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『品の正体』 第八講 品の美徳

第八講 『品』の美徳

 前回は、「品の徳目」のお話をしました。

 今回は、「品の美徳」として『美徳』のお話をするのですが、はじめに前回の『徳目』と今回の『美徳』の関係をお話しておきましょう。

Ⅰ.『美徳』と『徳目』
―『善』をなす『性徳』—

 『徳目』とは、『美徳』や『徳性』などの『徳分』を表現する言葉で、それら一つひとつの項目のことです。

 『徳分』とは、実際に『徳分』を積む、という使い方もしますが、一般的には本来生来的に備わった『徳』のことをいいます。

 ですから『美徳』や『徳性』も『徳分』であり、その半分はギフトとして授かったものと考えてよいでしょう。

今まで、『徳』にはどのような側面があるのかということで、『美徳』や『徳性』のお話をして参りました。

 『美徳』について言えば、これも一つの『徳目』であり、ただの『徳』ではなく、『美』がつくことで、『徳性』とまた趣が異なります。

 『徳性』とは(こころ)に近い『徳』であり、『美徳』とは<あたま>に近い『徳』ということもできるかもしれません。

 もう一つ『功徳くどく』という言葉があります。

 これも『徳分』と同じように『功徳』を積むという言葉もあるのですが、この語彙にはギフトの趣はなく、自らが『徳』を知った上で、行動の結果得るものですから結果の側面の[からだ]に関与します。

 『功徳』は『善きこと』を行うことで生じる『徳』であり、当然[からだ]が必要になるのは当たり前だと思います。

 これらの行いを続けることが『徳を積む』ということなのでしょう。

 ですから、結局のところ、『品』とは、それらを醸し出す『品位』『品格』『品質』において、どんな場合にも必ず『徳性』を問われることになるのだ、ということです。

 『徳性』という言葉はすべての『徳』という性質にも関与するため、『善』を担う『徳分』を表現するだけではないといえます。

 そもそも言葉の成り立ちとして、『徳性』は『善』に近く、ほぼ『善』の全領域が『徳』を指すので、あえて『徳目』のなかに『善』を為すための『徳』を示す言葉が必要なかったことはあるかもしれません。

 しかし、さらに『品』の正体を明らかにするため、新しく『真』『善』『美』に対応する『徳目』をお示ししたいと思います。

『真』の徳性を『功徳』

『善』の徳性を『性徳』

『美』の徳性を『美徳』


 実は、この中の『性徳しょうとく』という熟語はあまりお聞きになったことがないと思います。しかし、この言葉は天台宗の教えに存在しています。

 衆生が本性として備えている先天的『徳』の能力を性徳、修行によって得る後天的な能力を修徳とするようです。あるいは、狭義の『徳性』あるいは『徳分』と考えて良いかもしれません。

 もともと『良心』というものが、人の心根に公平に存在する能力であるということからも、『性徳』という熟語が、人に備わる本来の『善』に通ずるのは明らかでしょう。

 ここであらためて『善』の『徳分』を『徳目』として強調する熟語に『性徳』という語彙を定義しておきたいと思います。

 では、『徳の構造』として、それぞれの関係性をお示ししておきましょう。

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 『徳分』『徳目』『徳性』は『徳』を外部から整理するようなイメージであり、『美徳』『功徳』『性徳』は内部のより細かな『徳』を説明する語彙ではないかと推察しています。

 当然、内部では『美徳』や『功徳』、『性徳』は重なりあう部分ができます。基本的にはこの三者がそろっていることが大切であると思います。

 この三重の円が『品』の文字そのものを表しているといっても過言ではないでしょう。 

 では、次に『美徳』について以前に掲げた10のダルマの解説をして参りましょう。

Ⅱ.『美徳』のダルマ

 以前ご紹介した通り、このダルマは10あるのですが、それらの構成について考察をしておきましょう。

 このダルマは、お釈迦様の教えと言っても良いのですが、実は、ジャイナ教という原始仏教の教えに出典されているものです。

 そしてジャイナ教にも『三宝』の考え方があり、先程も触れた『三宝』の『功徳』『性徳』『美徳』の考え方に非常に近いのです。

 ウィキによると、ジャイナ教によれば、「三宝」(ratnatraya、ラトナトラヤ)と呼ばれる、「正しい認識」(samyak darśana、サムヤク・ダルシャナ)、「正しい知識」(samyak jñāna、サムヤク・ジュニャーナ)、「正しい行為」(samyak caritra、サムヤク・チャリトラ)が真のダルマを構成するといわれています。

 ですから、ここでも

「正しい認識」=『善』=『性徳』

「正しい知識」=『美』=『美徳』

「正しい行為」=『真』=『功徳』

と関連があると言えるでしょう。

 そして『美徳』を指すダルマの構造的な理解として、私は次のように考えています。

 はじめの5項目が内面の心情を、後の5項目が行為や行動に近い『徳目』を掲げています。

 ですから、前半5項目は『性徳』に近い『美徳』であり、後半5項目は『功徳』に近い『美徳』であるとも言えるでしょう。もう一度ダルマを見ておきましょう。

1 . 寛容さ forgiveness
2 . 謙虚さ humility
3 . 率直さ straightforwardness
4 . 正直さ truthfulness
5 . 純潔さ purity
6 . 自制  self-restraint
7 . 苦行  penance
8 . 放棄  renunciation
9 . 無欲  non-possessiveness
10.   独居  celibacy

 では、これらの解説をして参りましょう。

 これらの『美』の一面とそれぞれの『徳目』はどのような関りがあるのでしょうか。

 ここから先は、様々な語彙の構造的なお話になりますが、そもそも『品』として最もよく使われる言葉、『品質』の維持管理をするために、『改善』が大切なことはお話しました。

 私たちは常に良きものへの追求を行い、その土台に『善』や『良』のエッセンスが必要であったり、公平性や公正性を考えたりします。

 ですから『改善』は、土台として道徳や倫理が要となっています。

 そして『美』の領域は、一つの対称性や幾何学的な美しさという面があり、秩序観という『感性』も必要になってきます。

 当然のことながら、これは、ある視点を持つということにもなります。

 この視点については、最終講『品の構造』で解説をしていくことに致しましょう。

 『美』は『徳』を左右する舵取りを行っている「場」とも考えられます。

 それぞれの『徳目』の1~5までは『性徳』を示し、6~10までは『功徳』として実際の行動を表現しています。

 そして、その語彙の初めに『この上ない』という、この形容を以て全体が『美徳』となるのです。

 『美徳』となるためには、この接頭辞が付かなけれは『美徳』にはなり得ません。

 それは、常に向上しようとする意欲、高みに及ぼうとする意志、高貴なものを畏れ敬う意識、それらが能力として明らかに表現されるとき、これらの項目は『美徳』として最高の価値あるものになるのです。

 ですから「この上ない」という接頭辞を省略することは、ただの「徳目」ということになります。

 では、はじめに、これらの「徳目」から『性徳』と『功徳』を一つひとつ対比して組み合わせ違った視点から「徳目」を見て参りましょう。

1. 寛容さ ― 6. 自制
(forgiveness-self-restraint)
 徳目の最上位に挙げられるもので、全展開に広がる受容的態度が求められています。美の徳性からこの能力は個々人に与えられたものであり、行動として6.自制と関連が深いと考えられます。
2. 謙虚さ ― 7. 苦行
(humilityーpenance)
 徳目の第二位に謙虚さが含まれています。そして苦行とは人生の道ですが、本当の苦行はその行により人生の『行楽』を自覚することであり、その自覚には常に謙虚さが必要だと考えられます。
3. 率直さ ― 8. 放棄
(straightforwardnessーrenunciation)
 率直には「大まか」という意味合いがあり、なんでも捨てるのではなく、仏教の「八正道」に従って、それ以外のものを限りなく捨てていく、その際の心持ちに率直さが必要だと考えられます。
4. 正直さ ― 9. 無欲
(truthfulness-non-possessiveness)
 仏教では、執着(しゅうじゃく)への戒めがあります。しかし欲には「大欲」と「小欲」があり、とくに「公」に向かう「大欲」を収めるために正直さを以て進むことが重要と考えられます。
5. 純潔さ ― 10. 独居
(purityーcelibacy)
 純潔の本来の意味は、「不純」や「不潔」を含んで越えたところに真の純潔があるとしています。それには自立性を必要とし、自らを戒める「独居」の精神性と関与が深いと考えられます。

 以上、今回は「徳目」の導入部分として、『性徳』と『功徳』そして、全体の『美徳』にまつわるお話をしました。

 次回は、さらに掘り下げ、第九講、『品の本質』としてこれら「徳目」を詳細に見て参ります。

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