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化粧品マニアに送るマニアックな世界 ~ 美白化粧品 / 歴史編 ~


化粧品マニアなあなたと、よりマニアックな話を

✓ 毎年かかさず、美白ケアの新商品をチェックしている!
✓ 美白ケア商品に配合される有効成分を、3つ以上言える!
✓ 美白ケアについて誰かと語り合いたい!

3つとも当てはまっている方は、きっと美白ケアのマニア。
今回はそんなマニアの方に、化粧品のよりマニアックな世界をお届けしていきたいと思います。(シリーズ化したい…!)

是非語り合いたいのが、”美白化粧品の歴史”。
まず歴史を知ることで、日本の美意識や化粧品に関する技術がどのようにアップデートされ続けてきたかが分かり、これからの新しい技術や商品、スキンケア方法の誕生がさらに楽しみになると思います。


日本特有の美意識:「白肌」へのあこがれ

~奈良時代:原始的な化粧から美意識に基づいた化粧への発展

化粧の起源は明らかになっていませんが、縄文時代につくられた土偶の顔面にある装飾などが古代の化粧と考えられていて、この頃には既に原始的な化粧が存在していたとされています。
原始的な化粧から美意識などに基づいた化粧へと発展したのは、7世紀後半頃、大陸や半島文化の輸入とともに、白粉や紅の化粧料・化粧法が伝来したことがきっかけと考えられています。
(『日本書紀』の持統天皇6年(692年)には、「僧の観成が、鉛白粉をつくって持統天皇に献上したところ、女帝はその白粉をほめて褒美を与えた」という白粉に関する記述があります)

大陸化粧を模倣した化粧は、中国文化の美意識を反映した”おしゃれ”が意図されたものであり、また貴重な化粧品を使うことができる高い地位を示すシンボルでした。

平安時代・江戸時代~:日本独自の化粧文化の醸成

平安時代になると遣唐使が廃止され、大陸から学んだ文化を土台にしつつ、日本の感性や風土に適応した独自の文化が醸成され始めました。

化粧自体は、紅化粧・白粉・眉化粧の赤・白・黒の3色の化粧が定着していました。
なかでも、白粉化粧は高貴な身分のシンボルとして意味を持つものでしたが、大陸の「白い肌を美しいとする美意識」が引き継がれ、「白い肌は美人を意味する」ようになり、白い肌を強調するもの(化粧)となっていきました。
江戸時代には町民にも化粧文化が広がり、日本独自の化粧へと発展していきました。


上記でご紹介した顔を装飾する化粧だけではなく、肌を整えるスキンケアも発展を遂げてきました。
直近の約60年も、様々な大きな変化がありましたので詳しくご紹介します。

現代の美白化粧品の歩み

1960年~1970年代:トレンドは”小麦肌”から”白肌”へ

【1960年代:”美白化粧品”の始まり 】
<時代背景>
・外資系メーカーの日本進出によって、日本の化粧品産業は欧米化に傾倒
・高度経済成長により国民所得が向上、増えた余暇時間を積極的に楽しもうとレジャーブームが発生
・新薬事法が制定(医薬部外品の範囲が示される)

欧米で社会的地位の高さを示すシンボルとして流行していた”日焼け”を、日本に導入しようとした化粧品会社の思惑や、高度経済成長によるレジャーブームなどが相まって、 「小麦色に日焼けした健康的な肌」がトレンドでした。 ”美白”ケアという言葉はこの頃(1960年代)から使われ始めたと言われていますが、”日焼け”がトレンドだったため、定着には至りませんでした。

<代表的な発売商品>
✓ カネボウ「ソワドレーヌ ビューティCパウダー」(ビタミンC配合美白パウダー)

補足)1960年代頃の医薬部外品の有効成分
「日やけによるしみ・そばかすを防ぐ」と表現できる医薬部外品の有効成分として、ビタミンCやプラセンタリキッドが使用されていた。(当時の薬事法ではヒト試験のデータが必須ではなかったため、これらが当時、ヒトの有効性を示すデータを付けて認可されたものかどうかは定かではない。下部にも記載するが、1980年代頃に申請書類の整備が進む。)

【1970年代:トレンドの移り変わり】
<時代背景>
・1968年に化粧品の輸入が全面自由化
・1973年にオイルショックの影響を受け、化粧品出荷額は全国的に減少

海外商品との差別化を図りつつ、新たな流行の創出の必要性を感じていたこと(日本独自の美の見直し)、オイルショックの影響などによる日焼けブームの一次沈静化したこともあり、「夏は小麦肌、冬は白肌」へとトレンドが変化していきました。
それに伴い、”美白”ケアを謳った化粧水・乳液などが登場し始め、美白化粧品がシリーズ化されるようになりました。

<代表的な発売商品>
✓カネボウ「リアルビューティー」
✓アルビオン「ナチュラルシャイン」(本格的な美白シリーズ)

補足)”アルビオン/ALBION”の社名の由来
イギリスの古名で「White Land」(白亜の国、白い国)という意味し、
女性たちが夢見る“冴えざえと輝くような透明感”を重ね、追い求め、叶えたい想いを背景とした社名。業界に先駆けて本格的な美白シリーズを発売した。

1980年~1990年代:ビタミンCなどの”第1次美白ブーム”から、多種多様な”第2次美白ブーム”へ


【1980年:第1次美白ブーム】
<時代背景>
・1970年代に起きた化粧品被害「女子顔面黒皮症※1」が社会問題に、化粧品への安全性の意識が高まる 
・オゾンホールなどの研究報告などがあり、紫外線の有害性がクローズアップされる
・自然派化粧品、健康食品がブームとなり、エコやナチュラル志向が増加
・新薬事法が制定(医薬部外品の承認申請書類が整備される)

紫外線カットを謳った化粧品が注目を浴びるようになり、同時に美白に関する研究開発が活発になりました。 美白有効成分として、1983年のビタミンC誘導体に続き、コウジ酸、アルブチンの認可が下り、 ”紫外線によるシミ・そばかすを防ぐ”という発想の商品がヒットしました。
また、「美白=シミのない肌」という概念が定着していきました。

※1:色素異常症の一つで、化粧品に配合された成分によるアレルギー症状。(現在名:色素沈着型化粧品皮膚炎)

<代表的な発売商品>
✓ポーラ「ルミエラMC」
✓資生堂「UVホワイト」

【1990年:第2美白ブーム】
<時代背景>
・ バブル崩壊後、低価格志向の傾向へ
・外資系メーカーやセルフ系メーカーも美白市場に参入

美白成分として認可が下りていたコウジ酸やアルブチンを配合した商品が大ヒットしたことで、美白市場が一気に拡大し、第2美白ブームが到来しました。
また、低価格帯の美白化粧品も発売され始め、手軽な価格で簡単手軽にケアする「ライト美白」が流行し、美容液だけでなく洗顔料や化粧水による美白ケアが広まりました。

図1 コウジ酸・アルブチンの構造式

<代表的な発売商品>
✓資生堂「ホワイテスエッセンス」(アルブチン)
✓コーセー「ホワイトニングクリームXX」(コウジ酸)
✓コーセー「清肌晶」(洗顔料)

2000年代~2010年代:成分・アプローチ方法が多様化→”点”から”面”のケアへ

【2000年代:研究開発がさらに活発化】
<時代背景>
・2001年の薬事法の改正によって全成分表示が義務化、配合成分への関心が高まる
・医薬部外品において、作用機序によっては「メラニン生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という表現が認められるように

美白に関する研究開発がさらに活発化し、次々と新しい有効成分が開発されました。アプローチ方法も、従来のメラニン還元やチロシナーゼ活性阻害だけでなく、情報伝達物質の阻害やターンオーバーの促進など多様化していきました。
また、薬事法改正に伴って配合成分に関心が高まり、成分高配合の商品も増加しました。

<代表的な発売商品>
✓資生堂「HAKU」
✓アルビオン「エクサージュホワイト」
✓ロート製薬「肌研 白潤」
✓ポーラ「ホワイトショット」

【2010年代:美白ケアの解釈が多様化】
<時代背景>
・2013年、ロドデノール配合化粧品使用による「白斑問題※2」が発生
・新有効成分の承認申請時、ヒトにおける長期投与(安全性)試験に関する資料が求められるように
・2013年、EUにて化粧品の動物実験と動物実験を行った化粧品の販売が全面的に禁止
・景気低迷による所得減少から、低価格帯商品や多機能商品が増加

様々なアプローチ方法が研究された結果、これまでの個々のシミ=”点”のケアに、くすみがなく肌の内部から生まれるような”透明感”を追及する”面”のケアが加わり、トータル美白ケアの商品が増加しました。
また、紫外線だけでなく”炎症”によるシミ・色むらなどに着目した商品や、大気汚染やブルーライトなどの外的ダメージから守るケア、日中受けたダメージを夜に修復するケアなど”時間”や”通年”をキーワードにした商品も登場し始めました。
新成分の開発は白斑問題の発生をきっかけに縮小していき、既存成分の効果を高める技術や成分を届ける浸透性を高める処方技術などの開発が進められるようになりました。

※2:美白効果を持つロドデノールが配合された薬用化粧品の使用者に、白斑(肌が斑に白くなる)が発症した問題

<代表的な発売商品>
✓カネボウ「スイサイ」
✓ロート製薬「メラノCC しみ集中化粧水」
✓ポーラ「ホワイトショット QX」
✓資生堂「専科」


またここ数年でも、美白化粧品に関わる大きな出来事がありました。
2020年頃、米国で起こった黒人差別への抗議運動が世界中に広がるなか、一部の化粧品が肌の色の差別を助長させるという声があがり、ユニリーバをはじめ、ロレヤルや花王など様々な企業が”色白”や”美白”などの表現を撤廃する動きがありました。
日本を含むアジアにおいては、歴史的に独自の「白肌」へのあこがれがあり差別的要素はないとの声もありますが、今後も単一の美への固定概念をつくらないという方向性の議論は続くと考えられます。

化粧の起源から、最近の美白化粧品の歴史をたどってみましたが、いかがでしたでしょうか? 新しい発見はありましたか?

これまでも、その時代背景をもとに多種多様な研究・開発がすすめられ、技術や美意識のアップデートが繰り返されてきました。
今現在も、これからもずっと進化し続ける化粧品、これからの新商品との出会いも楽しみになりますよね。

今回のマニアックな”美白化粧品の歴史”、是非豆知識として周りの方に語り広げていただけると嬉しく思います!

今後お届けしたいマニアックな話

今回簡単に紹介した美白有効成分の種類やアプローチ方法の歴史・変移をまとめた記事や、最新の美白に関する研究報告を紹介する記事などを書きたいと思っています。 ぜひ楽しみにお待ちください!

(執筆:小笠)


参考文献
・人はなぜ化粧をするのか, 鈴森正幸, 日本香粧品学会誌, 42(1), 27-35, (2018)
・美艶仙女香式部刷毛, 溪斎英泉, ポーラ文化研究所
・近現代の日本における美容観の伝統と変容, 青木隆浩, 国立歴史民俗博物館研究報告, 第197集, 321-361, (2016)
・美白スキンケアの市場分析調査, TPCマーケティングリサーチ株式会社, 4-11, (2017)
・香粧品の有効性の歴史的変遷, 長沼雅子, 日本香粧品学会誌, 39(4), 275-285, (2015)
化粧品関連法規について, 日本化粧品工業会 (参照:2023/8/28)