見出し画像

ゲー選かけ流しvol.19 『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』

ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
今回は『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』(以下、『オホーツクに消ゆ』)。

ファミコン版から37年、原作PC版から実に40年の時を経て、最新ハードにリメイクされた本作の魅力についてまとめていく。

<筆者の『オホーツクに消ゆ』プレイ歴>
・PC版、ファミコン版含め、原作は未プレイ
・Switch版が初プレイ、追加シナリオ含めクリア済み
・記憶のかけら集め完了


フルボイスで蘇る名作テキストアドベンチャー

『オホーツクに消ゆ』は、『ドラゴンクエスト』『いただきストリート』シリーズで知られ、国内でもトップクラスの実績と知名度を誇る堀井雄二氏が手掛けたテキストタイプのアドベンチャーである。

今でこそスタンダードとなったウィンドウタイプの
コマンド選択画面。当時のテキスト
アドベンチャーとしては画期的なシステムだった。

堀井雄二氏のアドベンチャーゲームは三部作が有名。本作はその二作目にあたる。ネットで何かと有名な『ポートピア殺人事件』からビジュアル、テキスト量ともにボリュームアップした作品として知られている。

Nintendo Switchで蘇った本作は、ファミコン版のキャラデザインを手掛けた荒井清和氏が新たに書き起こし。荒井氏のキャラクターがそのままゲームに登場し、ゲームを盛り上げてくれる。

イラストの絵柄は今の荒井氏のタッチ。
ややデフォルメが利いた、縁取り太め、
シャープで迷いのない線が特徴的。

今回はフルボイスにも対応し、メインキャストからモブキャラまでバッチリしゃべる。北海道を舞台としている事もあり、北海道にちなんだ著名人もCVに参加。スタッフロールで意外なメンツを目の当たりにするかもしれない。

オリジナルの表現を「守る」という「攻め」の姿勢

『オホーツクに消ゆ』はPC版が1984年、一般的に知名度の高いファミコン版でも1987年発売の、昭和末期のゲームである。令和の時代に蘇るに当たり、他のリメイク作品と同様「大人の事情」で改変せざるを得ない描写があるかと思われた。

そんなプレイヤー達の懸念を吹き飛ばすかのように、起動時に表示される画面がこちら。本作は当時の描写を忠実に再現する旨のおことわりを入れる事で対処している。

原作リスペクトをきっぱりと主張するテロップ。
制作者の意思を感じるゲームは筆者の大好物です。

筆者が見る限り、そもそも眉をひそめるような過激なテキストは支配的ではなく、殺人事件を取り扱う関係で避けられない描写があるくらい。堀井氏の軽妙でユーモラスなテキストセンスが光る作りなので、筆者は全編通して大いに楽しめた。
新規プレイヤーから批判を受けるリスクを受容した上で、オリジナル版を尊重する本作のリメイクの姿勢を筆者は高く評価する。

オリジナルに配慮した事で踏襲されたオマケ。
ここから先はお見せできないよ!

1987年と2024年が交錯するシナリオ

本作はファミコン版のリメイクに加え、現代(2024年)を舞台とした追加のシナリオを収録。オホーツク事件で残った一部の謎についての掘り下げが行われた。

追加シナリオの差し込み方も独特。本作は現代を基準とし、オホーツク事件は過去に主人公(プレイヤー)が解決した出来事として描かれている。

2024年の事件をきっかけに1987年のオホーツク事件を
追想するというアプローチが実にユニーク。

本編シナリオの捜査を進めていくと、要所要所でシーンが現代に戻り、追加シナリオへの導入部が進んでいく事となる。

追加シナリオが本格的に展開し始めるのは本編クリア後となるものの、現代パートの存在が本編の重く難解なストーリー展開に対する良いアクセントとして機能していると感じた。

原作(1987年)のリメイク部分を、
まるごと追加シナリオ(2024年)の
回想にするという発想が非凡。

本作の魅力を理解している堀井氏とスタッフによる尽力の賜物であろう。
原作から長い年月が経過してるからこそできる手法。これが実に効果的に機能している。

良くも悪くもクラシックスタイルのシステム

発売日が近いこと、懐かしのADVシリーズの新作ということもあり、本作は『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』と良い比較対象となっている。

両作を遊んだ筆者から見て、
・ビジュアルは、キャラの造形とアニメーション豊かな『笑み男』に軍配
・ストーリーテリングは原作と追加シナリオを巧みに融合した『オホーツクに消ゆ』に軍配
・テキストアドベンチャーのシステムとゲーム性は痛み分け
といった感じ。

本作は、どの場所を訪れても使用可能なコマンドが一律で決まっている。局面に応じて選択肢が狭まる事はないので、総当たりで攻略するのはかなり骨が折れる。

コマンドの種類が非常に豊富であるため、
総当たりは避けたい。ただしフラグが複雑なため、
結果的に総当たりになりがち。

特に、電話・写真撮影・特定場所からの移動など、通常のロケーションでは意味がないとされる行動がストーリーを進めるフラグになっている事も。

プレイヤーの推理の方向性とストーリー進行フラグが必ずしも直結しないので、思わぬ局面でハマってしまい、不要な足止めを喰らってしまう。本作の数少ない欠点の一つ。

北海道で行動を共にする相棒シュン。
トランプで勝つと捜査のヒントをもらえる事も。

近代アドベンチャーゲームやサウンドノベルのように、プレイヤーの意表を突くシステムが光る作品とは異なる。
捜査の地道さや泥臭さを感じさせる作りは『笑み男』も『オホーツクに消ゆ』も同等で、どちらも今となってはレガシーなシステムである。

ご新規さんには退屈なテンポに感じられるかもしれないが、これも本作の「味」と考えられるならば悪くない。

本作は「記憶のかけら」集めがささやかなやり込み要素となる。様々な場所で特定の場所をポイントする事で見つけられるピースを集めていく。取り逃しがないよう配慮が見られる上、捜査手帳(メニュー)からヒントも得られるので、ゲームを遊んでいく過程で無理なく集められるだろう。

記憶のかけらの収集状況をメニューから確認すれば、
未取得のかけらのありかが分かる。

まとめ

アドベンチャーゲーム黎明期に産み落とされ、後にドラクエを生み出す堀井雄二氏の代表作『オホーツクに消ゆ』。40年の時を越えて新生された本作は、原作の良いところも悪いところも内包しつつ、ビジュアルとサウンドをキッチリと進化させた。

原作の表現に最大限のリスペクトを払いつつ、追加のシナリオを違和感なく絡めるストーリーテリングの妙は、原作クリア済みのプレイヤーにも改めて体験して欲しい仕上がりとなっている。

「ばぼーん!」で「しゅぽーん!」で「ほげげっ!」で
「ほげすぽーん!」で「すぽーん!」な名作。
(意味不明)

本作を一言で表すならば、
リメイクの模範演技を見せつけたテキストアドベンチャーの名作
である。


テキストアドベンチャー史に残る作品に触れるプレイヤーが増える事を祈りつつ、本作の選評の締めとしたい。

次回もよろしくお願いします。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?