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パンクした日

 こんこん……。

 いつものように憂鬱な顔をしながら仕事をしていたボク。
 会社の車に乗って交差点で信号待ちしていたら、急に知らない男の人が車の扉を軽く叩いてきた。

 別に何か気に障ることをしたわけでもないし、声をかけてきた男の人も別にそんな怒っている感じでもない。

 なんだろ……。
 そう思って窓を開ける。

『後輪、パンクしてますよ』
『ええ!!!』
 慌てて車の扉を開いて後輪を確認すると、ペシャンコになっている。

 これはまずい。
『ありがとうございました』
『いえいえ。お気をつけて』
 指摘してくれた男の人にお礼を言ってボクはゆっくり車を走らせながら安全なところに停車させる。
 車を降りて右の後輪をあらためて確認すると、ちょっと空気が抜けているとかそんなレベルではない。おそらく気づかずにこのまま走っていたら大変なことになっていた。
 どう大変なことになっていたかはあまり車に詳しくないボクには分からないのだけど、でもパンクしたタイヤで車を走らせてはいけないことぐらいはよく分かる。

 いやあ……参ったなあ。

 雨が降る中……途方に暮れるボク。
 とりあえず、会社が契約している車屋さんに連絡する。
『もしもし……』
『あ、いつもありがとうございます』
『いつもお世話になっています。実はですね。車がパンクしちゃって』
『それは大変ですね。じゃあ、まずはスペアのタイヤに変えて、パンクしたタイヤを工場に持ってきてもらえますか?』
『承知致しました。よろしくお願い致します』

 タイヤ交換か……
 この雨の中……

 ちょっと憂鬱になったボクだけどやらないと何も動けないので仕方なく車のトランクの中からジャッキと工具を取り出して車をジャッキアップさせた。
 この作業が中腰なのでなかなかしんどい。

 おかしい……。
 少し前まではそんなにしんどいとも感じなかった作業だ。
 もちろん不器用なボクがそんなに手際よくできるわけはないのだけど、しんどくはなかった。
 ところがどうだ。
 今ではジャッキアップのために少ししゃがむだけでも辛い。
 まずお腹がつかえて息苦しいのだ。

 やばい……。
 息苦しくて死ぬ……。

 いや普通に一回立てばいいのだ。
 休憩しながらジャッキアップすればなんの問題もない。
 何度か立ったりしゃがんだりを繰り返しながら、車をジャッキアップするボク。
 言っておくが土砂降りの雨の中で……である。

 一応、立って休むときは5ドアの車の後ろを開けて屋根替わりにしながら、濡れないように休んだのだけど……やっとジャッキアップできたと思った時にはすでに全身ずぶ濡れで、しかも暑いから汗もすさまじく出ており、もうとてもではないが誰か会えるような状況ではなかった。
 だから利用者の訪問が終わってからで本当に良かったと思う。

 この段階で今度はタイヤを交換しなけれならない。
 L型レンチを使って、ホイルナットを緩めて、パンクしたタイヤを外す。
 そして逆の工程で今度はスペアタイヤをつける。

まあまあうまくできたと思ってる。

 これ……途中で外れたら最悪じゃん……。

 そう思ったボクはなるべくナットを強く締めた。
 後で聞いた話だと、これ……強く締めすぎてもダメらしい。
 まあ、デブで非力なボクがきつく締めたぐらいでは締めすぎにはならないだろうけど……

 それにしても不安だ。

 そんなことを言っていても無駄に時間がなくなるだけなので、ボクはパンクしたタイヤをトランクにしまい、工場に向かった。

 走り出すと車は無事に走れたのだけど……
 濡れた身体で運転席に座ると、どっと疲れが出てきた。

 気が付けば腰もかなり痛かった。
 やはり運動不足なのだろう。

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