見出し画像

満天の星

走ってアパートに帰る気にもなれず
友人たちとよく集まる公園に行った。

珍しく誰も居なかった。
私はいつも、隠れたい時に行く
公園の中の奥まった場所にある建物に上り
夕日が夜に変わり星が煌めき始めるのを
ぼーっと見ていた。

あー。スーパーで買ったもの
あそこに置いてきちゃった。
せっかく、朔の誕生日だから
朔の好きなグラタン作ろうと思ったのに。
用意もう今からじゃ間に合わないな。

ぼーっと眺めながら何してるんだろと思い
俯いた。

「やっぱりここに居た」

ちょっと息を切らした幼なじみが居た。

「……なんで?あの人は?」
「お前がやだって言ったんでしょ。
チビの頃からお前はいっつもここだな。」
「あの人彼女でしょ?行ってあげなよ。」

深いため息をつきながら
隣にしゃがんで来た。

「はい。これ」

渡されたのは指輪だった。

「え……?」
顔を上げると初めてキスされ抱き締められた。
「結婚しよっか。」

「付き合ってもないのに……?」
「付き合う必要なんかなかったでしょ?
俺らには。ずーっと一緒だったんだから。
これから朝陽の家族に俺がなるから
一緒に居よ。」

抱き締められた腕の中で頷いた。

「帰ろ。」
そう言われ、泣いてた私は
俯いたまま手を引かれあの時と同じように
自転車の後ろに乗せられた。

「ねぇ。朔。好きだよ。」
「俺もずっと朝陽だけ。」

そう言われ安心した。

家に着きちょっと遅い晩御飯の用意を
二人でした。嬉しかった。
ケーキを食べプレゼントを渡した。
お揃いの指輪が左手に光った。

「ところでさ、あの人誰だったの?」
「職場の先輩の嫁さん。指輪選ぶの手伝ってもらって
俺は先輩の誕生日プレゼント選ぶのを手伝った。」
「盗られたかと思った。」
「お前あれで俺の事好きなの自覚したでしょ。
本当に鈍いなぁ……。近いうちにおっちゃんに
証人の欄埋めてもらおうか。籍入れような。」
「うん。ありがとう。」

でも、この時が多分一番幸せだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?