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レナウン経営破綻②~滞留売掛金の詳細

  レナウン経営破綻の引き金となった、恒成国際発展有限公司(山東如意の子会社)との原料販売取引に係る売掛金の滞留に関しては、顧客管理が十分でなかった印象を受ける。
 以下は、レナウンが開示した2020年3月30日付「支配株主等に関する事項について」からの抜粋。

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(注)の3を見ると、恒成国際との取引は代理人取引として会計処理されていることがわかる。収益認識基準に照らして代理人取引として処理される場合とは、商社的な取引、いわゆる口銭ビジネスが代表的な例である。収益認識基準においては、当該企業が本人として取引するのか、代理人として取引をするのかに区分して会計処理することとされている。すなわち、その企業が自ら特定の財又はサービスを提供する役割を担う場合は「本人取引」として提供した財・サービスの対価の総額を収益として認識し、その企業の役割が他の当事者によって提供されるように手配することである場合は「代理人取引」として売上と仕入の差額を手数料として収益認識することとなる。

念のため紹介すると、本人、代理人の区別の判断にあたっては、下記の手順に従って判断する。
1.顧客に提供する財又はサービスを識別すること(例えば、顧客に提供する財又はサービスは、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である可能性がある。)
2.財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうかを判断すること

   顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、次の1から3のいずれかを企業が支配しているときには、本人取引に該当する。
1.企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産
2.他の当事者が履行するサービスに対する権利(※1)
3.他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、他の財又はサービスと統合させるもの(※2)
 ※1 他の当事者に顧客にサービスを提供するよう指図する能力を有する場合には、企業は当該権利を支配している。
 ※2 他の当事者から受領した財又はサービスを、顧客に提供する財又はサービスに統合する重要なサービスを企業が提供する場合には、企業は他の当事者から受領した財又はサービスを顧客に提供する前に支配している。 

  企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、判断の基準として下記の3つが例示されている。
1.企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること
2.当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
3.当該財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権があること

 何やら小難しく書いてあるように見えるかもしれないが、本件との関係で言えば次の点を認識しておけばいいだろう。回収不能な(と思われる)売掛金の原因となった取引が代理人取引として損益計算書に純額でしか計上されていないのに、収益の総額に相当する金額の貸倒引当金の繰入が必要となる。その結果として、回収可能性に懸念が生じた途端、ビックリするぐらいの損失計上が発生する仕組みになっている。そのため、売上高500億円の企業に貸倒引当金の繰入が57億円も発生するという事態に陥っており、将来財務諸表に関する予測可能性を損なうこととなっている。

収益認識基準に沿って処理したにもかかわらず、なぜこのような結果になるかと言えば、会計基準適用以前の問題で、その前提となる販売管理や債権管理プロセスに不備があるからだと言えそうだ。

ここで2020年3月30日付「支配株主等に関する事項について」の注書を再掲する。

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注書の4を見ると、恒成国際との取引に関して連帯債務者となっていた山東如意が、その責任を履行しているかどうかに関する疑義や、後になってレナウンが担保提供を求めている点など杜撰な管理が窺える。
 担保や連帯保証の取得については、取引開始前に中国の法律事務所あるいは中国企業との取引に精通した法律専門家に対し、債権保全行為として適法有効かつ執行力があるかどうかの確認をすべきだが、そうではなかったようだ。
 勿論、連帯債務者である山東如意がレナウン自身の親会社であり、レナウン取締役会の相当数を山東如意が占めている事実があり、徹底した債権保全が事実上不可能だったことは容易に推察できる。業務の監督、監査を担う社外取締役や監査役の機能発揮が期待されるところだ。

ところで、この滞留売掛金への対応に関して、不適切に対処した粉飾事例がある。レナウン同様代理人取引であったが売掛金の回収遅延が発生し滞留。これはLCD パネル事業における売掛金の滞留であり、売掛金4600万ドルの支払が滞留することとなったところ、監査法人からの貸引計上の指摘を受けないよう回収サイトを意図的に伸長し、さらに前渡金を還流させて売掛金回収偽装を図るなどした。また、経営コンサルの助言に従って滞留売掛金の解消のために売掛金全額を転換社債化するとともに担保設定を同時に行なって取り繕ったが、実態は合理的根拠のない事業計画を基礎に株式価値を算定し、担保の適格性も無いというお粗末なものだった。

次回、旧㈱UKCの不適切会計事件について触れてみたい。

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