赤が足りない
夕闇の中で
一面の彼岸花畑に火をつけた
画家の供述記録より
「赤が足りなかった。
圧倒的に赤が足りなかった。
彼岸花の分際で、
中には白いものさえあった。
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太陽が赤いなんていつ誰が決めた?
どう見ても赤くないじゃないか。
天気予報の表示に騙されてるな。
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問題は彼岸花畑だ。
それを構成すべき一本一本だ。
奴らには赤が足りない。
もっときちんと正しく赤ければ
あり合わせの絵の具で事足りたというのに。
/
セキトウオウリョクセイランシ?
虹など信じない。
/
赤だ、赤だ、赤だ、赤だ!
赤さえあればいい。
赤の絵の具が欲しい、
できればルフラン製が良い……。
/
許してあげようと思います。
過日の点滅と香子のことを。
彼女はあまり美しくなかったが、
それ故に憎めなかった。
どんな顔だったかって?
紙と鉛筆をください。
はい。ええ。
これがそばかすです。
目と目が少し離れているんです。
それでここが首筋。
白いんです。とても。
ここからペインティングナイフで
切れ目をいれたので、
それを忠実に描いていたら、
赤の絵の具が足りなくなってしまったんです」
よくぞここまで辿りついてくれた。嬉しいです。