フラミンゴ
僕は彼女に呼びかけた。
「君の出身地はどこなんだい?」
ああ、と彼女は思い出したくもないと言った様子でつぶやいた。
「フラミンゴの権化みたいなところよ」
フラミンゴか、と僕は考えた。
あまりフラミンゴには、いい思い出がないのだ。
「朝から晩までフラミンゴよ。フラミンゴ以外の概念が、あそこにはないんだわ」
そんなところ、間違っても行きたくないはずなのに、なぜか僕は、フラミンゴに埋もれる妄想をして、ちょっと、いやものすごく行ってみたくなってしまった。
「そこには、どう行けばいいのだろう」
そういうと、彼女は一瞬、血の気の失せたこうもりのような顔をすると、目を見開いた。
その目は、どこからどう見てもフラミンゴの目だった。
フラミンゴの目なんか意識して見たこともないのに、なぜか僕にはしっかりとわかった。
彼女は目を見開いたまま、僕の羽をむしった。
僕に羽なんかないはずなのに、それを彼女はむしる。
ついには、全てを彼女はむしってしまった。
羽だけでなく、人間だという証を全て。
全てをむしり終わった彼女の目は、元の茶色がかった黒に戻っていた。
でも、僕は人間でもフラミンゴでもなくなってしまった。
僕は一体「何」として生きていけばいいのだろうか。
その答えを見つけるには、もう遅すぎた。
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