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『小さな革命』 ーYUKI concert tour "Blink Blink" 2017 横浜アリーナ公演を観てー

4月29日から広島グリーンアリーナを皮切りにスタートしたYUKI concert tour "Blink Blink" 2017は、3月に発売されたYUKIの最新アルバム『まばたき』のレコ発ツアーと、ソロデビュー15周年記念ライヴも兼ねた、YUKIの過去から現在地までを辿る、彼女にとって大きな節目となるツアーである。私は、全13公演中の8公演目に当たる7月1日、横浜アリーナで開催されたライヴを観てきた。

ライヴのハンドルを握り締めるYUKIと共にステージを繰り広げるバンドメンバーには、ストリングスとホーンセクションも加わり、ホール一帯に響き渡るのは、それはもう極上のサウンドだ。素晴らしいバンドメンバーに囲まれ、誰よりも嬉しそうなYUKIのパワフルな歌声は、17,000人を収容できるという巨大な横浜アリーナでさえ、どんな色にも染め上げてしまう。ヒップホップにR&B、ロックにジャズに、エレクトロなダンスミュージック。ジャンルのボーダーラインを好奇心の赴くままに飛び越え、15年間大切に育ててきた、いつの時代のどの楽曲も、全く古さを感じないどころか、更にビビッドな状態で私達の元には届けられる。

そして、最新アルバム『まばたき』の中では、「まだまだ、もっと、先へ行きたいんだ」という“暴れたがっている”欲望を、YUKIは恥じることなく曝け出した。“名も無い小さい花”という曲では、<初めてを沢山しよう>と歌い、“私は誰だ”という曲でも、<私がこわいもの/この胸の火が消えること/いつでも探してる/サムシング ニュー>と歌う。何より「音楽が好き、歌が好き」というYUKIの本能的なシグナルが、マイクを通して伝わるたびに気付かされるのだ。きっと、YUKIの辞書には、「不可能」という言葉が、存在しないのだと。

しかし、とある曲が終わると、バックスクリーンに映し出されたのは、YUKIの手書きの感謝の言葉だった。YUKIの今日までの道のりが、決して平坦なものではないことは、集まっていた誰もが、きっとわかっていたと思う。かつて私も、コンディションが決して良いとは言えない状態で、ステージに上がったYUKIを観たことがある。思うように歌えない悔しさを、一番に感じているのは誰でもない、YUKI本人。それでも、オーディエンスに笑顔を振りまき、歌い、ステージを全うさせようとする。そんな彼女を、私は目に涙を浮かべながら、見守ることしか出来なかった。

もう、ステージに上がることが出来ないんじゃないかと思ったし、無理もして欲しくなかった。だから、あれから数年が経った今、目の前にいるYUKIの力強く進化している歌声には、驚きと同時に、ただただ、涙が溢れてしまう。声が出なくても私達に見せた、あの笑顔の裏にあった苦悩と努力は、計り知れないものには違いない。でも、YUKIは自分の弱さだけではなくて、強さをも知っているから、自分で自分を越えていく存在であることを、私達に証明してみせたのだ。

高校時代にJUDY AND MARY(以下JAM)が大好きになり、それ以来、ずっとYUKIに憧れ続けていた私は、彼女が表紙を飾る音楽雑誌もファッション雑誌も全て買い、出演するテレビ番組も必ずチェック。似合いもしない前髪パッツンのボブヘアーだって、服装だって必死で真似しようとした。短大時代にはバンドサークルの先輩と一緒にJAMのコピーバンドを組み、社会人になってからも、友人とカラオケに行けば必ず、JAM&YUKIメドレーが始まってしまう。 当時の私は、少しでもYUKIに近づきたいという気持ちを超えていて、YUKIになりたかったのだと思う。

そんな10代20代を過ごして来た私も、今ではすっかりいい大人な年齢になってしまった。とは言っても、未だに迷うし、躓くし、大人気なく一人泣くことだってある。高校時代に思い描いていた30代とは、大きくかけ離れているし、なんだか思うように前進できない、ため息つきがちな日々を過ごしていた頃、偶然「今度YUKIのライヴがあるよ」と友人からLINEをもらい、ライヴのチケットを申し込んだ。

私はYUKIを、とことん生きることに貪欲な人だと思っている。自分の周りにいる人達を心から愛し、自分の人生を楽しむ。YUKIが作る楽曲から感じられる力強さは、忙しさにかまかけて生活している私達が忘れがちな大切なことが根っこにある。だから、いくつになっても私は、自分の大切なものに気付かされてしまう彼女の歌に惹きつけられ、心を大きく揺さぶられてしまう。

最後の最後に「ありがとうございました!」とマイクを使わず、声を張り上げ叫んだYUKIが、オーディエンスとの別れを惜しみながらもステージを後にする。あたたかくて、優しい余韻がじんわりと会場を包み込むと、明らかに私の心の風向きは変わっていた。

YUKIのライヴは開放感に溢れ、自由しか存在しない、正に音楽の理想郷だった。ずっとここにいたいなぁ、なんて思ってしまったが、現実問題、そうはいかない。けれど、私はとても清々しい気持ちで会場を後にし、別に誰かに宣言するものでもないが、私に起きたこの『小さな革命』を、信じてみることにした。

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