見出し画像

私の原点へ会いに行く【五月雨郷】


「なんて美しいんだろう」

2022年6月、このとき受けた衝撃を私は一生忘れないと思います。
寝転がっていた身体を思わず起こし、正座をしてスマホの画面に映る刀を食い入るように見つめたあの日。あまりの美しさに息をのむという体験を初めて味わったあの瞬間。この出会いが無ければ、今の私は確実にいません。

その刀が『名物 五月雨郷』です。

私にとって五月雨郷は、刀剣の魅力に気がつかせてくれた存在。初めて「新幹線に乗ってでもこの目で見たい」という熱量を与えてくれた、特別な一口です。それまでの私はひとり旅をしたことが無く、自分に出来るとも思っていませんでした。それが一年前、五月雨郷を目指してひとり旅を決行したのをきっかけに旅にハマり、今は1~2ヶ月に一度のペースでひとり旅をするようになりました。自分でも驚きの変化です……。なので、五月雨郷に出会う前と後では本当に全く違う私になったと思います。五月雨郷は私に新しい世界を見せてくれた最初の刀なのです。

そんなわけで五月雨郷に並々ならぬ思いを抱いている私ですが、先日ついに五月雨郷の展示が始まったので早速行ってきました……!

徳川美術館

名品コレクション展示室

展示の順番に沿ってお話していきます。
まず受付から入ってすぐの部屋は名品コレクションとなっており、東京国立博物館の総合文化展のようにさまざまなジャンルの物が入れ替わりで展示される部屋となっています。刀剣類は入ってすぐ左に並んでいるので、刀好きとしては嬉しいですね。今年は大河ドラマに合わせて徳川家康の特集展示も組まれているようです。
それでは、中でも印象にのこったものを挙げさせていただきます。

太刀 無銘一文字 駿府御分物

 福岡一文字が最も繁栄したとされる鎌倉時代中期以前の刀。刃文は一文字らしい丁子で、姿・刃文ともにとてもかっこいいです……!思わず立ち止まって、じいっと見入っていまいました。
丁子が印象強い刀ですが、よく見るとハバキ元と鋒手前の刃文は割とおとなしめ。ハバキ元から物打ちにかけてぐぐっと刃文が盛り上がり、その後ストンと落ち着く感じです。
あと、このとき太刀と刀を見比べていて思ったのですが、太刀と刀って鎬の位置が結構違います……? もちろん刀によるところが大きいと思いますし、幅自体が異なるのでなんとも言えないのですが、鎬の位置によって刀の見た目ないしは印象がかなり変わるのではないかと思いました。個人的に気になるところなので今後調べることリストに追加しておきます。

こちらの刀の来歴としては、
池田輝政
→徳川家康(献上)
→尾張徳川家初代義直(駿府御分物)
という流れ。『駿府御分物』というのは家康の没後、遺品を徳川御三家へ分与したもののことです。一時は家康の手に渡ったものが、今自分の目の前にあるなんて本当に不思議ですよね。

猿猴図 伝徳川家康筆

すごく可愛かった……!今なら徳川美術館のHPに写真が載っているのでぜひ見て欲しいのですが、めちゃくちゃ可愛いです。猿らしいですが、ナマケモノみたいなゆるいお顔をしています。家康が描いたと知って驚きました。絵心ある。


企画展 極める!江戸の鑑定

五月雨郷

私が最後に五月雨郷を見たのは昨年の10月。半年以上待ちわびた五月雨郷の展示に、もう興奮で胸が一杯でした。

今回、五月雨郷は兼光と延寿国資と並んでの展示。この三口がみんなタイプが違うので、見ていて本当に楽しかった……! 五月雨郷は割と静かな作風なので、他の刀と見比べた時にその個性がぐんときわだって見える気がします。とくに隣の兼光が大きくて、刃文も動きがあるため五月雨郷との比較が面白かったです。

実は今回、個人的に驚いたことがありました。それは五月雨郷の肌。すごく見やすかったんです……! 板目の模様が細かく入っているのがよく見えます。私は今までに2度五月雨郷を見ているのですが、全然肌を見れていなかったのか!ということに気づかされました。というのも、当時の私は今よりもっと刀の知識が無く、刀を観る機会も少なかったので、肌の模様が「見えていなかった」し、「気づいていなかった」のだと思います。なので今回、自分の目で五月雨郷の肌をちゃんと認識することができたのは本当に嬉しかった! 前に来た時よりも成長して、五月雨郷の元に戻ってくることができたのだなぁと思うと、とても感慨深かったです。

そして肌と同じく、今回で刃文の解像度もかなり上がりました。一見直刃のように見えますが、よくよく見てみるとのたれの刃文があったり、刃中の働きもあって見所がたくさんある刃文。これも今までの自分は気がつかなかったところだったので、「あれ?よく見たらまっすぐじゃない!」と驚いてしまいました。
じゃあこれまで五月雨郷のどこを見ていたんだよと思われるかもしれませんが、今までは姿、鋼の黒っぽさ、ふんわりと優しい刃文が大好きでよく見ていました。もちろん自分なりに一生懸命五月雨郷を瞳に映していたわけですが、こうして振り返ってみると今はだいぶ刀を見ることに慣れましたね。今までは気がつけなかった五月雨郷の姿を見ることが出来て、本当に嬉しい……!

昨年は五月雨郷を目にすると、気持ちが舞い上がりすぎてハイな気分のまま観賞していました。でも今回は、私が五月雨郷に出会ってから丁度一年ということで、自分と出会ってくれたことに感謝しながら落ち着いて五月雨郷と向かい合うことができたのもとても良かったです。

最後に、これは完全に主観的な感想なのですが、私は五月雨郷になんだか優しい雰囲気を感じています。スタイリッシュすぎないところとか、美しいけど鑑賞者を突き放さないところとか。刀剣の形容としてはおかしいのかもしれませんが、私は五月雨郷が ”自分に寄り添ってくれるあたたかい刀” だなと思っています。今後自分の感じ方が変わることはあり得ますが、今の私には五月雨郷がそう見えているのだということをここに書き留めておこうと思います。


小サ刀 無銘 国俊

迫力がすごくて、思わず「おお~」と声が出そうになりました。刃文も肌も存在感があり、物々しい雰囲気が漂っています。小サ刀とありますが、大きさは脇指ぐらいかな。(なんで小サ刀という表記なのかは謎です。気になる。)
実は観賞メモに「刃文すごい これなんていうの」と書かれていたのですが、肝心の刃文を描写してなかった(泣)。 とにかく刃文を見て「すごい!」と思ったことはよく覚えているのですが、具体的な部分がよく思い出せないのです……無念すぎる……。期間中にまた行くつもりではあるので、その時はちゃんとメモするようにします。(>_<)


特別展 よそおいの美学

今の時期のメインとなっている展示です。こちらもめちゃくちゃ面白い展示でした。そう、武士の装いといったら、もちろん刀!ですよね。ここでも刀剣関連がピックアップされてるので、要チェックです。

鶏卵皮研出塗刀拵

白い塗装に細い黒線が細かく描かれている……と思ったら、『割った卵の殻を敷き詰めている』という鞘でした。 そんなのアリ?!と思わず目を見開いてしまいました。笑 面白い技法ですね。

短刀 無銘貞宗 (名物 上野貞宗)

肌が見やすいです。貞宗と聞いて、以前見た石田貞宗を思い出しました。石田貞宗も肌がよく見える刀だったなぁ。

「上野」は「うえの」ではなく、「こうずけ」と読みます。名前の由来は本多上野介正純という人物が所持していたことから。刀の来歴としては、以下のような流れです。

本多上野介正純
→徳川家(本多上野介正純が将軍暗殺の疑いをかけられ流罪。上野貞宗は没収)
→尾張徳川家 義直(千代姫輿入れの祭に引出物として贈与)
→以来尾張徳川家に伝来

名前の元となった本多上野介正純が流罪になっているのはなんだか寂しいですね。いつから上野の名がつけられたかは存じ上げませんが、将軍暗殺を企てたとする人物の名前を刀につけるというのも個人的には少し疑問に思います(^^;) なんか縁起悪そうじゃないですか……?

ちなみに千代姫輿入れの際には五月雨郷と後藤藤四郎も引出物として尾張徳川家へ渡っています。当時の武家にとって日本刀がどのような存在だったのかが垣間見えますね。


刀 朱銘 兼氏(花押)

作者とされる島津三郎兼氏は、正宗の門人のひとりとされている人物です。たしかに、地鉄のキラキラ感は正宗に似ているかもしれません。刃文は大胆に動きがあります。

兼氏は大和伝を習得したのちに正宗に弟子入りをして、大和伝と相州伝を合わせた美濃伝の源流を作った刀工。美濃は現在の岐阜県あたりのことで、戦国時代には名だたる武将と距離的に近かかったため、日本刀の需要が上がり繁栄した流派です。
私はこれまで美濃伝に注目して見たことが無かったので、これを機に美濃伝の刀の勉強もしたい!と思いました(^^)


黒地子犬に雪持万年青文筥迫

筥迫(はこせこ)とは、今で言う化粧ポーチのこと。これ、子犬の刺繍がしてあって本当~~~~~に可愛いんです!!期間中(~6/28)は公式HPで見られるので、ぜひ見てください。本当に可愛いです。現代の代物言われても全くおかしくないデザイン。

武家の女性もこういった可愛らしいアイテムを身につけて、気分をあげていたのでしょうか。そう考えるとかなり親近感が湧きますね。
ちなみに何故子犬の刺繍がされているのかというと、犬は「安産・多産の象徴」であり「子孫繁栄」の意味が込められているからだそう。そういう隠れた意味を知ると時代背景を感じます。

他にも、煙管(キセル)入れや着物など、女性の持ち物は本当に華やかで可愛らしくて見ていて楽しかったです。

最後に

展示の感想まとめ

やはり今回は何と言っても、五月雨郷を再び見ることが出来たのが本当に嬉しかったです。
私が五月雨郷に出会ったのは丁度一年前のことなので、この時期にまた徳川美術館で五月雨郷を見るというのは、私にとって特別な意味がありました。五月雨郷に出会ってなかったら、こうして日本刀を追いかける日々はきっと無かった。こんなにも面白い世界を知らずに生きていたんだろうと思うと、五月雨郷は本当に私の人生を変えてしまいました。こんな風に思える何かがあるって、すごく嬉しいことですね。改めて五月雨郷との出会いに感謝です。
どんなにたくさんの刀を見ても、私はまた五月雨郷の元に戻ってくるのだと思います。これから先も、そうして何度も此処に足を運べたら……、それはすごく幸せなことだなぁ。そのためにもっと勉強して、仕事をして、身体を健康にして過ごしたいと思います。


おまけ 名古屋で食べたもの

○ BUCHO COFFEE

大人気のモーニングに行きました。小倉あんときなこペーストのトーストがめちゃくちゃ美味しい。店内も昭和感があって素敵です。

ちなみに、平日の開店15分前くらいに行きましたが、既に人が並んでいて15〜20分くらい待ちました。ご参考までに。

○矢場とん

前回来た時に長蛇の列で食べれなかったので、リベンジしに行きました。予約もして準備ばっちり。楽しみにしていた味噌カツはめちゃくちゃおいしかったです……!味は結構甘めですが、辛子などをつけて味変も出来ます。また行きたい(^^)


○徳川美術館 コーヒーラウンジ

こちらの喫茶店では季節ごとに異なる和菓子が提供されています。展示物に合わせたメニューもあるので必見です。
私が今回頂いたのは、五月雨郷のケーキ! 

菓子切りが刀の形をしていて可愛いです


これは五月雨郷の展示が始まると出てくるスイーツなので、五月雨郷を見た日の思い出にはこのケーキの存在があります(^^) 毎回違う場所で違う味を楽しむのも良いですが、私は「ここに来たらここ!」って感じのお決まりルートを作るのが好きなので、多分今後も五月雨郷の展示の際はこのケーキを食べに行くと思います。笑 


旅を振り返って

今回は時間を気にせずに展示を楽しめるように、徳川美術館以外の予定は無しで行きました。(前回観光をたくさんしたら、時間が無くなってしまったのが反省点だったので^^;)おかげで心置きなく刀との時間を楽しむことが出来たので良かったです。ひとり旅初心者の頃は「刀も見て!観光もして!おしゃれなカフェにも行きたい!」と予定をぎっちり立てていましたが、今はとにかく刀優先、時間が余ったら寄り道するか~くらいのゆるい気持ちになりました。予定が詰まった旅も大好きですが、今の自分にはゆる旅のほうが合っている気がします。
名古屋はきっとこれからも何度も訪れることになる場所だと思うので、少しずつ開拓していくつもりです。

では、また五月雨郷に会いに行くその日まで。ばいばい名古屋!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?