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1 はじめに アートは生きのびるための技術

 わたしたちが生きるこの世界は実にいろいろなものから成りたっています。いろいろなものがお互いに網の目につながりをもちながらこの世界をつくりあげています。人はひとりでは生きることができません。関わりあって生きています。他者とのつながりに気づき、呼応しようとしたときに、わたしたちは何かしらの「表現」を試みようとします。これから紹介するココルームの活動は、「表現」することができるようにお互いの存在を大切にするための実践です。お互いに学び合い、他者とのつながりの回路や接続点をゆたかにすることが、多様な価値や多様な生とともに生きていくことにつながると考え、活動を日々試行しています。
また「表現」を意識することは「自分のなかの他者を動かす」運動だとおもっています。この言葉を教えてくれたのは政治学者の栗原彬さん。自分の中の他者を動かし、自分をもてなすことこそが自律、自治と考えます。もてなしをサポートするのはソムリエですが、ソムリエの側にも同じことが起こることがあり、サポートする側とされる側の異交通のコミュニケーションが成り立ちます。わたしは、表現」を介することで異交通が活発化し、それぞれの意識を更新していく可能性を持つと考えます。その初動として「問い」を持つことが大事だと思います。そして、その「問い」をしぶとく考えつづけ、自分の考えを更新していく勇気を持つことが、実践へつながってゆくのです。
こうした「表現」への営みを「アート」と捉えるかどうか。むしろ懐疑的にとらえる向きもあります。作品を世にだすことや作品の質を高めることがアーティストの仕事だと考えると、他者に関わって誰の作品かもわからなくなるような活動をアートと呼ばないと考える人たちもいます。そのベクトルと反対になるような考え方—地域を活性化したり、地域に根ざした表現活動をも近年よく眼にするようになりました。「経済活性化」や「つながりづくり」とと捉えると、アートが地域の問題解決を目的としているように見えますね。アートの営みというのは、すべての人が持つアートの本質・さまざまな関わり(人や死者、記憶、自然、構築物など)のなかで起こる関係性の変化や気づき、そして、それらの関わりから生まれる未来へ漕ぎだす運動だと考えます。それらは必ずしも解決そのものを目的としているわけではないと考えます。ですから、問題解決というより問題とされるものをみつけてしまい、問い、またさまざまな角度からとらえてみてほぐし、関係性を耕します。そして、おもしろがったり、ダイナミズムがおこったりして、多様な価値に気づくことがアートの特徴だとわたしは思っています。
ですから、問いとして繰りかえされる日常の営みを大切にしたいと考えています。アートとは「生きのびるための技術」でもあると言えましょう。


現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています