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WeChatの生み親が語る情報通流の哲学と懸念


こんにちは。「古今中国」のCoconです。今回は、世界で最も使われるアプリの一つのWeChatの生み親のAllen Zhangの講演を紹介したいと思う。

WeChatといえば、中国人の生活に欠かせないスーパーアプリになっている。機能から見ると、中国のLine + Facebook + Instagram + ブログサービス + クレジットカードというような存在と言っても過言ではない気がする。

そのスーパーアプリを担当するTencentのWeChat部門は今年1月9日に、中国広州で「未完成Always Beta」というテーマを掲げ、年一回の発表会を行った。

WeChat部門のトップ・WeChatの生み親と知られるAllen Zhang(以下Zhangさん)はビデオで、WeChatが人々の生活に与える影響や、情報流通の面で果たすべき役割など、若干哲学的とも言える「7つの思考」について語った。僕のコメントを混ぜながら、この7点を紹介する。

Zhangさんはまずは、冒頭の部分で、今自分と自分のチームが置かれる状況を描いた。

今や数億人が毎日相当の時間を使って、スマホから情報を集めている。そしてWeChatはおそらく最も使われているアプリの一つだ。なので、WeChatは情報流通の道具・プラットフォームとして、一つの小さな動きでも情報の流れの変化を引き起こす可能性がある。

我々がスマホから得る情報量は、実際の目で見える世界の情報量を遥かに超えている。以前、ほとんどの人が見える世界は、足で歩ける範囲だったのに対して、今は常にインターネットに接続しているようになり、膨大な量の情報に直面するようになる。全てはインターネットの進歩のおかげだ。

しかし、情報革命がもたらす人々への影響に関する考察は、インターネットの進歩に追いついていない。人々はそういったインターネットの進歩を上手く活用できているのか。それとも、インターネットの進歩に伴なって、人々は逆にインターネットにコントロールされているのか。常に懸念しているとZhangさんは言った。

私のコメント:

業界のほとんどの人は、いかに自分が作ったサービスをできるだけ多くの人に利用させるか、いかに利益を最大化するかなどのことに苦労している。Zhangさんと彼のチームももちろん例外ではないだろう。

しかし、国民的なサービスを作ったことで急に自分でも想像できなかった責任を負わざるを得ないようになったようだ。その責任とは、人々に届く情報及びそれらの情報による人々の行動面・思考面の変化だ。

今のZhangさんは、「どうやってある機能を開発するか」という課題で悩むより、もはや「社会責任や道徳、そして会社の利益などの面のバランスを考え、どの機能を開発するか」という課題で悩むだろう。


これからZhangさんは7つの角度から、情報革命がもたらす影響について語る。

1点目は、個人情報の譲渡、つまり個人情報を企業や政府に渡すことだ。

Zhangさんは、次のように言った。
「歴史の観点から見ると、テクノロジーが進化すればするほど、プライバシーが守られなくなる。人間はテクノロジーの利便性を享受すると同時に、無意識的にプライバシーの範囲を縮小させている。例えば、ターゲッティング広告とユーザープライバシーは実は対立している。我々はプラットフォームとして、大量のユーザーデータを保有している。何を使うか、何を使ってはいけないかは、我々が常に考えている課題だ。ここで同業者にもこの課題を重視するように呼びかけたいと思う。」

近年、ユーザープライバシーが一つの社会問題になっている。例えば、2018年、ある調査会社が数千万人のFacebookユーザーのデータを収集し、第三者に提供したという不正行為が報道された。今や、10億人以上の人が毎日数時間WeChatを使っていると言われる。チャット履歴のみならず、WeChatで読んだ記事やWeChat Payで支払った買い物などの情報も残っている。そういった情報は誰かに不正利用されたら、とんでもない精度で人々の行為を誘導できると思う。もう一つ考えざるをえない点としては、WeChatは中国で事業を展開している以上、政府に要求されたら、一部のユーザー情報を提出しないといけないだろう。


2点目は、ユーザーが主動的に情報を入手するのではなく、受動的に情報を受けるということだ。

インターネットにより、情報を簡単に入手できるようになっている。しかし、膨大な情報の中、どの情報を入手するかを取捨選択するのは非常に難しい。

Zhangさんによれば、実は、多くの人々は、そもそも主動的に情報を入手したがらず、受動的に情報を受けたがる。WeChatの場合、FacebookのFeedに相当するMomentsという機能も、「公衆号」というブログ機能も、基本「おすすめ式」の情報発信だ。

そうなると、どんな情報をユーザーにおすすめして届けるかによって、ユーザーが見る情報が変わる。見る情報が変わると、行為も性格も変わる。例えば、どんな人に会うか、どんな考えを持つか、どんな価値観を持つかなど。


3点目は人々の社会関係の拡大とそれによる問題だ。

Zhangさんはダンバー数という概念を紹介した。人間が社会関係を維持できる人数の上限を示す数字である。1990年代、この数字は150だった。しかし、WeChatやFacebookの時代、人々の知り合いの数は、明らかにその数字を突破した。人々が社会関係を維持する能力は、モバイルインターネット時代以前より著しく向上した。

今まではWeChat上の友達の上限を5000人に設定していた。しかし、Zhangさんによれば、既に100万人のユーザーがその上限に達している。なので、その制限を解除する必要性を感じた。技術上、簡単に達成できる機能のはず。ただし、それがもたらす社会的な効果について、不安を感じるとZhangさん言った。

4点目は情報伝達の速度だ。まさに最近アメリカでも話題になっている「Fake News」(フェイクニュース)の話だ。

今や、情報が凄まじい速度で伝達できるようになっている。一つの記事がたくさんのWeChatグループで転送され、TwitterでRetwittされ、Facebookでシェアされ、一瞬で社会的な話題になることはよくある。

一方、どの情報が一番早く伝達されるかというと、必ずしも情報が正確かどうか、調査が徹底されているかどうか、ではなく、人々をビックリさせるかどうかだと思う。ビックリさせればさせるほど、情報が速く広まる。それは人間の本能にもつながっている。

ここでZhangさんも苦情を漏らした。技術だけで情報の正確性を判断するのは難しい。しかし、放棄はしない。プラットフォームとして色々な施策が打てると言った。例えば、ユーザーの力を借りて、ある情報の正確性を判断してもらったりする。

5点目は上記の2点目に似るので、割愛する。

6点目は、情報の多様性

上記でも言及したが、WeChatには、「公衆号」というブログ機能みたいな機能がある。個人も法人も、自分の「公衆号」、つまりブログ、を作れる。そこに投稿すれば、全てのWeChatユーザーに読んでもらうことができる。WeChat内のAmebloみたいな機能と考えたらイメージが掴むかもしれない。

実は、ある意味、「公衆号」は既に中国語圏最大のブログサービスになっているかもしれない。もちろん、有名作家やトップ新聞社の記事は、閲覧数が最も多いだろう。そうすると、広告収入も有名作家やトップ新聞社に集中する。しかし、Zhangさんは一つの要望を示した:今の誰でも発信できる時代には、ロングテールなコンテンツ、つまりニッチなコンテンツも注目されるようにしたいと。

実は、Zhangさん講演の翌週に、WeChatは新しい機能を実装した。簡単にいえば、「記事単位で課金できる」という機能だ。例えば、私はあるトピックについて、1万字の記事を書いて、「公衆号」にアップした。誰でも最初の500字を読めるが、その後の内容を読み続けたいのであれば、1元(16円)を払わなければいけないという仕組み。

最も恩恵を受けるのは、正にニッチな分野に関するコンテンツの作者だろう。ニッチだから、読者の数もそこまで多くなく、広告収入もあまりもらえないはずだ。ところが、その新しい機能のおかげで、少数のハードコアなファンさえ確保できれば、十分な収入を入手できるようになる。

その課金機能に加え、もう一つの新しい機能もZhangさんは言及した。今の「公衆号」は主にテキストという形式の内容に最適している。逆に言うと、ビデオや写真など他の形式の内容に適していない。テキスト以外の形式の内容もより効率に配信できるように、今後工夫したいとZhangさんは示唆した。

それは恐らくTikTokを初めとする新しいコンテンツプラットフォームを意識しているだろう。確かに、WeChatでコンテンツを作成することは、ちゃんとパソコンの前に座って、タイピングした文章を編集してから投稿するというイメージが湧いてくる。何らかの思い付きや見回りの出来事をササット記録し、発信することは、なかなかできないと感じる。

今までWeChatの一つの強みは、「機能を控えめにする」ということだと思う。特に遊び的な機能に対して、非常に慎重なスタンスを取っていた。例えば、WeChatのカメラには、わざわざウサギの耳をくっつける機能を導入しないようにしている。今後、どのように今までのシンプルさと安定さを保ちながら、新しい時代の人々の好みに合っていくかは楽しみだ。

7点目は、検索の困難

Zhangさんによれば、Webインターネットの時代と比べ、モバイルインターネット時代は各アプリが分割され、お互いに情報を共有していない。Webの場合、Googleで何かを入力して検索したら、インターネット上のほぼ全てのWebページでそれを探すことができる。それと比べたら、一つのアプリで、何かを入力して検索したら、他のアプリにある情報はもちろん出てこない。

WeChatには、Mini Appという機能がある。要するに、WeChat内で使用できるアプリ。Zhangさんが検討しているのは、ユーザーが検索したい内容を入力したら、その内容を全てのMini Appで探すということだ。またアイディアレベルの話が、できたら便利になると思う。


Zhangさんの講演のテキストと動画はここ見える:
https://mp.weixin.qq.com/s/PzJbttj5UtxLHdEtamkjPA


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