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任天堂の歴史 in 中国

こんにちは!Coconです。今回は、「ビデオゲーム x 歴史 x 中国」の話をしたいと思います。

昨年の12月10日、日本の任天堂は中国のテンセントと提携し、人気ゲーム機Nintendo Switchの中国販売を開始しました。

任天堂といえば、押しも押されもせぬ世界トップのゲーム会社です。マリオ、ゼルダ、ポケモンのような世界ユーザーを虜にした超人気IPを創出してきました。それだけではなく、任天堂はファミコンやWiiなど、ゲーム業界そのもの自体を再定義した画期的な商品も世に出してきました。

100年以上の歴史を持つ、京都に本社を置いた任天堂にとって、今回の中国進出は初めて自社ゲーム機が中国で正規販売されることとなります。しかし、実は、任天堂と中国市場の縁はそれより大分遡ることができます。この記事ではその歴史を語ります。

任天堂のゲーム機が初めて中国大陸に現れたのは前世紀の80年代でした。そのゲーム機は、83年に出た家庭用ゲーム機のファミコンでした。任天堂のビデオゲーム事業の出発点とされたそのファミコンは、当時、抜群の操作性や良質なゲームにより、世界のユーザーを魅了しました。中国にも並行輸入品として入りました。しかし、15000円もしたので、平均年収90000円の当時の多くの中国人にとって、なかなか手を出せない高級品でした。

15000円の本物は買えませんでしたが、模倣版のファミコンは雨後の筍のように続々と出現しました。模倣版はどういうものかというと、ファミコンを分解し、その仕組みを再現して作られたゲーム機でした。その中で最も有名なのは、「小霸王学習機」というものでした。なお、そこで使えるゲームもほぼ全部ファミコンゲームの模倣版でした。今は言うまでもなく違法で、知的財産権の被害対象になりますが、当時中国での知的財産権の意識が薄く、合法だったらしいです。

ところで、商品名の「小霸王学習機」に「学習」という単語が含まれた理由は、パソコンの形状に作られたからでした。一応、「ゲーム用だけではなく、勉強用の機械としても使えるよ」と中国の親たちにアピールする目的でした。実際にゲームプレイのために購入したユーザーが圧倒的に多かったですが、この巧みなマーケティング手法は功を奏しました。一時期、香港の超有名俳優のジャッキー・チェンを起用したテレビCMも中国で流し、大ヒット商品になりました。正式な統計がないものの、その「小霸王学習機」という模倣版のファミコンは2000年までに2000万台も売られ、日本における本物のファミコンの販売数の1800万台を凌いだという説もあります。

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任天堂の視点から見ると、「小霸王学習機」の売上から一円の利益も得られませんでした。しかし、全くメリットがないとも言い切れませんでした。少なくとも、模倣版のファミコンのおかげで、「任天堂」のIP、特にマリオを中国人ユーザーに広く深く浸透させました。

2000年に中国政府はあるゲーム業界に嵐を巻き起こした規制を出しました。規制の詳細を割愛しますが、中国ビデオゲーム業界に与えた実際の結果としては、コンソールゲーム機の販売が禁止されることでした。それによって、中国のコンソールゲーム市場はほぼ即死しました。その代わりに、PCゲームゲーム市場が勃興しました。なぜかというと、パソコンはコンソールとは違って、ゲーム専用の機械ではないので、規制対象外でした。

厳しい規制に直面しなければならなかったにも関わらず、任天堂は中国に参入することを決めました。かなりクリエティブな仕組みを練り上げました。中国政府がコンソールゲーム機を禁じましたが、明白に「コンソールゲーム機」を定義しませんでした。任天堂は中国でiQUEという子会社(厳密に言えば、最初はJV、その後子会社)を作りました。その子会社は中国で特別な「コンソールゲーム機ではないコンソールゲーム機」を2003年に発売しました。iQue Playerと名付けられた商品でした。どういう商品かというと、ゲーム機の本体とゲーム機のコントローラを一体化したものでした。こうイメージしてください「大きめのゲームコントローラをテレビに接続すると、すぐにゲームができる」。従来のコンソールゲーム機が必ずある本体がなかったため、上記の規制の対象外になったようです。

iQue Playerの性能は1996年に販売され、当時一世を風靡したNINTENDO64とほぼ同じて、遊べるゲームも基本「ゼルダの伝説 時のオカリナ」のようなNINTENDO64のゲームでした。

価格面で考えると、iQue Playerはなかなか魅力的な商品でした。機械自体は600人民元、当時の為替レートで換算したら、1万円以下で、日本のNINTENDO64の2.5万円をはるかに下回りました。ソフトも、一本50人民元、700円弱という驚異的な低価格でした。当時の任天堂社長の岩田さんは、「中国の高所得層だけを相手にするのではなく、幅広い展開を考えている」と低価格戦略の意図を説明しました。

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しかし、販売数で見ると、iQue Playerは決して成功とは言えませんでした。実は、任天堂の初めての中国進出は、1万台ぐらいしか売れなかったという惨敗で終わりました。中国市場の要素はさておき、iQue Player自体には二つの致命的な欠点がありました。まず、2003年iQue Playerが発売された時点で、GameCubeというNINTENDO64の次世代のゲーム機が全世界で販売されていました。それにも関わらずiQue Playerのスペックは前述の通り、基本NINTENDO64基準でした。そして、二番目の欠点は、遊べるゲームソフトの数が14個しかなかったということでした。ゲーム機本体とコントローラを一体化することで、巧みに中国政府の制限を回避しましたが、ゲームソフトに関して、相変わらず一本ずつ中国政府の許可を取得する必要がありました。そこで頓挫し、14個の許可しか得られなかったようでした。

その後も、任天堂は懲りずに、中国での試みを続けていました。中国当局の規定を遵守しながら、現地子会社iQUEを経由して、当局の規定で禁止されていなかった仕組みのゲーム機を中国で続々と発売しました。2004年にiQue Game Boy Advance、2005年にiQue DS、2012年にiQue 3DS XLを発売しました。残念なことに、最初のiQue Playerのように、海外の同スペックのゲーム機より大幅に遅れて発売したこととゲームソフトの数が不足したことで、いずれ試みも惨敗を喫しました。実は、iQUEが出した最終の商品のiQue 3DS XLに対応できるゲームは2つしかありませんでした。

因みに、岩田社長は2008年にNintendo Wiiを中国でも販売したいと宣言しましたが、結局実現できませんでした。但し、あまりにも魅力的な商品だったので、並行輸入品のみならず、Wiiの偽物が出ました。例えば、Viiという一時期人気を博したゲーム機がありました。その時、中国でも知的財産権の意識が高まっており、偽物のメーカーは90年代のように堂々とマーケティング活動をすることができませんでした。

2000年から2014年までに続いたコンソールゲーム機の禁止令は、中国のコンソールゲーム機市場をほぼ消滅させました。唯一少しだけ残ったのは、並行輸入版のコンソールゲーム機でした。その規制の元々の意図は、子供や少年がビデオゲームという不健全な遊びに大量な時間を費やすのを防ぐためでした。しかし、皮肉にも中国がその14年間で、約2兆円を誇る世界最大のビデオゲーム市場に発展してきました。コンソールゲーム機市場がほぼなくなったものの、PC、そして2010年代からスマホゲーム市場が膨大になってきたのです。政府もおそらくコンソールゲーム機の禁止令の無意味さに気づき、2014年にそれを取り下げました。もちろん、販売すること自体は解禁されましたが、販売するまでに、当局の許可が必要です。ゲーム機の本体も、ゲーム機で遊ぶゲームソフトもそれに当てはまります。

その新しい政策を受け、世界最大のビデオゲーム市場の中国に惹きつけられた世界三大コンソールゲーム機メーカーの任天堂、Microsoft、ソニーは続々と中国市場に進出しました。Microsoftは先鞭をつけて、解禁された直後の2014末に、中国現地のパートナー企業と組んで、中国正規版XBOX ONEの販売を開始しました。それによって、中国市場には同時に二つのXBOX ONE、すなわち並行輸入版のXBOX ONEと中国正規版XBOX ONE、が存在するという面白い現象が起きました。

少し本題を外れ、その二つの商品の違いを説明します。並行輸入版は文字通り、世界の他の地域(多くの場合は日本と香港)で販売されたゲーム機です。並行輸入の業者は、そういったゲーム機をそのまま中国に運び、販売します。もちろん、全ての海外販売のゲームソフトを遊べます。違法ではありませんでしたが、合法でもありません。いわゆるグレーゾーンにある商品です。そのため、堂々と大手電気製品のモールで販売することができませんでした。それに対して、中国正規版は中国政府の許可を得たので、大規模な販売活動が実行できます。但し、その許可の代償として、中国政府のガイダンスに従ってゲーム機の仕様を変えなければなりませんでした。たくさんの変更の中、最も手痛いのは、中国政府が承認したソフトしか遊べないという点です。なぜかというと、中国政府がゲームソフトを承認する際に、ゲームにある骸骨やお色気シーンの削除など、多くの修正を求めます。そのため、海外のほとんどのゲームは許可を得ることができません。

本題に戻ります。中国正規版XBOX ONEが販売されるようになったにも関わらず、わざわざ並行輸入版のXBOX ONEを選ぶユーザーの理由が分かるでしょう。正規版のゲーム機を購入しても遊べるゲームが限られているので、やはり並行輸入版を買って、自由に海外のタイトルを遊んだ方が良いと思うユーザーが多いでしょう。

Microsoftに続き、Sonyも2015年に中国正規版のPS4を販売開始しました。しかし、ゲームソフトのラインナップ不足で、両社とも苦戦しています。実は、2020年明けの時点で、中国正規版のXBOXに対応できるゲームは10個ぐらいしかなくて、中国正規版のPS4に対応できるゲームも30個以下のようです。それだけではなく、2000年から2014年まで続いたコンソールゲーム機の禁止令が原因で、中国人ゲームユーザーはPCゲームとスマホゲームに依存するようになり、リビングでコンソールゲーム機でゲームをする習慣があまりありませんでした。

そういった背景の中、任天堂は2019年5月に、中国インターネット大手企業テンセントとのパートナーシップを発表し、同年の12月に中国正規版Nintendo Switchを発売しました。据置型と携帯型という二つの遊び方ができるNintendo Switchは、従来のコンソールゲーム機と一線を画し、とても魅力的な商品だと思います。それに加え、前述した通り、「小霸王学習機」という模倣版の「ファミコン」の大成功のおかげで、マリオなどの任天堂IPは中国人に馴染みがあるキャラになっています。特別な性能と認知度の高いIPを持つ任天堂は、果たして独自の手法で中国コンソールゲーム市場を盛り上げるか、それともMicrosoftとSonyの二の舞を演じるか、注目されるするポイントです。

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写真の出所:
トップ:https://www.thebeijinger.com/blog/2019/12/10/nintendo-tries-its-luck-in-china-again
iQue Player: https://en.wikipedia.org/wiki/IQue_Player
小霸王学習機: https://madewithunity.jp/info/senka-2/
Nintendo & Tencent: https://www.theverge.com/2019/8/2/20751368/nintendo-switch-china-tencent-launch-partner



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