業務的意思決定

令和2年会計士短答式試験第1回 管理会計論 第14問

 業務的意思決定の問題を解くコツは、話の流れを整理して差額原価を上手く抜き取れるかどうかにある。逆に言えば、埋没原価を正しく把握していかに無視できるかにある。いたずらに計算をしまくって泥沼にはまらないように注意したいところ。

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 そこで本問だが、一見して問題文が長い。試験本番では恐らく後回しにする問題だとは思う。回答に不要なデータも含まれており、[資料]欄を上から順に読んで計算して行こうとすると時間を浪費する。まずは冷静に話の流れを追いかけ、「回答に必要な情報は何か」、「あえて与えられていない情報は何か」といった点に着目するとヒントが見えてくるだろう。

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 冒頭では、α製品の需要拡大により生産体制の強化が検討されており、現有人員に残業を強いるか新規採用するかを検討している。
 [資料]に目を通していくと、

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[資料]の1から、問題文が言わんとする前提条件を読み取れただろうか。おそらく、「工員5人がそれぞれの機械で就業時間8時間をフルに使って製造している」ということである。また、売上が50%増大とあるが、具体的な販売数量が記載されていないことに意識を向けよう。2,3は軽く読み飛ばし、4で残業の場合時間給が125%となるとある。ここから、8時間すでにフルで製造している状況なので追加製造分の時間給はすべて125%となる点に注意。そして1ヵ月の出勤日数が20日であることから、月の製造時間は、
5人×8(時間/日)×20(日/月)=800時間=48,000分。
これをすべてα製品の製造に充てているから、その生産量は48,000分÷10(分/個)=4,800個。
 さらにα製品全量を販売しているので、生産量=販売量=4,800個となる。よって、次月の増加数量は4,800個×50%=2,400個で総販売量は7,200個となる。現有人員に残業を強制して2,400個を追加生産させると、2,400個×10(分/個)=24,000分(=400時間)の残業が必要となる。本問は追加作業時間すべてが残業となるので、必要な残業代は400時間×@1,200×1.25=600,000となる。

[資料]5,6が交代制に関する条件である。問題文には明示的に書いていないが、工員が増えても交代勤務なので機械の追加投資は必要ない点はお分かりだろう。工員を増やして交代制にした場合の生産能力がどこまで達するかに意識しなければならないが、[資料]6を見ると余力が生じるとあり、その余力を使ってA製品の加工業務を引き受けるとのことである。したがって、下図のような状況を想定すればよい。

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そして、問題文の次の箇所の意味をよく汲み取ろう。「新規の工員も現有の工員とも1ヵ月に働く時間は変わらず、また、すべての工員の生産能力は同じであると仮定する」。後段は問題ないとして、前段から新規工員と現有工員の総就業時間をα製品とA製品にかかる総作業時間を各工員に均等に割り付ける必要がある。例えばα製品を現有工員に寄せた計算をすると、時間給単価が異なるので金額を誤るということになる。
 そこでまず、次月α製品の生産時間は、7,200個×10(分/個)=72,000分=1,200時間。すると、1人1日当たり6時間(=1,200時間÷(10人×20日))をα製品の生産に費やすこととなる。
 そして、1人1日当たり2時間の余力が生まれるので、A製品の加工に費やせる時間は、10人×2時間×20日=400時間(=24,000分)となり、受注可能な生産量は24,000分÷(15分/個)=1,600個となる。
 すると、A製品の受注で得られる利益は、(売上高@1,000-変動費@240)×1,600個=1,216,000

 ここで、賃金に着目すると、結局のところ交代制においても現有工員は就業時間内でフル稼働となるので、現有工員の「基本給200,000+時間給」は埋没原価になり、賃金に関する差額原価は、「残業代⇔新規採用者の賃金」ということになる。新規採用者の賃金=5人×(基本給180,000+@1,100×8時間×20日)=1,780,000

以上から差額の損益を比較すると、
残業:△600,000
交代制:1,216,000 - 1,780,000=△564,000
よって、2交代制の方が36,000円有利である。

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正解は5。

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