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中国火鍋市場の最新トレンド

火鍋は日本で最も人気がある中華料理の一つでしょう。大きめの鍋の中に香辛料たっぷりのスープを注いだ後、火を付けっぱなしにし、食材をスープに入れて、数分間煮た後に、熱々のうちに少しタレをつけて口に運びます。ある意味、しゃぶしゃぶとお鍋の間のイメージです。特に寒い冬の日に、数人の友達と一緒に、テーブルを囲んで火鍋を楽しむのは至福の時間に間違いありません。

最近、中国の経済メディアの「36KR」は中国の火鍋市場に関する調査レポートを発表しました。とても興味深いので、今回の記事では、そのレポートの一部を紹介しながら、私が肌で感じている中国と日本の火鍋市場にも触れたいと思います。

膨大な市場

最初に言っておくべきなのは、火鍋の市場規模が非常に大きいということです。具体的に、中国国内だけで約7兆円に達しています。その数字だけでは、ピンド来ないかもしれないので、参考のため、2つの比較データを提供します。まず、その火鍋の市場の7兆円は、中国飲食業界全体の14%を占めていて、圧倒的1位のカテゴリーです。そして、日本の飲食業界全体は14兆円ぐらいだそうです。規模が大きいだけではなく、火鍋市場の成長スピードも著しいです。2013年から2018年の間、毎年約12%のペースで火鍋市場は拡大してきました。

実は、火鍋の市場は大きいだけではなく、収益性も非常に魅力的です。業界でよく1平方メートルあたりの利益という数字でレストランの利益性を計ります。レポートによれば、中国の火鍋の店の場合、2018年の1平方メートルあたりの利益は40万円ぐらいで、高級中華料理の2.5倍もあるらしいです。

火鍋が流行る理由

では、なぜ火鍋がこのような大きな市場になっているのでしょうか。「味が美味しい」ということはもちろん大事ですが、たくさんの美味しい料理の中、なぜ火鍋が他のスタイルの料理に一目置かれて市場シェアを占めることができているのでしょうか。当レポートでは主に3つの理由があげられています。

まず、火鍋は非常に柔軟性が高い料理です。「柔軟性」という言葉で何を言いたいかというと、「誰でも好きになれる。つまり、どんな人の口にも合う」ということです。火鍋の3つの主要部分のスープ、食材、そしてタレは、其々豊富な種類があり、無限の組み合わせができます。それで、ほとんどの人は火鍋で自分の好きな食べ方を見つけられます。辛いものがダメな人でも、肉が苦手な人でも、自分の好きなスープと食材とタレを選べば、十分に火鍋を楽しめます。それだけではなく、無限の組み合わせがあるからこそ、火鍋は非常に飽きにくい料理だと言われています。

そして、火鍋は基本、一人で食べるのではなく、家族や友人と一緒に食べる料理です。私は大学時代によく一人で食べましたが、一人で一つの鍋で食べるのは、さすがに寂しくて、それは例外です。データによれば、火鍋の店の83%の客は、3~8人のグループであることが分かります。中国の経済発展につれ、人々が会食する機会が増えています。火鍋はまさにその趨勢からの恩恵を受けています。前述の柔軟性の理由もあって、「今回はどこで食べましょうか」と会食の場所で悩む時に、火鍋にしたら、皆喜ぶでしょう。

三つ目の理由は、火鍋は比較的拡大しやすいビジネスということです。それを理解するために、一旦、寿司屋を想像してください。寿司屋の品質は、かなりその日の食材の新鮮度と寿司職人の腕に左右されます。OO寿司屋1号店がうまく行っても、2号店、さらに言えば20号店はうまく行くと言い難いでしょう。というより、20号店で1号店のような品質を保つのは、無理でしょう。火鍋の店の品質ももちろん人員的な要素などに左右されていますが、比較的に、標準化しやすいのです。なぜかというと、実際に「料理を作る」のは、店側ではなく、お客さん自身です。店は基本、生の食材を提供するだけです。つまり、全ての店で同じ食材さえ提供できれば、ある程度同じ品質の料理が担保できます。そして、火鍋で使われている食材のほとんどは、寿司や焼肉で使われている天然車えびや松坂牛のような入手しにくいものではなく、普通のハナマサで買えそうなものなので、割と参入しやすい市場とも言えるでしょう。

中国火鍋市場の主要プレーヤー

市場が大きい、収益性が高い、拡大と参入のハードルが低いといった火鍋市場に、多くのプレーヤーが駆け込んできました。現在中国の45万店舗の中、トップ1位から5位の火鍋チェーンを合わせても市場全体の7%ぐらいしか占めていません。これからは、中国の火鍋の店を3つのカテゴリーに分類して、それぞれを解説します。

一番目のカテゴリーを代表する店は、日本にも進出した「海底撈(かいていろう)」という火鍋チェーンです。このカテゴリーの特徴は、ちょっと高級で、食材の種類が豊富で、サービスが抜群というところです。海底撈の池袋店や新宿店で体験したらすぐ分かると思いますが、お店が広くてシャレています。常に100種類以上の食材が用意されています。そして、お店のスタッフは熱意があり、丁寧なサービスを提供していることも印象的です。会計時の値段も、一人当たり5千円ぐらいという、庶民の範囲ですが、ちょっと贅沢というイメージです。日本に進出してきた他の中国火鍋チェーンの「小肥羊(シャオフェイヤン)」も 「蜀大侠 (シュウダイシャ)」もこのカテゴリーに属しています。

二番目のカテゴリーは、呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ。発音がそのまま「しゃぶしゃぶ」です)に代表されるカウンター式の火鍋です。皆で一つの大きな鍋ではなく、「一人に一つの小さめな鍋」というコンセプトの店です。値段が海底撈のような店の2/3ぐらいで、若者を中心に人気が広がっています。そこに行く人々は、食材やサービスの品質にこだわるより、とりあえず安い値段で快適にいっぱい食べられるということを求めています。因みに、お店の名前を呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)にした理由は、日本のしゃぶしゃぶが火鍋より「おしゃれ」なイメージがあるので、若者に流行りやすいという狙いがあったと言われています。

今まで二つのカテゴリーの火鍋の店を見ましたが、近年、最も成長スピードが早いのが三番目のカテゴリーの火鍋の店です。そのカテゴリーは、皆の口に合うために全ての食材を提供することを諦め、ある食材や味に特化した火鍋です。寿司の例でいうと、たくさんの魚を揃えるのではなく、マグロの赤身に特化している寿司屋のようなイメージです。その火鍋のカテゴリーの代表的な店は、「巴奴毛肚火锅(ばぬまおでゅほうごう)」というチェーン店です。店名を分析すると、どんな店かはすぐ分かると思います。「巴奴」はブランド名で、特に意味がありません。「毛肚」は日本語で言えば「センマイ」、つまり牛の第三胃にあたります。そのチェーンは、まさにそのセンマイに特化しています。店舗数まだ上記の「海底撈」や「呷哺呷哺」に劣りますが、成長スピードなどの指標で見ると、既に渡り合えそうになりつつあります。

「巴奴毛肚火锅」の台頭で伺えるのは、20代、30代の中国人が新しい消費者になることでもたらされた嗜好の変化です。36KRの調査によれば、彼らが最も重視しているのは、食材の品質だそうです。サービスや店の雰囲気や価格は、二の次になっています。そのトレンドを見極めた「巴奴毛肚火锅」は、従来の100種類の食材を用意するより、30個ぐらいの食材に絞って、さらに1つの食材、すなわちセンマイのみにこだわるようにしました。なぜセンマイを選んだかというと、中国人が火鍋を食べる時に注文率が最も高い食材だからだそうです。

今後勝負の鍵 = 食材のサプライチェーン

食材の品質が最も重要な評価要素になっている中国火鍋市場にとって、効率の良い食材のサプライチェーンを構築することは今後ますます重要になっていくでしょう。それによって、食材の品質と価格が左右されるからです。

火鍋のサプライチェーンには上流、中流、そして下流があります。下流は直接最終のお客さんと接する火鍋の店にあたります。中流はソースや冷凍食品を作る業者です。上流は、食材の生産や配達などを担当する業者です。日本では、上流から下流までのサプライチェーンを商社が担う場合が多いですが、中国には商社に相当する組織がないので、レストラン毎に自分なりの工夫をして、食材を調達します。実は、36KRのレポートによれば、最も大きな火鍋レストランチェーンは、自ら上流から下流まで確保しつつあります。

例えば、海底撈の場合、食材の生産と調達に特化した子会社を作りました。タレのサプライチェーンを確保するために、それに特化した会社にも投資したようです。もちろん、コストの面で考えると、大手の火鍋チェーンだけが自社で上流と中流を確保できるでしょう。例えば、三つの店舗しかない火鍋の店が自社の農場を作るのは、さすがに考えにくいです。そういった「サプライチェーンで勝負する」中国火鍋市場において、トップ5社のマーケットシェアは今の7%より拡大していくでしょう。

中国火鍋市場で起きている二つのイノベーション

最後に、今中国の火鍋市場で起きている二つの新しいイノベーションについて説明したいと思います。まだ日本の飲食市場に現れていませんが、いつか来るかもしれません。

一つ目はの火鍋のデリバリーです。何でもデリバリーできるようになりつつある中国なので、火鍋もデリバリーできるようになることに驚きはないでしょう。どのように実現しているかというと、レストランは食材とスープを分けてお皿にいれておき、それに加え、簡易の使い捨てのコンロと鍋も一緒にお客さんに届くということです。データで見ると、デリバリーは既に火鍋市場の6%を占めていています。そして、デリバリーの成長スピードも火鍋市場全体の成長スピードを上回っています。特に、最近コロナウイルスの影響で、外食を自粛する中国人にとって、お店の火鍋を自宅で楽しむニーズが増えていることも火鍋のデリバリーを加速させるでしょう。

もう一つの火鍋市場に起きている面白いイノベーションは「カップ火鍋」です。どういうものかというと、カップラーメンのように、コンビニなどで買って、自宅で水を入れるだけで沸騰するというものです。その原理についてですが、粉末スープと一緒に添付の「発熱剤」があって、これは鉄の粉、アルミニウム粉末、酸化カルシウムで作られていています。それが水と接触すると、200度まで加熱するというわけです。安全面には多少微妙な感じがしますが、便利であることは否めないです。2016年ぐらいに生まれたばかりの市場にも関わらず、今や既に300億円の市場になっています。2025までに2兆円の市場になる見込みだそうです。因みに、その市場に参入するのは、海底撈のような火鍋のレストランチェーン店のみなではありません。今まで火鍋と無縁だった食品ブランド、例えば三只松鼠という菓子メーカーも自社ブランドの「カップ火鍋」を棚に並ばせています。

最後に

今回の記事は以上です。今回は36KRのレポートを参考し、中国の火鍋市場を紹介しました。重要なポイントを繰り返して言いますと、中国の火鍋市場は日本の飲食店業界全体の半分ぐらいの大規模な市場になっています。火鍋市場がそこまで成長してきた理由は三つあります。柔軟性が高いこと、会食シーンに合うこと、そしてスケールアップしやすいことが挙げられています。そのあと、中国火鍋市場を三つのカテゴリーに分けて、それぞれの代表的なチェーン店を紹介しました。その中には、日本でも展開している海底撈も含まれています。最後に、中国火鍋市場で起きる最新のイノベーション、すなわち火鍋のデリバリーと「カップ火鍋」に触れました。

前の記事でも話しましたが、「食」は文化や国の壁を超え、人々の心を繋げることには非常に重要な役割を果たせると思います。火鍋文化は今後より日本で発展し、より日中交流に貢献することを期待します。


写真:私が昨年中国で撮ったもの

36KRのレポート:https://tech.sina.com.cn/roll/2019-12-09/doc-iihnzhfz4521641.shtml 

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