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古本屋ぽらん

 (これは2019年9月27日に書いたものです)
 
今日何気なくiPhoneのメモを見返していたら、去年の夏に伊勢に行った時に出会ったおじいさんの事が熱っぽく書かれているものを見つけたので、載せます。ちょっと物を語る口調なのでいつものブログの感じと少し違いますが、文体はそのままに載せてみますね。
その時の写真と一緒に。
 
 

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伊勢旅行にきた。伊勢神宮を参拝し、美味しい伊勢海老を食べるための旅だったが、伊勢海老は実は漁ができる時期が決まっており、その解禁はまだまだ先だという。そんなの、知らなかった。自分達の無知さと無計画さにびっくりしながら、まぁそういうのもいいか。またここに来る理由にもなるしね。なんて事を話しながら、地元の美味しい料理を出してくれそうなお店に2人で入り、予想通りの美味しいごはんを食べ、あしどりふわふわ、良い気持ち〜という具合までお酒を飲んで、外に出た。
 
夜風が気持ちよくて、お互い見知った仲の"親友"と呼べるような友達と見知らぬ街で昔の話も今の話もできて、間違いなく、良い夜だった。
 
 
 
 
宿へ帰る途中、私達は蒼い色の暖簾を見つけた。そこには大きく「古本屋 ぽらん」と書いてあった。私と彼女の、丁度良い量のお酒でたのしく、素直で短絡的になった好奇心のアンテナは完全に同じ方を向き、煌々と明かりの漏れる店内に足を踏み入れた。
 

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店内には、誰もいなかった。只ひたすらに見渡せば本。詩集や哲学、歴史物から絵本まで、ありとあらゆる本が本棚に並び、積み上げられていた。どうしたらいいものか、と数分の間悩んでいたら、1人のおじいさんが帰ってきた。
 
少しびっくりしたような様子で、でもそれ以上に申し訳なさそうに私達を迎えてくれた。聞くところによると、いつもお店で一緒に店番をしてくれている猫がどこかへ行ってしまい、探しに出ていたらしい。
 
今夜は戻ってくるかわからない。どうしたものかわからないが、ひとまず店を開けておこうと思う。ぜひゆっくり本を選んでいってくれ、と言う。
 
 
私達はそんな大変な中にお邪魔してしまい申し訳ない、といいつつも、店主の好意に甘え、がめつくも自分達の気になる本を探しはじめた。時間は深夜23時近くである。もちろんそのお店の閉店の時間はとうにすぎている。が、店主のおじいさんは嫌な顔一つしなかった。
 
 
 
 
店内でお目当を物色していると、ものの数分でわかったことがあった。店主は"かなりのおしゃべり好き"だということだ。この後の話は、その"かなりのおしゃべり好き"な店主が話してくれたこと。大切なお話。
 
 

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そのおじいさんは古本屋を営みながら社会学を勉強しているらしく、その社会学での統計なども含めての話をしてくれた。
 
 
それは、世界に自分と共感できる人間は0.3%だ、ということ。この計算でいけば、334人に出会った時点で、ようやく同志を1人見つけられる、ということになる。ようは、30人の教室の中では見つけられない可能性が高い。けれど学校全体を見渡したらどうにか1人、見つけられる…かもしれない。という。
 
 
 
人間、普通になんにも意識せず生きてたら、意外と他人と出会っていない。私は保育園、幼稚園、小中高大、と通ってきたけど、田舎で育ったということもあり、私が出会い、ひと言ふた言でもいいから言葉を交わした人を集めたら、きっと1000人にも満たないと思う。もし私がきっかり1000人と出会っていたと仮定して、その中の0.3%って言ったら、たったの3人なのだ。
 
23年生きてきて、3人。多いと捉えるか、少ないと捉えるかは自分次第だが、個人的にこの数字はとても正確な気がして、ほぉ〜。と思った。そして「古本屋ぽらん」のおじいさんはそのあと、こう続けた。
 
 
「そう考えたらね、世界、いや、日本だけだっていい、1億5千万人いる中での0.3%って言ったらね、45万人。この島国の中に、私達の同志はそれぞれ、今もどこかで生活をしているんです。45万人も。どうです?そんな…自分と強く共感できる同士が45万人もいたら…仮に同時に出会えるとしたら…ねぇ。そんなの困っちゃいますよ。」
 
 
そして、こう繋げた。
 
 
「私達はね、知らないだけなんですよ。本当に…知らないだけで。でも、大丈夫。知りたい、出会いたいと思えば、絶対に見つけられます。それにね、あなた達は大丈夫です。2人で旅行できるような友達を持っているんですから。友達は宝です。大事にしてくださいね。」
 

全然知らない、訪れる予定じゃなかったような場所で、出会ったばかりのおじいさんの言葉に、私はうっかり、泣いてしまった。だって、おじいさんの言葉は、私が知らないうちに抱えていた不安に気づかせ、それをまるっと、包んでしまったのだから。大丈夫ですよ、どうにだってなりますよ、と。ぶわっと凄い勢いで世界が広がっていくようだった。どうにだってできる。何も怖いことなんかない。そう思えることが、嬉しくて、安心して、泣いてしまった。
 
こんなことは初めてだった。当たり前だ。友達が隣にいて、初対面のおじいさんの前で20代の女が泣くなんて、そんな事、そうそうあってたまるもんじゃない。
 

だけどその夜は、そうなったのだ。深夜23時過ぎ、開いているはずのない古本屋の扉は開いていた。猫が逃げ出してしまったから。店主が鍵かけずに猫を探しに行ってしまったから。そして私達はそこを偶然通りかかった。夜の空気の中、天井までびっしりと並んだ古書達が私をみていて、まるで何かの小説の中にいるみたいだった。こんなことは初めてだった。
 
 

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旅って素晴らしい。人って最高だ。
まさに小説の中の出来事のように、こうやって突然に、思ってもみない出会いをする人がいる。
私はこういうきらきらしたものをずっと信じていたい。顔をしかめたくなるくらい嫌な人も、私が思いつかないような酷いことをする人も世の中にはどうしたっているけれど、そんな人ばかりじゃない。どこかに私達の同士はちゃん居て、そしていまも生きている。
 
私はそんな人に、1人でも多く出会いたい。出会いは数ではないけれど、でもせっかく同じ時代に生まれた同士なら、見つけ出したい。話がしてみたい。そう思う。
 
 
 
本当に素敵な夜だった。
 
 

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