会構造──「予期せぬ敵対者」の構造に陥る国と国民

本来であれば、国と国民はwin-winの関係になるように制度が設計されていて然るべきではあるのですが….、分析の結果、現在の日本においては、おそらく多くの方の体感と一致するとおり、少なくとも、出産と育児を取り巻く構造においてはそうなっていない、つまり、お互いに足を引っ張り合う構造に陥っていることが見いだされました。

この構造は、問題がうまく解決しないケースに典型的な「システム原型」のひとつで、「予期せぬ敵対者」と呼ばれています(図2)。本来であれば、国は国民の出産育児(加えて就労)を支援し、一方国民は国のサポートを得ながら育児・出産と並行して就労、つまり生産活動に従事するという好循環を生み出したいわけですが(赤いR1のループ)、現実には、国の支援に信頼や安心感を持てない国民が、子どもを産み育てることを望むことそのものが難しくなり、そのために子どもは減り将来の労働力や税収の見込みも減ずるという負の循環が生じてしまっているのです(R2のループ)。

図2: 基本構造──「予期せぬ敵対者」の構造に陥る国と国民

労働者数・生産性向上施策が「子どもを望む気持ち」にもブレーキをかける

「予期せぬ敵対者」の構造に拍車をかける形で作用してしまっている施策もあります。2021年当時の分析では、「生産性が上がらない状態での働き方改革」に着目し、リサーチ結果を因果ループ図にプロットしました(図3)。

多くの企業は、「働き方改革」で課せられた数値目標のもとで、生産性を上げることができないまま従業員の就業時間を減らさなければならなくなり、企業内の総生産量が落ち(右赤丸)、企業が受けるストレスが従業員に転化される(左赤丸)構造に陥っていることが、調査から見いだされました。

図3: 労働者数・生産性向上施策によるブレーキ

一都三県の出産育児適齢期男女1,100名アンケート調査

文献や社会調査のリサーチ等で拾いきれなかったファクトについては、インターネットを通じた調査を実施し、データを収集しました。実施したのは、2021年7月。対象は、一都三県1,100名20-44歳の男女。分析の結果見えてきたのは、以下6つの傾向でした。

  1. 国民の多くは2人程度の子どもを希望している(一方、2019年度の合計特殊出生率は1.36)

  2. 子どもを産み育てるために必要と認識されている要素としては「今より多い収入」(77.1%)。次いで、健康・体力面(50.1%)や仕事との両立(37.5%)、子どもを産み育てるための時間(35.7%)。いざという時に頼れるネットワーク(29.5%)に対する不安も

  3. 子どもを生み育てるために国に求めることとしては、「税制や各種手当などによる収入格差の解消」(52.7%)、「出産や育児・不妊治療に関わる費用のより大きな補助」(51.2%)、「保育施設や学童施設など、子どもを預けられる施設や仕組み」(47.2%)、「子どもがのびのび育つ社会環境・教育環境」(46.3%)が回答として目立ち、「企業や組織に対する、産休・育休取得への強い介入」(35.2%)、「労働環境の改善」(35.1%)、「いざというときに頼れるネットワークや仕組みづくり」(33.5%)も低くない

  4. 親の存在は子どもの人数には影響が見られなかった一方、子どもが増えれば増えるほど「友人」を頼りにしている

  5. 子どもを望む男女は、国民の国の出産育児支援政策、およびその検討プロセスに対する信頼が総じて低い

  6. 5において比較的信頼の高い層が、子どもを産み育てる希望を持ち、実際に産み育てる率が高い

出産育児にも貧困にも影響をもたらす変数「地域におけるつながり」

調査結果の中で特に面白かったのは、4の親の存在より頼れる友人が多いことが子どもの数と相関があるという結果でした。チーム内での議論や別のリサーチ結果も、出産育児にも貧困にも影響をもたらす変数として、「地域におけるつながり」の存在の大きさを示唆しています(図4)。

図4: 貧困にも出産育児にも影響をもたらす変数「地域におけるつながり」

家族が小さくなっていく成熟社会において、並行して「地域におけるつながり」が小さくなっている。私たちの多くは、かつて、兄弟や地域の人たちの育児を垣間見たり疑似体験したりすることで得られていた「予行演習」の機会をなくし、自分の子育てがいきなり「ぶっつけ本番」。少ない子どもを成功裏に育てなければというプレッシャーが高まる一方で、変化のスピードも速いため自分自身の経験は頼りにならない。

私たちはそうした意味で、かつてないほどに自己の経験が相対化されにくく、不安が高まりやすい時代を生きていると言えるわけです。

さて、ここまでご紹介した全体像を踏まえて、キックオフイベントに集まったメンバーたちがどんな議論を交わしたのでしょうか。結論から言うと、現実の厳しさをヒリヒリと感じさせられながらも希望を抱かせる、それはそれはあったかな時間だったのでした……。

第3回につづく

文:佐竹麗



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