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【犬噺#2】絶滅したエキゾチックな犬たち

「絶滅犬種」と呼ばれる、もう見ることができない犬たち。そのなかには、とてもエキゾチックな外見の犬もいます。
 化石資料などではなく、近代に途絶えてしまったため、写真などでその姿を伺うことができる犬を紹介します。
(ここにupした写真やイラストは、版権の関係で絶滅犬種そのものではなく、よく似た末裔などです。「犬」という種が絶滅しない限り、よく似た系統が絶滅種の生態的地位につきます。これも自然の定めです)

イラストACより

神聖なるファラオの犬『チズム』

 チズムとは、『猟犬』の古代エジプト名になる。
 グレイハウンドをさらに細身にした身体で、体高は50センチくらいの大型犬。細く尖った顔、大きく尖った特徴的な耳をもち、巻き尾でやや明るい茶色かグレーのスムース・コート(短い毛足のトゥルンとした感触)。

 グレイハウンドなどがこのチズムの血を引くと言われ、現代のインド原産のパリア犬、先祖返りによって古の姿に戻った犬の特徴を持つ。

 エジプトより南部にあるヌビアや、その場所がわからなくなった古代プントが起源と言われる。
 紀元前3,000年頃の、エジプト初期王朝の壁画にこのチズムとおぼしき犬が描かれている。
 クフ王の墓から出土した「クフ犬(Khufu dog )」などが、初期の記録として残っている。この犬は名前までわかっており、「アクバル」君だった。

 どうです、ロマンの香りがぷんぷんしませんか?
 エジプトにはハウンド、マスティフ、パリアの三種の犬が描かれたモニュメントがある。
 また後裔とされるファラオ・ハウンドなどの特徴から見ても、「アヌビス」神はチズムがモデルとも言われる。

 アヌビスは死者の神、墓地の神。
 墓場の近辺を徘徊するこの種の犬を見て、死者の魂を守ってくれている、と考えて信仰の対象とした。


Pixabayより

古代ギリシアの闘犬モロシア犬

 現在のギリシャとアルバニアにまたがるイオニア海沿岸に住んでいた、モロシア族の犬であるモロシア犬(モロッサス)。

 その容姿は、後裔と言われるナポリタン・マスティフなどから推し量られる。体高70センチ、オスの体重は60~70キロの大型犬だ。
 その起源は諸説あり、アレキサンダー大王が紀元前300年頃の東征の際、印象に残ったアジアの大型犬を持ち帰った、とも言われる。

 ローマでは戦争にも使われたと言われ、闘犬、軍用犬としてのイメージが強い。
 闘犬として、噛まれてもダメージを被らないよう、たるんだ皮膚が発達しており、いかにも強面である。
 短毛でグレーから黒系統の色だった。

パブリックドメインQより

ペイズリーテリアは華やかなショードッグ

 ペイズリー・テリアは、スコットランド起源のテリア犬。
 その名前は、ペイズリー柄(勾玉模様)で知られるスコットランドの町に由来する。

 スカイ・テリアという英国の在来犬をショー・ドッグとして交配した系統。体高は25センチ程度。体重8~10キロ。
 
 1894年に書かれた本では、ペイズリー・テリアはグラスゴーの愛好家によって作られ、長くて絹のような被毛を持つスカイ・テリアの選別を重ねて、特徴を定着させた。

 ペイズリー・テリアは一時期人気を博したものの、スカイ・テリアからの選別種ではなく、他の系統との交配による混血ではないかと言われ、徐々に人気がなくなり、第二次大戦の頃には絶滅したと思われる。
 人為選別もしくは交配だったため、人の手が介在しなくなると系統を維持できなくなった例だ。


イラストACより

西郷どんの薩摩犬

 日本の絶滅犬としては、青森県の津軽犬や山形県の高安犬など地犬と呼ばれる、多くの地方固有犬がいる。
 こうした犬の中には、保存会などの手によって、戻し交配や生存種の発見により再生した系統もある。

 薩摩犬は猟犬として、古来からイノシシ猟などに使役されていた。
 待ち合わせのランドマークとして親しまれてきた、上野の西郷隆盛が連れているのも薩摩犬だ。
 西郷さんは「ツン」というメス犬を可愛がっていたというが、この像は別のオス犬をモデルにしており、ツンではない。今ならジェンダー・バイアスに絡んで、大問題に発展していただろう。

 1920年代に絶滅したと考えられていたが、昭和末期に鹿児島県の旧下甑村(しもこしきそん)山中で、純血種に近い犬が見つかった。
 その後、交配を重ねて1996年には薩摩犬として血統書が発行されるほど、血統は安定化した。
 しかし、2010年頃には再び絶滅への道に回帰してしまった。

 西郷さんはその後薩摩士族を率いて、明治政府に抗した戦い「西南戦争」を起こします。
 犬を愛した彼は、その戦争にも愛犬たちを帯同しますが、政府軍に敗れて自刃する前に「お前たちは生きよ!」とばかり、犬たちを解放したそうです。
 その薩摩犬たちは、他の犬との混血によって血統は途絶えたでしょうが、その末裔はちゃんと生き延び、生命の糸を繋いだことと思います。

「絶滅」というと悲しき運命に聞こえますが、環境や気候の変化に対応するため、混血によってより対応力の高い子孫に、その血を受け継いでいるケースも多くあるようです。

 犬と狼は遺伝子レベルではほぼ同種であり、その交配による子孫は、一代雑種(F1)以降まで交配可能です。自然環境下で、犬と狼が交配していたと考えられる例もあります。
 これは現生人類と、ネアンデルタール人やデニソワ人との関係性にも似ています。

 また、こうして見ると、猫より犬の方が大きさや特徴にバリエーションがあって、多様に思えます。
 
 同じ犬同士でもセントバーナードとチワワが交配することは不可能。サイズが噛み合わないほど、同種内でバリエーションがあるためです。
 いっぽう、ネコ科のライオンと虎は、異種交配で「ライガー」「タイゴン」という一代雑種(F1)を残すことができます。

 犬と猫のこのちがい、なぜだかわかりますか?
 もしわからなければ、チコちゃんにでも訊いてみてくださいね。

#絶滅 #犬 #エッセイ  

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