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なぜ学校はあんなに部活熱心なのか

 立正大淞南高校での部活クラスターを皮切りに、部活動の感染防止策が話題になり始めました。twitterでの反応は様々ですが、「子供たちが甲子園に出られる場ができてよかった、頑張れ!」「こんな猛暑の中でやるなんてありえない!」「部員がノーマスクで大声を出しているのはもはやクラスターフェスだ!」などの声が聞かれます。これらの声に対して議論をする上で、学校部活動の現状に対する理解は必須です。そこで今回は学校部活動の現状についてイロイロ書いていこうと思います。


① 部活動優先の実態

② なぜ部活動はあんなに優先されるのか

③ 現状、部活動での三密対策はできているのか


・部活動優先の実態

 昨今の部活動は、自治体によっては授業以上に優先されることもあります。一部教員のtwitterを見ると「大会のために生徒は数日間公欠(欠席扱いとならない)して、その間の授業はすべて自習」のような実態もあるようで、私の勤務校でもそのような事がありました。かつての勤務校では「部活が忙しすぎて授業はずっと寝てる生徒」なんていうのも数百人単位で見てきました。こうした生徒はテストでどれだけひどい点を取っても「忙しい部活動を頑張っているし、進級させてあげましょう」として成績1であっても特例で進級させるなどの事案が横行しています。ちなみにこれは職員会議における校長の一声で決まったりします。

 学校外部から見える部活動優先の動きもあります。今年、甲子園やその予選となる地方大会が甲子園の運営委員会によって決定しました。選手の長距離移動や宿泊等による感染リスクを下げられないこと、全国的に休校が続く中で部活動の練習時間が確保できないことなどが特に考慮された結果といえるでしょう。この判断には一部「生徒がかわいそうだ」という声も上がりましたが、それ以外に大きな反対意見はなかったように思われます。教員の中でもこの「生徒がかわいそうだ」との批判をしていたのはいわゆる「BDK(部活だけ教員)」と揶揄される人々が中心でしたので、おおよそ教育現場内でも中止の判断は支持されていました。(BDK問題はまた別記事で)

甲子園中止のニュース

 しかし運営委員会の判断をよそに、荻生田文科大臣は「地方大会の代替大会を開けないか検討してほしい」というような声明を発表しました。

 この声明を発表する前日には学校の部活動含む教育活動全般に関するガイドラインも出されていますが、その中(問50~)では「大会の参加については、感染リスクへの対応が整わない場合は、引き続き慎重な対応が求められる」とあります。つまり「感染リスクが十分想定される」中で代替大会を行ってほしいとの要請をしています。

・5/21付 教育活動に関するガイドラインへのリンク

 このように、学校社会において部活動は異常なまでに優先されているという実態があります。部活動は本来「教育課程外」の活動であり、その設置は義務ではありません。また学校の教育について示したガイドラインである学習指導要領にも「教育課程内である教育内容との関連等を図ること」とあるように、部活動はあくまで授業など正規の教育課程の内容を「補う」ものであるという位置づけが明記されています。しかし実態は前述のように部活至上主義のケースが散見され、学校の部活動熱は過熱しているのが現状です。

高等学校学習指導要領へのリンク


・なぜ学校はあんなに部活熱心なのか

 では、なぜ学校はこんなに部活動熱心なのか。もちろん「これまでそうされてきたから」という慣習による部分が大きいですが、学校の内情を考慮すると以下の要因が挙げられます。

① 学校の生徒募集のため
② 生徒の内申書のため
③ BDKによる自己満足

・学校の生徒募集のため
 これは強豪の私立学校などに特徴的です。甲子園のような夢の舞台に憧れて部活動に加入する生徒は多く、「甲子園に行きたい」という夢を叶えようと思ったら強豪校に入る必要があるのは言うまでもありません。つまり部活動でいい成績を残す→その部活に入りたくて入学してくる生徒が増える→志望生徒が増えて受験料収入等が増加→学校の財政安定・給料向上とつながります。こうした背景があり、一部私学では「下校時刻をすぎても活動する」「特定の部活動に入っている生徒は成績が悪くても進級できる」「特定のスポーツが堪能な生徒は内申点が足りていなくても内々で合格させる」といった事が校長も含めた学校ぐるみで行われていたりします。

・生徒の内申書のため
 これは公立校でもあります。内申書とは「生徒の成績や学校生活の様子」を記したもので、生徒が志望する高校へ送られたりするものです。学校による程度の差こそありますが、大会で優秀な成績を収めたり、部長として活動するといった事項は入試においてプラスに働くとされています。そのため生徒が大会で優秀な成績を収めることで推薦入試等において入試を有利に進めることができ、部活動を過熱させる一因となっています。

・BDK(部活だけ教員)による自己満足
 これはまた別記事で詳細を書きますが、様々な事情により部活動至上主義となった教員が、学校生活の中心に部活動を据えるという現象が多くのスポーツ強豪校などで見られます。BDKと揶揄される教員が一定数存在し、彼らの声が大きいために部活動の過熱が促進されている面もあります。


 これらの理由により、学校においては部活動が優先される傾向が強く出ています。この三つの理由を頭に入れつつ近所の学校を見てみると結構面白いので、ぜひ見てみてください。人気のある学校はそもそも生徒募集に躍起になる必要がないので部活もガツガツというよりはのんびりなところが多い(強豪除く)し、大学付属校や圧倒的進学実績を誇る学校は内申なんて考えなくても進学に対して困らないので部活はそこまで過熱しません。


・現状、部活動での三密対策はできているのか

 結論から申し上げますと、できていないでしょう。これは、現在毎日放送されている甲子園交流試合を観ていただければわかるかと思います。各校の部活動はあんな感じです。手洗いやマスクなど体裁上は対策しているものの、選手がヒットを打ったり三振をとったりするとベンチからは大声が鳴り響いています(しかもベンチ選手は熱中症対策でノーマスク)。さらにどれだけ教員側から指導をしても、生徒は近くに寄って話をしたり、放課後には遊びに行ったりと三密を防ぐことは事実上不可能です。

 ただし8/6付けで文科省から出されたガイドラインでは

「年齢が上がるにつれて、学校内でも、教員の直接的な監視下にはない行動や、自主的な活動が増えることから、衛生管理について生徒自ら留意するよう、指導することが必要です」

という記載があり、生徒を常に管理下に置くことは現実的でないという判断そのものはなされています。おそらく、今後はこのあたりを隠れ蓑にして部活動を推進していく学校も出てくるでしょう。


 以上となります。現状では多くの学校で部活動が再開されていますが、三密対策が不十分なものとなることは間違いありません。文科省や教員サイドとしては感染リスクを0にはできないことを理解しつつも部活動の持つ意義を鑑みて活動を再開していこうというスタンスですが、このあたりを拡大解釈して一部の部活動や大会は強行されています。生徒の望む部活動を過度に緊縮すべきではないですが、それに乗じて制限を取り払った活動を行う部活動がないかなどは、世間全体が目を光らせているべきだと考えています。

少しでもこの現状が広まるといいなあ。

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