笹つり
漁場で笹が釣れる、という噂を知人から聞いた。
笹なんぞつってどうなる、と思ったが、どうやらその釣った笹に願い事を書くと、十分の五の確率で叶うらしい。
約分すると二分の三か。
いやいや、違うぞ、五分の二だ。
待て、これも違う。
数学が苦手すぎる僕は、ずっと、頭が良くなることが願いだった。
結局僕はその漁場へ足を運ぶことにした。
釣り竿の糸を垂らし、しばし待つと、手応えがあった。
思い切り引き上げようとするが、体が引っ張られていく。
全身に力を込めると、すごい反動が来て、笹が釣れた。
勢い余って倒れ込むと、笹が顔に覆い被さってきた。
その笹には、びっしりとフジツボや海藻がくっついていた。
家に持って帰ろうとそれを掴むと、何かぬるりとした感触があった。
葉っぱをかき分けると、そこには半分溶けかかった紙があった。
目を凝らすと、「部長に怒られませんように」と読み取れた。
僕は、それをじっと見つめた。
この下手くそな字に、僕は見覚えがあった。
これを教えてくれた同僚のものだ。
僕は、すっかり意気消沈してしまった。
「だめだ…」
まさに今日、会社でミスを犯し、部長に散々怒鳴られていたあいつを思い出し、僕は笹をそっと海へ帰した。
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