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ゲー選かけ流しvol.10 『百英雄伝』(前編)

ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
10回目は『百英雄伝』。前回の『百英雄伝 Rising』に続き、先日待望のリリースを果たした本作について、筆者の思いをガッツリと語らせて頂く。

<筆者の百英雄伝プレイ状況>
・Switch版をプレイ
・本編クリア済み
・プレイ時間:60時間以上


名作RPGの精神的続編へと転生した群像劇

本作はJRPG史に名を刻むコナミのRPG『幻想水滸伝』のコアメンバーが集まり、クラウドファンディングでの資金調達の末に生み出されたRPGである。
資金調達に当たって製作されたスクリーンショットを見れば、本作を『幻想水滸伝』の精神的続編として製作しようとしていた事はシリーズのファンなら一目瞭然。その結果、世界中から4万6千人以上の支援者が集まり、ストレッチゴールを含めて目標額を大きく上回る資金が集まった。

日本国内におけるゲーム開発関連のクラウドファンディングとしては『R-TYPE FINAL2』と並んで、最も成功裏に資金調達目標を達成したプロジェクトの一つである事は間違いないところだろう。

前置きは以上とし、本作の出来栄えを見ていこう。

ソフトに構成された現代向けの戦記

『百英雄伝』は、それぞれの信条に基づき主人公ノア達の元に集った百人を超える個性に溢れた英雄達が、帝国の実権を握り諸国への侵攻を謀る黒幕と長きに渡る戦いへと向かう姿を描いた一大戦記である。

有力者達による会談シーンなど、各国の主張と利害が
静かにぶつかりあう局面など、見どころは豊富。

本作は『幻想水滸伝I』~『幻想水滸伝III』までの精神的続編としての立ち位置を確立しており、とりわけ『幻想水滸伝II』の遺伝子を色濃く受け継いでいる作品と言える。

かつて幻想水滸伝が描かんとし、いつしか止まってしまっていたペン。本作のスタッフ達がそのペンを手に取り、新たな形の群像劇を描こうとした作品である事がひしひしと伝わってきた。

メインキャラはパッケージに描かれている3人。

ノア:辺境の村から諸国連合の自警団に所属する事になった少年。帝国との共同ミッションで発見した遺物(魔導レンズ)をきっかけに運命が大きく動き出す事になる。

若さと幼さが目立つものの、決める時は決めるノア。
フルボイスの関係上、しゃべる主人公である。

セイ:諸国連合との共同ミッションでノアと知り合った、帝国貴族の次男坊。貴族としての誇りが高く、ケースリング家としての立ち位置との兼ね合いで自身のなすべき行動は何か、迷う事もしばしば。

共同ミッションでノアと心を通わせたセイ。
時に帝国貴族としての使命と運命の悪戯に翻弄される。

メリサ:森林を守護するガーディアンの少女。幼くして使命を果たすための鍛錬を積み、ガーディアンとしての実力は十分。世界情勢が大きく変動する中、外界へ目と足を向け始める。

仲間と町を大切に思う気持ちが人一倍強いメリサ。
敵勢力の侵攻に対し、怒りを露わにする一面も。

それぞれ立場の異なる3人の運命が刻々と変化する世界情勢の中で交錯し、帝国にまつわる陰謀を打ち砕くべく奮闘する。メインキャラが3人居て局面に応じて主人公が切り替わるストーリーテリングは『幻想水滸伝III』を思わせる。

主人公達と敵対する帝国側も、強力なカリスマ性を持つ名将揃いで、それぞれの思惑も様々。しっかりとしたボリュームのストーリー内で起伏の激しい展開が押し寄せてくるので、ストーリーを読み進めるパートも緊張感を持ってプレイできた。

帝国の実権を掌握せんとするオルドリック公爵。
武力・知力・戦略に優れる実力者で、
CV(中田譲治氏)的に某鉄血宰相の影がチラつく。

本作は諸国間の戦争を取り扱う割には泥臭さや血生臭さが控えめで、戦記モノとしては少々綺麗にまとまり過ぎている感はある。しかし、予想を裏切っても期待を裏切らない王道のストーリー展開は、いちプレイヤーとして非常に楽しく読み進める事ができた。

本作の見どころである英雄達は非常に個性が強く振れ幅が広い。「出てくるゲーム間違ってない?」というキャラが散見されるのも幻想水滸伝と同じで、バラエティに富んでいる。前作『百英雄伝 Rising』に登場したキャラクターが本作にも再登場するので、前作を遊ぶとニヤリとするシチュエーションがしばしば。

『百英雄伝 Rising』は、『幻想水滸伝I』~『幻想水滸伝III』のキャラクター再登場の流れと楽しみどころを提供するために作られたと言っても過言ではないと筆者は考えている。

前作の主人公の一人、CJが登場するとアガる。
CJって何の略?と思った人は
『百英雄伝 Rising』を遊ぶべし。

幻想水滸伝でも恒例となっている仲間の数によるストーリー分岐もあり、可能であれば全ての仲間を集めてクリアしたいところ。もちろん集まっていない状態のストーリーを堪能するのもアリ。

シーンとの親和性が高く耳に残る名曲群

本作はゲーム作曲家のレジェンドの一人桜庭統氏、世界一荒野と口笛が似合う作曲家なるけみちこ氏をメインコンポーザーとして本作を盛り上げている。

特に桜庭氏が手掛けるメインテーマ『百英雄伝~英雄達の出立』は勇壮かつスケール感のある曲で、本編の要所要所で流れる度にゾクゾクさせられる。筆者としては桜庭氏の代表曲と言いたい名曲。

ここぞというタイミングで流れる
『百英雄伝~英雄たちの出立』は毎回鳥肌モノ。
このためにこのゲームをずっと待ってた!と
思えるほどに。

戦闘曲はモロに桜庭節炸裂といった感じで、”テイルズ オブ 百英雄伝”と形容したくなるメロディライン。幻想水滸伝っぽくはないものの、飽きの来ない曲に仕上がっており、流石は名コンポーザーといった印象。

一方のなるけみちこ氏は『幻想水滸伝』で作曲をつとめた東野美紀氏に代わって本作の町やフィールドのテーマを中心に担当。驚いたのは、幻想水滸伝の曲と言われても全く違和感がないくらいに東野氏のテイストを受け継いだ曲群を作っているところ。

作曲者名を伏せて本作の曲群を聞かされていたら、桜庭氏は分かっても、なるけ氏の作曲だとは気づかない人が多いのではないか。それくらい東野氏に、幻想水滸伝になりきったつもりで音作りをしたのだろうと想像する。

「幻想水滸伝」の新作かな?と思えるくらいに
曲調を合わせたなるけみちこ氏のメロディ。
器用なコンポーザーだとつくづく思う。

SARAH ALAINN氏のVocalが入ったテーマ曲「Flags of Brave」は桜庭氏・なるけ氏両名による作曲で、これまたここぞという局面でかかる名曲。

また、岩垂徳行とMIZ氏は編曲として縁の下の力持ちの存在感を発揮。柳川剛氏、SiN氏による曲群もしっかりと脇を固め、ゲームを盛り上げてくれる。

これらの曲はゲーム内の本拠地を拡張していく事で名曲を好きなだけ聴けるようになる。戦乱渦巻く日常から少し離れ、名曲群に酔いしれるひと時を過ごすのも良いだろう。

バリエーション豊かで骨太なバランスの戦闘

本作の戦闘は大きく分けて3種類。いずれも幻想水滸伝の戦闘システムを踏襲しており、主に演出面でのパワーアップが図られている。

1.通常戦闘(ボス戦含む)
クォータービューによる戦闘シーンで、本作の大部分を占めるパート。タイムラインの早い順に攻撃を繰り出していく。行動・スキルの種別によってはタイムラインが前後に変動するので、スキルの発動順を意識した立ち回りが重要。

単体回復魔法は発動が早いものの、
全体回復魔法は遅いものもあるので、
場合によっては回復アイテムを使用するのも重要。

通常戦闘はグラフィック表現の進化に加えてキャラクターボイスも適宜はさまれ、幻想水滸伝の戦闘パートを正常進化させた演出となっている。個人的には幻想水滸伝くらいテンポよくアクションして欲しかったが、許容範囲といったところ。

幻想水滸伝で魔法やスキルを発動させる時に必要となる「紋章」は、百英雄伝では「(魔導)レンズ」に相当し、レンズの力を通じて様々なスキルを発動できるようになる。

レンズをセットできる数と種類はキャラクターごとに大きくバラついており、キャラクターの個性付けに一役買っている。一方、セットできるレンズのスロットが多いキャラほど基本的にはカスタマイズ性が高く有利に働くため、キャラクター間の性能・評価に大きな差がでるのが悩みどころ。

特定のキャラクターの組み合わせで発動できる英雄コンボ(協力攻撃)も幻想水滸伝のお約束を踏襲。ケレン味たっぷりのユニークな演出が光る要素で、こちらも実用性はさておき、見ていて楽しい。

英雄コンボの組み合わせは様々。
幻想水滸伝を遊んでいれば組み合わせの
パターンを色々と想像しやすいかも。

ボス戦は全体的に難易度が高く、追い詰める程厳しい攻撃を挟んでくるようになるため、ボスを撃退する瞬間まで油断ができない。この辺りのバランス調整は見事で、序盤から中盤にかけてはかなり緊張感のあるバトルを楽しむことができた。

ボス戦固有の要素としては「ギミック」があり、基本的にはギミックを発動してボスに対して有利を取っていく流れになる。逆にボスキャラがギミックを発動させる事もあるので、決して油断はできない。タイムラインをよく確認しながら発動させる必要がある。

基本的にギミックを選択してプレイヤーが
不利になる事はない。積極的に利用するのが吉。

2.戦争
戦記物として避けて通れない戦争パート。シミュレーションRPGのように編成を組み、スキルなどを駆使して勝利条件を満たすパート。

戦争パートはシミュレーションRPGの体裁を取っているものの、全体的にストーリーを盛り上げるためのイベント戦闘の意味合いが強く、決着がつくまで闘い抜くケースは少なめ。本拠地で部隊の戦力を底上げする事もできるので、最低限の下準備をしておけば戦争パートで困る事はそうそうないだろう。

指示内容は部隊の進行方向・スキル使用くらい。
フィールドも広くなく、シミュレーションRPGほどの
戦略性は無いに等しい。

幻想水滸伝の場合、戦争パートで壊滅した部隊に所属していた宿星が戦死する事もあった。(特に『幻想水滸伝』は実質ジャンケン形式だったので、ジャンケンに負けて宿星が死亡し、泣く泣くリセットするという事態が頻発した…)

百英雄伝は、部隊の英雄が戦死する事はなく、代わりにクラウドファンディングの支援者が(代わりに?)バカスカ戦死するという非常にシュールな展開となっている。「支援者はこれで良かったのか?」と思わなくもないが、戦争が行われれば人は死ぬという至極当然で残酷な事実を抽象化しない、という意味では有効な演出であると思う。

画面右下にクラウドファンディングの支援者が
戦場で命を散らしていく一部始終が告げられる。
そのためか、戦闘時間が間延びしているのがネック。

全般的に戦争パートは戦略の幅が狭い割に演出が冗長気味なので、シミュレーションRPGとしてはかなり薄味になってしまっているのがやや残念に感じたところ。せめて交戦中のアニメーションの尺は半分程度に収めて欲しかったと思う。

3.一騎打ち
ストーリーの盛り上がりどころで発生する一騎打ち。要所でイベント戦闘として行われる、演出重視のパート。

一騎打ちは幻想水滸伝と比較して演出面で大きく進化したポイント。相手のセリフに応じてこちらの立ち回り方を変える必要がある点は変わらず、それぞれの攻撃アクションの速さ・鋭さが際立っており、相当力を入れている事が分かる。

カメラワーク、スピード感等の演出美が光る。
幻想水滸伝よりも明確に上を行ったと言えるのは
一騎打ちではないかと思う。

攻撃の合間に差し込まれるセリフも非常にアツいものが多く、シーンを盛り上げるという点においては本作でも最高峰の一つ。

一方、難易度は地味に高い。適正レベルで攻略していても選択肢を2,3回間違えると普通にジリ貧で負けてしまう事が多い。一騎打ち中にシーンが変わると同じセリフでも有利不利が変わってしまうものもあり、一筋縄ではいかない感じ。幸い本作の戦闘は原則的にリトライが簡単にできるので、トライアル&エラーで乗り切るべし。

難易度は高いものの、とにかく見どころが豊富で、
見ていてグッとくる一騎打ち。
で、向こうにいるレスラー?はどちら様…?

前編は以上。ストーリー・BGM・戦闘を中心に選評をまとめた。
中編は本拠地システムと各種設備の楽しみどころについての選評を予定。
次回もよろしくお願いします。

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