Don't be alone.

「姉さん」
街が眠り、月が中天にかかる頃。
宮殿の最上階。星読師にしか入室が許されていない星月夜の間。その窓の外から、知った声が聞こえた。
見上げれば、ローブ姿の少女が一人。箒に横乗りして宙に浮いている。
「リーン…!?」
どうしてここに、と咎める言葉は妹の手振りで飲み込んだ。
今は真夜中。いくら星に愛され、月を仰ぐこの国でも、人の多くは夜に眠る。夜に騒ぐのは憚られるし、こんな時間に部外者がここにいると知られるのは面倒なことになりそうだった。
箒ごとリーンを招いて、硬質な床に静かに着地させる。
「久し振りね」
「…そうでもないと思うけど…一月前には会ったじゃない」
「そうだっけ?」
相変わらずざっくりだ。広げていた星図を畳んで、適当に座るように告げる。
星見のための簡素な椅子と机。おあつらえ向きにも二人用だ。さっさと座ったリーンは、頬杖をついて室内を観察しているようだった。フードに隠れたくしゃくしゃのねこっ毛が見えて、…私は飲み物を用意することに決めた。

マグカップを机に置けば、素直にお礼が返ってくる。机の向かいに座って、見慣れた妹の顔を見つめた。
「あれ、姉さんのは?」
「さっき飲んだばっかり」
「ティータイムには間に合わなかったかー」
リーンがそう言って、カップに口をつける。
気にならない程度の沈黙。それを破ったのはやっぱりリーンだった。
「……結婚しないって聞いた」
「ええ。煩わしかったから。家をあなたに押し付けたのは悪かったと思ってる」
「別に負担に思ってるんじゃないよ。そうじゃなくて…」
月の色の瞳が彷徨う。言葉が見つからないような、言ってしまっていいのか。そんな躊躇いが仕草に現れていた。
数秒逡巡する素振りの後、意を決したようにフードの中で顔を上げる。
「姉さんが、一人で生きようとするのが、心配なの」
リーンの目はゆらゆらと、不安そうに光を映していた。
「……大丈夫よ」
「本当に? 約束できる?」
「ええ」
私には星をみる目がある。一人にはならない。
「きっとよ、姉さん」
その言葉には答えず、立ち上がってリーンを抱き締める。少しの間をおいて、肩口がじわりと濡れた。

(いいわけ)904字。『くしゃくしゃの〜』は、いつも身嗜みをきちんとする妹が、わりとボサボサの髪で急いでここに来たことを知った姉の様子。
前のはこれこれこれ

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