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「さみしい夜にはペンを持て」
つまらない大人になってしまってタスクで頭がいっぱいだからか、それとも無事に生きるための鈍感さを身につけたからなのか、さみしい夜はずいぶんと減った。結婚したことや子供を産んで物理的に夜の空間に一人でいることがなくなったいうことはこの際関係ないと思う。
出産直後の私は暖かい赤子を抱えながらもさみしくて仕方がなかったし、もっと若いころ好ましく思う人と一つの布団に寝ていたときだって、さみしい気持ちは襲ってきた。
それら泡沫のようなたくさんのさみしさは、どれとしてまったく同じものはなかったはずだけど、どうやらこの手の感情を「さみしい」「さびしい」という言葉に収納できるようだと気付いたのも、あるいは鈍感さの効用のひとつなのかもしれない。
自分の胸の底にずんと居座る、重たい感じは何の感情で、それはどこから湧き出たものなのか、ということをじっくりじっくり見つめなくても日々の駒は進めることができるし、なんならその源泉を突き止めることで知らなくてよかったことを知ってしまうこともある。
自分の心と向き合おう!自分の心の声をよく聞こう!思考を深掘りしよう!
そういった作業は、ほんとうの自分と出会って「成長」するには欠かせないことなのかもしれないけれど、生きていくのには邪魔になることだってあるでしょう?
あの人のことが嫌い、って気持ちがは実は自分の狭量な心から生まれた妬みの変化物だと気付くこと
アドバイスのつもりの声を出させているのは承認欲求だと知ってしまうこと
「今日ちょっとショックなことあってさ」のショックを細分化すると罪悪感が埋まっていることもある。
これを全部全部ちゃんと見て受け止めてるって、人間としての成熟するのための荒療治なんじゃないかと思います。
まだ柔らかい心を抱えた思春期未満の子たちは特に、自分の胸の底を覗きつつも、まだまだ人や運のせいにしたり、騒いでいるうちに悩みを蒸発させたっていいと思う。
ストイックに自分の感情と四つでぶつかり合うのは危険なこともあるので。
そう考えつつ…考えることから逃げることもありだと念頭に置きつつ。
それでもペンは、救ってくれます。読むことと同じく書くことは人間が生き抜くために実装すべき、頼もしい能力だとも思います。
この本の主人公は、学校生活に悩むタコジロー君。クラスでいじめられていて学校には行きたくない、お父さんお母さんともうまく話せず、自分の存在価値を信じられなくなったタコの男の子です。
ある日、学校に行くのがつらくなったタコジロー君は公園でヤドカリのおじさんに出会います。ヤドカリのおじさんは、自分の気持ちを「書くこと」を通して見つめ、抱え、自分を好きになり、未来に繋がる今日一日を生きる方法を教えてくれます。「日記を書きなさい」と。
具体的なアドバイスももりだくさん。
・悩みごとを書き出して「心配ごと」と「考えごと」に分ける。今の自分にできることが一つでもあるのであればそれは「考えごと」
・世界をスローモーションで見てみる(観察眼ってことだと思う)
・「ぼく」を「だれか」にしてみる。(書き言葉を一人称から三人称にすることで客観視できるようになる)
小中学生向けに書かれた本らしく、例えがわかりやすい。こうやって子供にも説明できるようになりたい。
「『すり抜けていく感情』をキャッチする網が、ことばなんだ」
「ことばが感情をキャッチするの?」
私は趣味で小説を書いたり、公開するしないにかかわらずこうやって駄文を書くのが大好きだ。それは、「ことばが感情をキャッチする」快感を味わいたいからに他なりません。
今、モヤモヤの正体を捕まえた!
「好き」のしっぽを掴んだぞ!
本質に触れそうだぞ、ぬるぬるから引きずり出して光を当ててやる!
言葉にするとそう思う一瞬があって、結局それは大いなる勘違いであることがほとんどなんだけど、それを繰り返すことによって私に見える世界の解像度はどんどん上がってく。
解像度と生きやすさに相関関係はないのかもしれないし、むしろ悪影響なのかもしれないけど(才能ある芸術家が極端な選択をするケース…)
でもどうせ生きるなら良きものも悪いものもをはっきりと見たい、というのは業が深いのでしょうか。
高校生の時に夏目漱石を読んで「こんなに世の中が見えている頭のいい人はどれだけつらいんだろう、馬鹿でよかった」と悲しくなったんだけど、あの時その悲しさをサボらずにいたら、今頃もっといい目が育っていたのかもしれないね。
そうそう、この本は海の中が舞台ですが、名作のパロディが出てきておもしろいです。「泳げメロス」とか「吾輩はウニである」とか。
キュートな換骨奪胎に笑っちゃうのでぜひ読んで欲しい。
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