龍を見たことがあるかい。
これは、ノンフィクションです。
だけど証明できる者はいません。
私一人の時に起こった出来事だから。
空に浮かぶ勇ましい姿の龍をこの目で見ました。
201X年のある日、浦和へ仕事で行った帰り道でのことです。
首都高5号線を東京に向かって車で走っていました。
夕方から土砂降りになり、かなり渋滞していました。
そんな中、池袋付近に差しかかると、ひどい雷だった。
雨も強く降るなか、雷も一緒に鳴っています。
雨と雷が一緒にというのは、珍しい気がしてよく覚えています。
雲は低く、首都高の高架からの目線で同じ高さにも漂っているほどです。
雷も雨に負けないくらい強く、幾重にも轟音と稲光を発していました。
考えるととても不思議な天候でしたが、それはそれは荘厳でした。
雨も雷も好きな私は、渋滞で並びながら飽きることなく眺めていました。
そして、目線のすぐ先に縦に長い不思議な雲を見つけたのです。
風はそれほどでもなかったのか、その雲は動く様子はない。
変わった雲だと思い見ていると、けたたましい稲妻でその雲が透けて見えた。
その閃光の強さで透けた縦型の雲の中に見えたものとは、、、
まるで絵に描いたような、荘厳な龍の姿だった。
はっきりと、体感的には2〜3秒ですが、一瞬だったのかもしれない。
私は思わず、知り合いに電話し「池袋に龍が浮いている。」と、慌てて伝えた。
そして、すぐテレビを見てほしい。きっと、騒ぎになっているはずだ。と。
しかし、報道も目撃情報も、次の日になってもどこにもありませんでした。
そのころは、仕事が落ち始めていて毎日悩んでいた時でした。
ですがそれ以来、多くはないが困らない程度に仕事が来る日々が続きました。
半年?ほど経った頃「変わった仕事だがやらないか。」と、連絡が来ます。
内容は、かなり大きな仕事でした。
一生に一度出くわすかどうかという内容のものでしょう。
本来であれば、吟味しリスクを計算し検討する。簡単に答えは出せません。
ですが、どういう訳か、成功するという自信しか湧いてこなかったのです。
だから、何も検討せず、ほとんど即答で承諾しました。
準備として必要な資金もなく、それに相応しいスタッフもいない状態。
これまでの経験から目星を付け、少しづつ声をかけていきました。
すると、人が人を呼び、思ってもみない人脈とも繋がりました。
そして、役割を想定し人員を決め、スタートしたのですが問題が起こります。
一つは、当然のようにすぐに資金ショートです。
もう一つは、顧客に問題のある人がいて執拗に仕事の進行を阻むのでした。
この二つの問題は、勇気を持った行動から実は簡単に解決しました。
その頃の私には、不相応な資金を融通してくれる人が現れました。
しかも、ほぼ無利息です。私と仕事に興味を持たれたようです。
これは、先に書いた繋がった人脈から手を差し伸べて頂くことが出来ました。
こんな仕事の仕方は初めてですが、他に当ても無く心強かったです。
もう懐かしいですが、奇跡のように感じたものです。
だいぶ経ちますが、今も当然お付き合いさせて頂いています。
もう一つは、率直に顧客上層部に上申しました。
はっきりと、「このままではこの仕事は失敗する。」
「問題がわかっている以上、このまま放置することはできない。」と。
すると、数日で人員の異動が行われ、視界は見事にクリアになったのです。
これらの問題に、2週間程度は頭を抱え、悩み抜いていました。
吐き気が止まらなかったから、解消したときの爽快感は格別でした。
問題の最中でも、何故か成功するという気持ちしかありませんでしたが。
それからは、快進撃です。
信じられないほど、全てがうまくいくのです。
人生で、これほど爽快な経験をすることはそうはないでしょう。
そして、順調に進み、評価も得て社名も、私個人の名前も業界に知れ渡ります。ほぼ最高の評価で、成功のうちに仕事が終わりました。
数年後、また仕事が舞い込みます。
実績を買われ、最初から上座です。
経験者が集められ、チームも編成されています。
条件も申し分なく、即答で引き受けた。
しかしこれが、悪夢の始まりだったのです。
結論を言えば、完全に嵌められ、無用な負債を背負うことになりました。
龍は、相手を選んで姿を見せる。
「こいつならこんなことをするだろう。」
「こんな経験をしてくれるだろう。」と、考えているようなのだ。
しかし、その龍が望んだ状態を終えると、掌を返す。
離れて行くと言った方が正確かもしれない。
そして、物事が大きいほど反動も比例して大きくなるということ。
龍は、その仕事の前に、私から既に離れていたのだろう。
私は、全てを理解した。その為か、何かを恨む感情なども湧かなかった。
そして今も、その事象に対して、裁判の終わるのを待っている。
勝てば、負債となった投資分くらいは回収出来るかもしれない。
私生活はほぼ破壊され、辛い想いをする日々過ごした。
それでも、嬉しいこともありどうにか乗り越えているから、幸せかもしれない。
友人には、「普通の人なら死んでいてもおかしくない。」と、言われたほどだ。
想像以上に過酷な日々のようだ。私は既に楽しんでいる。
この、数奇な人生を生き延びている。死への恐怖はない。本当にない。
龍を見る少し前にあることで、死の恐怖を克服している。
それにいちいち、未練を感じるようなことが起こってしまうのだ。
タイミングが良すぎて、中々、逝かせようとはしない。
もしかしたら、まだ龍は俺と共にいるのかもしれない。
今は、何の予感もないが、、、
誰かが言っていた。
人生は、全ての人に平等だと。
最後にフラットに均せば、みんな同じようなものだと。
他の誰かは、こう言った。
人は、目的を持って生まれてくる。
そして、目的を果たすと死ぬのだ。
だから、人生は時間の長短が良し悪しではない。
それらの正解は、分からない。
今はただ、正しいと思うことをする。
自分なりに、死ねない理由がまだあるからだ。
今も、龍を探して空を見たりする。雷雨の強い日などは特に空を見たりする。
だけど、俺は知っている。
龍は、探して見つかるものではない。
龍が、こちらを選んで姿を現すのだ。