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使用者による安易な「能力・成果主義的賃金制」導入に疑問―リフレキシビティの勧め―(その2)

そもそも労働者にとって、賃金は最大の関心事のはず。また、働きに応じた対価としての報酬は当然の権利でもあります。そこで法は、労働条件につき労使対等決定原則(労基法2条、労契法3条)を定めています。そうであれば大切な賃金につき、使用者が一方的に決定してしまう―形式的に労働者との協議の機会を設けたにせよ―ことは不当であり、また不合理なものだと思われます。労働分配自体をコストと見做す労働観のあらわれです。しかし、本来の目標管理とは、「企業の客観的必要(目的)を個人の主観的な目標に変換し、成果の達成を確かなものにする(ドラッカー)」というものであったはずです。

そこで私は、使用者には労働者の能力・成果につき、労働契約上の信義則(民法90条)に基づく「公正・適正評価義務」が存すると考えます。すなわち、評価基準の開示と内容の客観性や妥当性についてです。また、評価結果の全面開示やそれに対する当該労働者からの不服申立て手続きの制度化です。そのうえで、もし使用者がそれらを遵守しない場合には、その義務違反として労働者に対して損害賠償ならびに適正評価なら得られたであろう賃金との差額を支払う必要があるとするものです。だが残念なことに、現時点での裁判所の判決でこの「公正・適正評価義務」という考え方が採用された例は多くありません

そうすると就活中の学生諸君は、せめて志望企業の賃金制度を含めた待遇につきよく調べ(質問・確認)ておくことが必須になります(もちろん労働組合の有無も)。せっかく入社して精励したにも関わらず不当に低い評価では、その後の仕事へのモーティベーション(motivation)にも影響することでしょう※ くれぐれも、ブランド・イメージや広告や宣伝のノウハウによる表見的な「企業情報」に欺かれないことです。そこは、君たちの今後の生活の原資を得る大切な場なのですから。使用者による機会主義的行動に翻弄されぬため、こうして私がリフレキシビティを勧める所以です。

※新規学卒就職者(2020年3月卒業者)の就職後3年以内の離職率は32.3%(1年目10.6%、2年目11.3%、3年目10.4%)。厚労省調べ。

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プロフィール

及川 勝洋(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。