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2.ストレス対策

はじめに

 平成31年4月29日。本日は第2問目で、お題として「ストレス対策」についてお話したいと思います。

 なにごとも対策を練るには、それらの仕組みを理解していないと、対処のしようがありませんね。

 そこで今回は、基本的なストレスの生じる仕組み、特に職場においてどのような影響が関わってくるのかを見ていくことに致しましょう。

 このシリーズ前半は、おそらく総論的なお話が多くなると思います。読者の方々の知識や理解度なども異なると思いますので、最初は、なるべくやさしく簡単なところからご説明していきたいと思います。

では、早速はじめましょう。

「ストレス」とは

 そもそも、「ストレス」という言葉は、ラテン語の「stretto」 つまり「狭い」という言葉から由来し、現代でも音楽用語で「緊迫した演奏で次第に早く」という意味で使われています。

 人間、狭いところに居たり、緊迫したりするとやはり「ストレス」を感じやすくなるのは当然のことですね。空間的な狭さだけではなく、心理的な緊迫感もストレスになり得るということです。

 そして、ストレスに対する反応は、精神的なことだけにとどまりません。身体的な反応や、心因反応として心理的な問題にも波及していきます。

 その中でも特に、高ストレスの方の原因となるのは、やはり人間関係だと感じます。僕が産業医の立場で、職場環境改善に最も必要と感じるのは、人間関係の円滑なコミュニケーション能力、これに尽きるというのが正直なところです。

 「プレトーク」として、第15問でも「コミュニケーション能力」に関連したお話をしますので、今日は基本的なところを確認しておきましょう。

 では、どうしたら、円滑なコミュニケーション能力が付くのでしょうか。

「内部アプローチ」と「外部アプローチ」

 僕は、職場環境調整におけるコミュニケーション能力について語るとき、よく「内部アプローチ」と「外部アプローチ」という表現を使います。これは、もともとコミュニケーションには、二つのアプローチがあることに由来しています。

 まず、自分自身のことをよく知ること、つまり自分の性格傾向や気質などを知るということです。「内なる会話」とでも言うのでしょうか。これを「内部アプローチ」といいます。

 次に自分自身が、集団あるいはチーム組織のなかで、立場や立ち位置など、役割を担う部分を自覚しているか、このような感覚を保つことを「外部アプローチ」と呼んでいます。

 それでは、これらの二つのアプローチが、職場におけるストレスの流れのどこに影響するのか、下のストレス要因の相関図で見ていくことにしましょう。

ストレス要因を見てみよう

 まず、図の左手から、個人が仕事のストレスを感じるところが、「仕事のストレス要因」、それから、体に変調を感じるところが「ストレス反応」、最終的に精神心理的な病気を発症する「疾病」までの流れを示しています。

 この流れで、「仕事のストレス要因」から「ストレス反応」までに、主に三つの要因が関与しているのが分かります。それが、「個体要因」と「仕事外の要因」、そして「緩衝要因」です。

「個体要因」は、個人の気質や性格傾向、考え方や感じ方の癖

「仕事外の要因」は、プライベートな問題(介護、家庭の事情など)

「緩衝要因」は、同僚や上司のサポートなど(時に家族も含む)

 これらが、総合的に精神心理的な変調に関与するとされています。

 この中で「個体要因」は、自分自身の心の内面を観察することにより、心の反応や感情の表出する癖を見抜き、ストレスを受けたとしても溜めないようにするアプローチをとることが可能です。

 「個体要因」の上の吹き出しにあるように、「ストレス耐性を高める」という対処方法が可能なのです。

 この部分、つまり赤の楕円の部分が、内部及び外部アプローチに関与する部分です。それでは次に、これらアプローチについてみて参りましょう。

「内部アプローチ」とは

 「内部アプローチ」とは、今回の「ザ・レジリエンス・トーク」でお話する中心的話題、「個人のこころの回復や復元」というストレス耐性を発揮するための方法論ということになります。

 レジリエンスとは、もともと物理領域で回復力や復元力を言い表す言葉で、全米心理学協会の会長だったマーティン・セリグマンが、ポジティブ心理学という学問領域の中で、新たに、心のしなやかさや、強(したた)かさなどの表現に流用したものです。

 諸外国では、レジリエンスを「筋肉」のように強化できるものとして考えています。最近では、Googleなどの会社で取り入れているマインドフルネス瞑想などにより、感情的な部分へ介入する方法もその一つです。

「外部アプローチ」とは

 外部アプローチは、先ほどの三つの要因のうち、直接的あるいは間接的に「個体要因」以外の部分を支援する方法になります。

 たとえば、職場内の人間関係で、意見の相違が発生している場合、人事の調整や関係者との話合いが必要なことがあります。

 特に感情的になっている場合、お互いがテーブルに着くことが困難なケースもあるでしょう。そのようなときには、仲裁できる能力のある方に公平公正な立場で介入してもらう必要がでてきます。

 ここでは、お互いの立場を自覚し、相手を思う気持ち(対他的なアプローチ)が必要になってきます。つまり組織やチームとして、自分自身が存在する意義や立ち位置を認識し合えているかが重要なポイントとなります。
 
 レジリエンスは、基本的に「個人の耐性」を高めることに特化したようにみえますが、実は、会社全体のレジリエンス力を高めることにも役立つのです。

 もし、感情的に対立した関係者を会社側が和解させるような努力や配慮をせず、また、人任せにして常に回避するような行動をとったとすれば、それが会社の方針、つまり「考え方の癖」になります。

 社風として定着してしまう、ということですね。

 誰かがするというより、まず当事者同士が「言いたいことが言える」、話合える風紀を会社が育てなければなりません。本当に「言うは易く、行うは難し」ですが、この辺にも、じつは一人ひとりのレジリエンス力が関与するのです。

  このようなことからも「外部アプローチ」は必須ですが、まずは、自分自身の内なるコミュニケーション能力を培うこと、つまり「内部アプローチ」が先決だと考えています。

最後に、本日のまとめとして、

内部アプローチとは、
 社員一人ひとりが考え方の癖や感じ方を観察し、よりしなやかな思考で自分を見つめ直すこと。
外部アプローチとは、 
 一人ひとりが他者を意識し、相互主体的に、自分に何ができるか常に考えていく姿勢。

 これらの具体的なストレス対策については、今後、この「プレトーク」の中でお伝えできるのではないかと考えています。

本日も最後までお読みいただき
誠にありがとうございました。

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