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【エッセイ】華麗なるバカミス・ワールド

 バカミスとは、その名の通りおバカな発想が光るミステリーのことです。
 よく似た語感のユーモア・ミステリは、登場人物のおかしな行動やシチュエーションが笑いを誘うもの。
 それとは一線を画すバカミスは、登場人物はいたって真面目に取り組んでいるのに、そんなアホな! と叫びたくなるようなトリックや結末に仰天してしまいます。
 そんなバカミス・ワールドの一端を、ご紹介したいと思います。
(ネタばれしないよう、注意したつもりです)

パブリックドメインQより

怪作?快作『ザ・ハント』

 目鼻立ちのくっきりした美少女エマ・ロバーツ(ジュリア・ロバーツの姪)が、誘拐されたところから始まる、ありがちなシチュエーション。
 2020年のアメリカ映画である「ザ・ハント」は、ああ彼女がヒロインのマン・ハント(人間狩り)ものだな、と思わせておいて。。。

 いきなりエエ~ッ! という展開になる。
 その後も、正統な道筋に戻ると見せては裏切り、裏切ったかと思えば正統な道へ、と翻弄される怪作。

 富裕層が下層民を標的に人間狩りを催し、ヒーロー、ヒロインの活躍で逆転するカタルシスが「マン・ハント(人間狩り)」ものの特徴。その濫作にウンザリしていた時に観たので、よけいに面白く感じた。

 本国アメリカでは、なぜかこの作品を政治風刺と捉えて、失敗作だという批評がある。
 しかし政治風刺の要素は少なく、むしろSNSに踊らされる人々の愚行、という面が垣間見える。

 なんでも『フーシ』しなければ、という脅迫観念から逃れて素直に観れば、まったく面白いバカミス作品だ。
(U-NEXTで配信。ツタヤでDVDレンタルあり)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

『エレメンタリー』だよ、ワトソン君

「初歩的な(エレメンタリー)ことだよ、ワトソン君(Elementary, my dear Watson.)」というホームズの口癖からとられた題名のこの作品。現代のニューヨークで活躍するシャーロック・ホームズ譚だ。
 日本では『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』として公開された、米国CBSの連続ドラマ(2012年)。

 日本人はキャラ好きなので、現代によみがえったホームズものとしては「SHERLOCK(シャーロック)」(2010年、英BBC)のほうが評価が高いようだ。
 しかし、さすがはエンタメの国アメリカ。「エレメンタリー」のほうが ストーリーやミステリ要素では断然面白い、と私は思う。

 なかでもバカミス要素が高いのが、シーズン2の第17話「よみがえり」。
 人の耳の形は指紋のように各人で異なり、個人の識別に使うことができる。
 切り取られた人の耳が送りつけられる、という猟奇的な事件。
 DNAはもとより、形まで特定の人と同じ「耳」を使った犯罪のトリックは? なのだが、これがそんなアホな!と思わずのけぞってしまうバカミス作品。
(Huluでシーズン7が配信中。ツタヤでDVDレンタル)

パブリックドメインQより

エドガー・アラン・ポーの蛾

 米国の作家ポーが生み出したオーギュスト・デュパンは、相手が考えていることを観察と推理で、言い当てたりする名探偵の元祖。
 ちょっとでも設定やキャラに似たところがあると、パクリパクリと叫ぶパクラーが当時はいなかったので、英国のお医者さんが量産型を創って成功した。
 それがシャーロック・ホームズ・シリーズだ。

「エレメンタリー」と「シャーロック」で現代まで受け継がれる英米戦争の元祖とも言える。
 余談だがホームズは最終回でたとえ死のうとも、ファンの後押しがあれば続編で生き返るのは簡単だ、というマンガやアニメの常道にも寄与した。

 ポーはその圧倒的な描写力や表現力で、そんなアホな!と言いたくなるような話でも、力業(ちからわざ)で納得させるバカミスの始祖でもある。

「スフィンクス」は、主人公が窓越しに、向かいにそびえる山肌を見ていたると、巨大な蛾の怪物が山肌を下ってくるのを目撃する、というもの。
 小さい頃に読んだのだが、子ども心にも「これは無理がある!」と思ったものだ。
 バカミスに必要なのは、たとえ無理のある設定でも読者に納得させる筆力なのだ。
(ポオ小説全集4 創元推理文庫)

PhotoACより

「ミッション・インポッシブル」のバカミス要素

「ミッション・インポッシブル」の前身である「スパイ大作戦」などでは、廊下や金庫などの前にスクリーンを仕立て、プロジェクターで偽の風景を映し出してその背後で工作する、という作戦があった。

 監視カメラなどに偽の風景を映し出し、背後で窃盗などを行うというのは、バカミスの常套手段だ。
 2011年の米国映画「ミッション・インポッシブル/ゴーストプロトコル」でも、原作へのオマージュとして同様の作戦を展開している。
 さすがにハイテクで武装してはいるが、この作戦自体のチープさからは免れられない。

 バカミスではありえない設定を、もしかしたらアリかも、と納得させる要素、ガジェットや人物像の描き込みも重要だ。
 
 トム・クルーズ(本名トーマス・クルーズ・メイポーザー四世(Thomas Cruise Mapother IV))も、バビル二世なみの超能力ゆえか、還暦を迎えて意気盛ん。
 7月公開予定のミッション・インポッシブル最新作にも期待したいものだ。
(ゴーストプロトコルはU-NEXTなどで配信。ツタヤでDVDレンタル)

 日本にも蘇部健一や倉阪鬼一郎、霞流一、鳥飼否宇など優れたバカミスの遣い手がいます。
 日本作品は手に取りやすいので、ぜひ代表作を読んで欲しい、と思います。

#バカミス #ミステリー #推理小説 #シャーロック・ホームズ #ミッション・インポッシブル #エッセイ

 


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